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2009年06月19日

朗読紙片第6回「のすたるぢやの青い猫」

朗読紙片第6回「のすたるぢやの青い猫」

を掲載致します

目で見ながら、もう一度、松井五郎さんの世界を感じてみては

いかがでしょうか・・・


のすたるぢやの青い猫

無彩色の街の輪郭に
夕闇がもうすぐ線を引く
向こうとこちらを隔てる風は
逃げてしまった金糸雀の
羽根の匂いをさせている

痩せて剥き出す骨を鳴らして
また腹の虫がやかましい
あれはいつのことであったろう
愚かで醜い生き物に
もらった餌が懐かしい

もう世界には誰もいない
でも世界はこんなに美しい

人はどこへ行ったのですか
私の首に鈴をつけたまま
雨乞いの祈りの続きを教えもせずに
夜明けに消えた夢の続きを教えもせずに

空き家の屋根に錆びたアンテナ
ちぎれた星の尾が掛かる
どこかの部屋に置き去りの
巻き残ったオルゴール
最後の音が静かに鳴った

蓋をせねばならない記憶を
どれだけ抱えて生きていくやら
夕立ちが刺さった道の轍に
架かる虹を渡ってみせた
あの金魚売りも二度と来ることはない

もう世界には誰もいない
でも世界はこんなに美しい

人はなにを知ったのですか
ネズミの群れを水辺に誘い
つがいにしかなれない命の絶望に迷い
孤独にはなれない絆の希望に背いて

人はどこへ行ったのですか
私の首に鈴をつけたまま
雨乞いの祈りの続きを教えもせずに
夜明けに消えた夢の続きを教えもせずに


投稿者 agqr : 2009年06月19日 17:12

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