2009年06月14日

信じ難い悲報

局アナの分際でエラそうなこと言いやがって!と
思われることは百も承知です。
しかし、このブログを書かなければ
プロレスを35年間も愛し続ける者の一人として
明日を迎えることができません。
謹みつつ、思うままに言葉を紡がせていただきます。

もう「三沢のエルボー」が見られないなんて、信じたくありません。

あくまでも私事ですが・・・
収録で北斗晶さんをお迎えして、話題の映画【レスラー】を観て
蝶野正洋選手を生放送にお招きした“プロレス漬け”の1週間の最後に
三沢光晴選手の訃報を知らされるとは夢にも思いませんでした。

今日のソフトバンク×巨人戦前のベンチでも
もっぱらその話題になったのですが
僕とやりとりした方々は皆、一様に・・・

プロレスって、そんなに危険なものだったんだね

・・・という反応でした。
何せ嗜好性の強いジャンルなので
興味のない人は「プロレスが何たるか」など全く理解できないことは
こちとら幼稚園の頃からイヤというほど味わってきたので
いつもなら気にも留めません。
プロレスラーは一流であればあるほど、高度な技術に裏打ちされた
極めて危険なショーを見せてくれることなどファンにとっては常識です。

でも、大スターが命を落とさないと
この常識が理解されない世の中だったのだ、と
改めて思い知らされました。
さすがに今日ばかりは、言いようのない淋しさを感じています。
心をワシ掴みされるような素晴らしい試合に出会わずに
格闘芸術・プロレスの虜にならなかった方の、何と多いことでしょうか。

プロレスは“受けの美学”を理解することから始まります。
自分が持つ最高の技を見せると同時に
相手の技もしっかりと受け止めるからこそ
観客は彼らが創り上げた戦いの世界に没入できるのです。
その代わり、肝心の技がショボければ
誰一人として心を酔わせることもないでしょう。

つまり、繰り出す技に“説得力”を持たせなければいけないのです。

例えば、バックドロップ一つ取っても、
「遅く低く」よりは「速く高く」の方が
見た目も、与えるダメージも効果抜群のように思えますよね。
世界一目が肥えている日本のファンを満足させるために
結果として選手達が選んだのは、揺るぎない説得力。
つまり、もっと激しいファイトスタイルを模索する道でした。
それは、プロレスの基本である『受身』の上達なくしては
取り返しのつかない結果を招くかもしれない
危険性もはらんでいたのです。

その先駆者こそが、三沢光晴選手だったように思います。

試合中に、彼が突然“虎のマスク”を脱ぎ捨てた瞬間に
我が国のプロレス革命は起きました。

大柄な外国人選手が使うからこそ効いているように見えた
エルボー(=ヒジ打ち)を、決して体が大きくない三沢選手が
大エース・ジャンボ鶴田選手の顔面にガンガン叩き込む戦いぶりは
歴史の教科書で学んだ『下克上』という言葉を
肌感覚で味わった気分で、とてもワクワクしたものです。

特筆すべきは、試合の長時間化。
昔のプロレスは、TVの生放送や
あまり休みのない過密スケジュールを考慮したものなのか
主力選手の試合で20分を越えることは珍しかった記憶があります。
それなのに、三沢選手が急速にスターダムを駆け上がった当時から
「30分以上」が標準サイズになっていきました。
しかも、驚くことにその中身がとても濃いのです。
間断なく繰り出される必殺技の数々に
「さすがにこれで終わりだ」と誰もが思う中
お互い、3カウント直前に跳ね返す不死身ぶりを目の当たりにして
観客は激しく床を踏み鳴らして興奮する・・・という流れが
いつ果てるともなく続きます。
こうして、プロレスファンは
三沢選手が標榜するスタイルを熱烈に支持するようになり
ひいては、女子プロレスのリングにも
同様の激しさを求めるようになった末に
北斗晶という記憶に残るラフファイターが生まれたのだ、と
僕は確信しています。

時は経ち、もはや当たり前のように披露される技となった
高角度の危険なバックドロップを浴びたきり
二度と目を開けることのなかった三沢光晴選手の受身は
「体がくの字に折れた、いつになく不自然な形」と報道されています。
さぞ、無念だったことでしょう。
心よりご冥福をお祈りいたします。

これを機に、現役選手の皆さんは
激化の一途を辿ってきたファイトスタイルを見直すのでしょうか。
それとも、三沢選手の遺志を継ごうじゃないか!とばかりに
何も変えることなく粛々と戦い続けるのでしょうか。
どちらにせよ、力道山が種をまき、馬場と猪木が見事に育てた
“日本のプロレス”という大樹を、絶対に枯らして欲しくはありません!

投稿者 斉藤一美 : 2009年06月14日 22:46

 

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