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2009年07月21日

朗読紙片第8回「アンモナイトの夢」

朗読紙片第8回「アンモナイトの夢」

を掲載致します

目で見ながら、もう一度、松井五郎さんの世界を感じてみては

いかがでしょうか・・・


アンモナイトの夢

あれは4億2000年前
イアぺトゥスの海の浅瀬
光の粒を浴びながら
わたしは夢を見ていた

疾風の速さで地を這う蛇
雄叫びを上げて舞う鉄の鳥
灰色の森は泥の息を吐く

その瞬きの一瞬で
時はいくつもの扉を開き
我こそが支配者と名乗る
命の醜い連鎖を許す

石の河に溢れる獰猛な捕食者
手を汚さない匿名の哲学者
盲目の蜂に既に帰る巣はない

たとえ生まれても
ひとりでは立つこともできない
この惑星で一番ひ弱なその生き物は
神から手に入れた火を
天に向け 地に放ち
自らの時を焼きながら
愚行を繰り返す

どこかで雷鳴の轟く瞬間に
いつか目が覚めるのか
すべてが悪い夢だったと
いつか目が覚めるのか
問うことばに終わりはなく
答えもまたきりがない

それでもじきに
雪解け水のせせらぎ
新たな季節を告げる音が
螺旋の中心から聴こえてくる

野を埋める春の花々
蝶の羽音に身を委ね
稚魚の群れは流れのままに
無邪気に鰭を動かすだろう

それは4億2000年後
ローラシア大陸の果て
暗黒の鍵を開いた土地
わたしはまた夢を見ている

風は風 水は水
なにものも
それ以上でも
それ以外でもない 世界

風は風 水は水
なにものも
それ以上でも
それ以外でもない 世界

風は風 水は水
わたしはまだ夢を見ている

投稿者 agqr : 2009年07月21日 13:03

 

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