2010年06月21日

2冊の本と、2人のピュアな男たち

まずは、こちらの名優。

tensaikatsu.jpg

不朽の名作《座頭市》でのハマリっぷり。
世界進出するはずだった《影武者》で、まさかの主役降板。
視聴者を混乱させたドラマ《警視K》の制作。
“豪放磊落”という言葉は
勝新太郎のためにあるものだとばかり思っていました。

実はその正反対なのです。
言わば、繊細無比。
【天才 勝新太郎】を読むとイヤというほど分かります。

美的感覚が鋭く、創造力に秀でているため
スタッフの用意した台本からセットから全てが気にくわず
一からやり直しさせて、自分の思うように作り変えたものは
皆がグウの音も出ないほどの圧倒的な出来栄え。
収録した映像の編集にまで首を突っ込み、寸暇を惜しみながら
常に自分の手でベストな形を模索していたそうです。

生半可な作品を世に出してなるものか!とばかりに
どこまでも自分の理想を追い求める執念は
言うまでもなく純粋なプロ意識があればこそ。
“天下の勝新”に引っかき回されたはずなのに
彼に関わった方々が何ともいえない笑顔で証言していた、という
筆者のあとがきは大きな救いです。
これほど魅力的な天才に一度お目にかかりたかったです!

もう一人のピュアな男は、渋川春海(はるみ)。

tenchimeisatsu.jpg

言わずと知れた、今年の本屋大賞・第1位の作品です。
「歴史小説」でありながら「理数系の話」という
僕の苦手な両分野が重なっているので
本来は読むこと自体ありえません。
それでも“全国の書店員が最も売りたい本”に推された以上は
難しい内容であるはずがない・・という賞への信頼感から
気楽にページを繰り続けてみると、これが大正解!

主人公・渋川春海は江戸時代の囲碁棋士でありながら
今風に表現するならば、数学オタク。
学ぶことへの純粋な向上心が周囲に認められ
挙句の果てに『日本独自の暦』を創り上げて
天文学の開祖と謳われるまでの数十年間が
この【天地明察】では実に微笑ましく描かれていました。

一局終えたからといっていちいち気を緩めず
勝とうが負けようが常に平常心を保つ、という
囲碁の世界における「残心の姿勢」で振る舞えれば
この先の人生は変わるかもしれない、と今、僕は本気で思っています。

勝新太郎と渋川春海の生き様を教えてくれる2冊の本には
何色にも染まらず、純粋であり続けることの尊さがにじみ出ていました。

投稿者 斉藤一美 : 2010年06月21日 23:53

 

(C) 2005, Nippon Cultural Broadcasting Inc. All right reserved.