2005年11月26日

一日中、歌舞伎。

久しぶりに、歌舞伎を楽しみました。
しかも、世界無形遺産に選ばれた日に、丸一日。

今日千
(芝居小屋が火事になるなんて縁起でもないので
 「秋」という字は使いません)
を迎える国立劇場の『絵本太功記』です。

なんと主役は、明智光秀。

本能寺の変で信長を倒し、13日目に秀吉に討たれる
(俗にいう【三日天下】はあくまでも「極端に短い期間」の例えです)
という実話を元にした人形浄瑠璃が下敷きになっています。

僕もですが、これを観ると、間違いなく光秀ファンが増えるそうです。
それは、単なる反逆者ではなく
“極めて人間臭い男”として描かれているから。

光秀は、傍若無人な振る舞いをする信長に
「もっとリーダーらしく、大きな心をもって下さい」
とアドバイスするのですが
かえって、謀反の疑いをかけられてしまいます。
そこで真意を探るため、信長は雑用係に光秀を挑発させ
「殿中で斬りかかるとは何事っ!」と迫りつつ
鉄扇(武士が戦場で使った骨が鉄製の扇子)での攻撃を指示。
光秀は着物の袖を破られたうえ、眉間も割ってしまうのです。
主君から罰せられるならまだしも
自分より目下の者から辱めを受けるというひどい仕打ち。
これに耐えただけでも立派なのに
光秀は、蟄居(外出禁止)を命じられます。

だから
「こんな暴君を野放しにしていたら
世の中のためにならない!!!」

と意を決して、かの有名なクーデターを起こす・・・

つまり、理由は“正義のため”。
でも、そのせいで母親からは親子の縁を切られ
愛する息子を秀吉との合戦で失い
障子の向こうにいる人物を秀吉と決めつけて竹槍で一刺しすると
実は母親(!)だったりするんです。
しかも「こんなことになったのは、どんな理由があろうと
お前が信長様に背いたから」と戒めながら
母は自分でさらに竹槍を胸に深く刺し、命を絶つ、という具合に
家族がバラバラになっていくのは痛々しいばかりでした。
それでいて光秀は、肉親の息絶えていく姿を目の当たりにしながらも
ひたすらジッと目を閉じて押し黙っているのです。
息子は「顔が見たいけれど、もう目が見えぬ。父上!父上!」って
叫んでいるのに何も言わず
ここにいる、とばかりに自らの太ももを
パシッ、パシッと叩いて音を出すだけ。
母がどんなに苦しんでいても、知らんふり。
なのに2人が死んだ瞬間、むせび泣くんですよ!
終演後、光秀役の中村橋之助さんは
『そこに、彼の素直になれなかった孤独な性格が
 表現されていると思うんですよ。
 もっと早く泣ける人間だったら、歴史は違ったでしょうね』
としみじみ語っていました。


この話をぶっ通しで観たのが12時から4時半。
その後、夜7時から9時までは
【社会人のための歌舞伎入門】で、母子との死別のくだりのみ。
つまり、全く同じ“死別”の部分を、一日で2度観たことになります。
で、面白かったのは2度目の方でした。

歌舞伎って、繰り返しの鑑賞に堪えられる本物の娯楽なんですね。
まだ表紙さえ開いていない「信長の棺」もリアルに読めそう!

歌舞伎、さまさまです。

投稿者 斉藤一美 : 2005年11月26日 03:27

 

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