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2011年03月27日

石井徹也の「らくご聴いたまま」 三月上席分

おなじみ石井徹也(放送作家)さんによる「らくご聴いたまま」レポートです。
三月上席(三月一日~十日)ぶんをUPいたします。
皆様のご意見はいかに?

★このレポートは三月十日夜に書き上げられたものであり、震災前のものです。 
震災後の視点は入っていません。 
ブログ更新が遅れましたが、「震災前夜」までの、日本が平穏無事だったころの  レビューとしてお読みください。
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◆3月1日 池袋演芸場昼席

助六『虱茶屋』/左遊『煮賣屋』//~仲入り~//Wモアモア/米福(壽輔昼夜代り)『壷
算』/夢太朗『長屋の花見』/東京ボーイズ/遊三『鼠穴』

◆池袋演芸場夜席

小曲『牛褒め』/小痴楽『強情灸』/花/小笑『悋気の独楽』/壽輔『英会話』

★遊三師匠『鼠穴』

30分一寸で、どちらかと言えば噺の骨格中心。併し、「蔵の中ァ、春の支度が入っと
るだから」等、蔵の中身に配慮したこの噺は初めて聞いたし、兄貴、竹次郎のリアク
ションの大きさなど、圓生師匠譲りのキレと迫力を感じさせる点は多い。

★米福師匠『壷算』

瀬戸物屋での遣り取りを十分に演じてタップリ。ギャグを増やすでなく、瀬戸物屋の
商人らしいキャラクターでパニックに陥る様子と、兄貴分の丸で詐欺の香りもさせな
い、サラッとした騙りの組み合わせで無理なく笑わせたのは感心。弟分も瀬戸物屋同
様、兄貴分の手口が最後まで分からないのが可笑しい。オチは「一荷と二荷の瓶二つ
にこの三両もお持ち帰り下さい」

◆3月1日 「噺小屋in池袋 弥生の独り看板~小満ん雪月花(東京芸術劇場ホール
1)

志ん吉『桃太郎』/小満ん『盃の殿様』/小満ん『夢金』//~仲入り~//小満ん『』

★小満ん師匠『盃の殿様』

フンワリと情緒中心で軽妙に。殿様の品の佳さと遊堕惰弱ぶりは愉しい。花扇のイ
メージは十分に感じられるが、出番をもっと増やしたい。また、彌十郎の困惑をもう
少し強く出して欲しいかな。

★小満ん師匠『夢金』

浅草の昼主任で伺った時に比べると、途中で言葉違えやリズムの狂いがあり、熊の世
話物的滑稽さや侍の堅さが十分現されたとは言いにくい。侍が最初、船宿の戸を叩く
音から連想される雪灯かりの中に立つ二人の姿はイメージ出来るし、熊が戸をちょい
と開けて屋根船の中を隙見する場面の良さなど、佳点は多々あるのだけれど、全体に
浅草主任より締まりがない、というべきか。

★小満ん師匠『景清』

小満ん師にしては随分派手な演じ方に終始したのには驚いた。定次郎も職人気質の強
い江戸っ子。あくまでも陽気で、泣き言は最後の着物の縞目の件くらいと、黒門町系
盲人噺の息苦しさがなく、これまで小満ん師で聞いた『景清』中、今までで一番落語
として面白かった。それでいて、清水の石段を登る杖の音で『奇蹟の丘』に共通する
「生きる重さ」を一瞬だけ感じさせるなど、細部の目配りは行き届いている。目が開
かぬ恨み言や石段を降りる途中の罵声も生々しくなり過ぎないのが佳い。石田の旦那
の親切もお節介臭くない、真に心栄えの嬉しいもの。ラストシーン、月明かりで着物
の縞目が見えた件で、ひと言も「月」と言わず、月の光を感じさせる演出は小満ん師
ならでは。勿論、この趣向を嫌う人は嫌うだろうが、私はこれで嬉しい。

◆3月2日 池袋演芸場昼席

可女次『転失気』/ぴろき//遊吉『ひと目上り』/壽輔『堀の内』/小天華/助六『虱茶
屋』/圓『悔み丁稚』//~仲入り~//Wモアモア/左遊『猿後家』/夢太朗『佐野山』/
東京ボーイズ/遊三『火焔太鼓』

★遊三師匠『火焔太鼓』

張りがあって良い出来。甚兵衛さんは志ん生師匠みたいに、フワフワと変な人ではな
いのだが、序盤は怖いカミサンの突っ込みが可笑しい。終盤の「おや、お前さん、馬
鹿が大きくなったね」は相変わらず愉しい。中盤は遊三師ならではの大声が活きて、
甚兵衛さんのアヤフヤさに対して稍中っ腹気味になった侍の剛直な突っ込みが実に効
果的で可笑しい。「十万両!」の形や、侍

の言う三百両の意味に漸く気づいて甚兵衛さんが慌て始める仕種は「遊三師匠にこん
な不思議な仕種の要素が」と驚くほどに愉しい。

★壽輔師匠『堀の内』

壽輔師匠では初めて聞いた。突っ込みの調子が全体にキツイが主人公の慌て者ぶりは
可笑しい。

◆3月2日 馬生カフェ寄席(らくごカフェ)

駒松『小町』/馬吉『まね馬鹿・金明竹』/馬治『厩火事』//~仲入り~//馬生『付き
馬』

★馬生師匠『付き馬』

志ん朝師匠のような「見事な攻めの詐欺師」ではなく、『時そば』の成功した男をス
ケールアップしたような、洒落と騙りが半々な雰囲気の素軽い主人公であり、タチは
悪いが憎めない「守りの詐欺師」。若い衆に袖を掴まれ、「お手軽、お手軽」と誘う
言葉にニコニコし乍ら、風に柳と身を任せて行く軽妙さが可笑しい。一寸マジになる
のは「お手軽は嫌だ、お手重といこう」

の件くらいで植木等演じる・平均みたいなノリで終始する。高見順から『如何なる星
の下に』の主人公かね。芸者5人に幇間は2人と遊びも具体的。翌朝、若い衆を軽い調
子で店外に連れ出すと、お茶屋には行かず、「中の空気は澱んでる」と直ぐ大門外に
出るのは独特。湯屋・湯豆腐屋をトントン済ませて、藤棚から観音様に出るが、仲見
世の冷やかしは人形焼き屋と玩具屋くらいと噺の脚が如何にも速いのは馬生師匠らし
い。早桶屋の主は飽くまでも職人気質で手堅く程がよい。若い衆が慌て出すと声調子
がキィキィ言うのは惜しい。

◆3月3日 池袋演芸場昼席

松鯉(壽輔昼夜代り)『松の廊下』/夢太朗『湯屋番』/東京ボーイズ/遊三『子は鎹』

◆3月3日 池袋演芸場夜席

小曲『垂乳根』/小痴楽『道灌』

★遊三師匠『子は鎹』

熊さんは飽くまでも職人気質で亀を前にしてもメソメソしない。その熊が亀の額の傷
の由来を聞いて一寸泣く程度なのが父性で佳い。亀も熊の子供らしく明るく健気を売
り物にする嫌らしさが無い。だから二人の遣り取りが良い。カミサンは当初、稍怖気
だが、「阿父っつぁん」と聞いて前に乗り出す動きに同様や惚れ気の可笑しさが現れ
ている。鰻屋でまず詫びた熊が復縁願いを

言い出すまでの間の佳さが、熊の気の弱さを感じさせ、それを聞いたカミサンの柔ら
かい言葉にカミサンの惚れ気がある。何度か伺った遊三師の『子は鎹』中で一番の出
来。

◆3月3日 新宿末廣亭夜席 

南玉/圓丸『長屋の花見』/伸乃介『六文小僧』/うめ吉/金遊『高砂や(上)』/圓輔
『短命』//~仲入り~//柳之助『粗忽の釘』/京丸京平/右左喜『銀婚旅行』/金太郎
『おしくら』/ボンボンブラザース(喜楽昼夜代り)/栄馬『妾馬』

★栄馬師匠『妾馬』

芸術協会60代の主軸になる腕達者だが、今夜は「聞こえない方の栄馬師匠」。本息と
は思えず、籠るタイプの声が一層聞き取り難く、メリハリが殆どないから、客の受け
ようがない。折角の八五郎のキャラクターも可笑しい部分も立たない。如何に20人足
らずとはいえ、末廣亭の広さに対して小声過ぎる。昼の遊三師の大きな声と比べれば
半分以下の音量だろう。トリ前まで普通に受けていた客なのだから惜しい。

★圓輔師匠『短命』

悔みの相談から入るのは兎も角、八五郎とカミサンが尻合わせではばかりに入ったり
する初耳の型。

★柳之助師匠『粗忽の釘(下)』

引越し先に亭主が着いてから。演出面で仕方噺の要素が強いが、その仕草が前半、特
に可笑しい。それが良いフックとなって亭主の粗忽ぶりも自然に馬鹿馬鹿しく愉しい
高座。引越した家と最初に飛び込む近所の家が斜め筋違いというのも、真向かいより
可笑しく感じられる。フックラしたユーモアを感じさせる個性の持ち主だが、明らか
に腕を上げている。

◆3月4日 古今亭菊之丞ひとり会(日本橋社会教育会館ホール)

辰じん『狸の札』/志ん吉『桃太郎』/菊之丞『湯屋番』//~仲入り~//菊之丞『文七
元結』※『文七元結』を演じるには番組が一本多い。

★菊之丞師匠『湯屋番』

終盤、目を醒ました年増の表情が馬鹿に可笑しい。若旦那が原っぱの黒板塀で豆腐の
入った味噌濾しを手に日向ぼっこしたり、聞いた事の無い型。若旦那の跳ねっぷりは
近年の『湯屋番』ではかなりハイレベルで、二枚目ぶる所も低音が活きて愉しい。

★菊之丞師匠『文七元結』

マクラから36分。稍、端折り気味か。まだ若い『文七元結』でもある。併し、重苦し
くなく、志ん生師匠系らしい「落語の文七元結」になっている。長兵衛のキャラク
ターがまず腰の軽さを感じさせる「変な職人」で、全体にメソメソせず、文七に五十
両をくれてやる了見に違和感がない。吾妻橋でも最初、金をやる気はサラサラ無く、
気軽に立ち去ろうとして、二度目に身投げを止めてから気が変わって行くのは面白い
人物造形。言えば、佐野槌とラストシーンに親らしい感情が足りないけれど、博打み
たいな「絶対に損をする」ものに熱くなる暢気さに無理がない。カミサには余り特徴
はないが、さのみ長兵衛を追い詰めないのが良い。佐野槌の女将は「シャダレ上
り」っぽい、色気のある年増。最初、人を叱るには感情が高ぶり過ぎるが、「叱言は
ここ

までとして」とひと息入れて、お久の身売り話になってからは落ち着きが出て悪くな
い。お久は少し色気があり過ぎ。もっと貧乏可憐でありたい。文七は縞の気付けが似
合って如何にも手代。長兵衛の風体を見て(設定は暮の23日)、鎌かい面をして顎で追
うように「行って下さい」と言う件はちと難体だが、後は普通の若い者。「十両ぽっ
ち」は言う人が他にもいるが、大店の手代で、五十両盗られたと思ってりゃ、そう言
いたくなるのも仕方ねェか、という印象。財布の中が金と分かっても「親方!」と叫
ばず直ぐに店の戸を叩く演出。近江の旦那は酒屋で「夜通し喧嘩をしてる」と聞いて
「そりゃ急がなきゃ」と言うのが如何にも落語で良いが、貫禄はまだまだ。番頭が二
人いるみたいである。近江内から後がかなり言葉を端折っているから、余計にそう感
じるのかもしれない。しかし、ある意味、圜菊師匠譲りの慌ただしさが消えたら、こ
の世代では後々、今の一朝師匠的な「スタンダード」になる可能性を感じさせる面白
い『文七元結』だった。

◆3月5日 池袋演芸場昼席

Wモアモア/文月(壽輔)『転失気』/夢太朗『元帳』/東京ボーイズ/圓(遊三早上り代バ
ネ)『禁酒番屋』

◆3月5日 池袋演芸場夜席

松之丞『熱湯風呂』/小痴楽『強情灸』/花/小笑『牛褒め』/米福『代脈』

★圓師匠『禁酒番屋』

最近、声の出が明らかに良くなっている。若侍の花見宴の抜刀騒ぎ・切腹騒動から入
る古風な演出。酒飲みの近藤も、番屋の侍も厳めしく、町人が怖がる武士気質を感じ
させる。酒屋は漏斗を使って店の女子衆にも小便をさせるスタイル。因みに女子衆の
名前は芸術協会の下座さん。番屋の侍の酔態が余り激しくなく、毅然とした面を残し
ている辺り、酒豪の圓師匠らしい。

◆3月5日 談笑月例独演会其の112回(東京芸術劇場小ホール2)

談笑『猫の女郎』/談笑『原発息子』/談笑『自我の穴俺に関するウワサ』//~仲入り
~//談笑『河内山宗俊』

★『猫の女郎』

『金魚の芸者』の猫版。昇太師匠や喬太郎師匠みたいに動物を可愛く演じられると愉
しい小ネタになるんだろうけど・・

★『原発息子』

伊藤正宏氏が第三舞台の役者時代、フジテレビの深夜ウ゛ァラエティ特番用に『新日
本紀行』のパロディで『原発のある街を訪ねて』という傑作を書いたが(傑作過ぎて
公共放送ではロケ出来なかったが)、飽くまでも原発のある街の異様な自然を笑い飛
ばしたものだった。この噺はテレビOAレベルのシニカルさで、笑い飛ばせないのが弱
み。

★『自我の穴』

筒井康隆の『俺に関する噂』が具現化したような噺。統合失調症の主人公の被害妄想
から、ある部分以降、噺と現実の高座が多元的に繋がり、若手の演じる主人公が客席
に現れる。。昔昔の別役実作品的不条理で、如月小春の作品にも似たフックがあった
が、不条理劇の流れとして30年前、既に古くさかった。アナクロで詰まらない。基本
的に西洋の「我思う。故に我在り」の混乱から来る噺で、東洋の「空即是色、色即是
空」の考え方だと、こういう混乱でなく、『粗忽長屋』になる。

★『河内山宗俊』

オチをつけて落語にしてあるが、雲州松平家の殿様や江戸家老が猫背じゃ恰好良くな
いってのはどんなもんかね。言葉の面でも、リズムが不安定で(時々家元口調にな
る)、面白味に乏しい。こないだの松鯉先生の『雲州公玄関先』の恰好良さ、真っ当
面の弱味につけこむ悪党の了見の表現とは大違い。

◆3月6日 春風亭百栄CD発売記念落語会「百栄の節句 新作っぽい日」(東京芸術
劇場小ホール2)

百栄『誘拐家族』/白鳥『悲しみは日本海へ向けて』//~仲入り~//百栄『茶金』/う
勝『私の入門』/百栄『天使と悪魔』

★百栄師匠『誘拐家族』

気の弱い誘拐犯人のキャラクターば抜群に可笑しい。このキャラクター、性格面だけ
でなく、職業など、もう少し背景を足したらどうだろう。

★百栄師匠『茶金』

朕は凄く可笑しいが、噺全体が気忙しい。

★百栄師匠『天使と悪魔』安定した可笑しさ。古典落語のお遣い姫の違和感を乗り越
えたキャワイさは矢張り得難い。暗いネタと明るいネタで悩むとかパロディが直ぐに
作れそうなのも愉しい。

★白鳥師匠『悲しみは日本海へ向けて』

入門から前座時代の部分が膨らんで、当初の情緒タップリから情緒崩壊への可笑しさ
のネタから、ハッキリと爆笑ネタに変化したみたい。

◆3月6日 池袋演芸場夜席

べん橋『六尺棒』(踊り:奴さん)/一矢(ひでややすこ代演)/歌助(柳之助代演)『桃
太郎』/平治『平林』(物真似入り)/京丸京平(章司代演)/松鯉『卵の強請』/桃太郎
『唖の釣』//~仲入り~//花/春馬『相撲風景』/遊雀『干物箱』/うめ吉(踊り・夜
桜)/柳橋『抜け雀』

★平治師匠『平林』

物真似入り(圓丈師匠と彦六師匠)という事もあるが、非常に派手な可笑しさになって
いる。オチは「祭り囃子の稽古か?」「いえ、平囃子」

★桃太郎師匠『唖の釣』

まだ試演段階らしく、稍弾みに乏しいが、与太郎の泰然自若たるボケぶり、唖と間違
われた七兵衛の仕方噺と、いずれも馬鹿馬鹿しく可笑しい。

★春馬師匠『相撲風景』

噺の入り方が良い。昨今の八百長問題話から知人の関取の話、国技館内の席の違いと
体験を交え乍ら笑わせて、見物客の様子から噺にいつの間にか入った腕に感心。上方
風の『相撲風景』で小便の件は長いが嫌らしくなく面白い。

★遊雀師匠『干物箱』

若旦那が善公の家を訪ねる件から。善公の喧しく愉しいキャラクターと親旦那の渋い
二枚目声の対照が面白い。俥屋の真似から無尽と干物の質問、善公の敵娼の話と進む
が、困りキャラが十八番だから、無尽と干物の件で七転八倒する善公が矢鱈と可笑し
い。

★柳橋師匠『抜け雀』

嫌な所が全く無く、トントンと運び乍ら、宿屋(駿河屋で演る)亭主の、さながら昇太
師匠みたいにチョコマカするキャラクターの愉しさがストレートに描かれてレベル高
く面白い(昇太師匠ほどクレイジーなパッションではないけど)。演出は志ん生師匠⇒
志ん朝師匠とほぼ同じだけれども、全体の軽妙さと父絵師の落ち着いた物腰、親子絵
師の絵を描く筆捌きの綺麗さなどが良きアクセント、フックになっている。トンガッ
た部分が無いから、今の落語マニアの食い付きは悪いかもしれないが、東京の落語を
演じる資質の高さを感じた高座だった。

◆3月7日 池袋演芸場昼席

Wモアモア/鯉朝『置き泥』/夢太朗『お見立て』/小天華/鯉昇『長屋の花見』

★鯉昇師匠『長屋の花見』

猫食いから花見へと繋がるが、チクチクと鯉昇師匠らしいギャグを挟み乍ら、元気な
んだか能天気なんだかの大家と脱力感一杯の店子たちの可笑しさ、ホノボノ感を失わ
ない愉しさで久しぶりに針はあっても角の無い鯉昇の世界を堪能した。

◆3月7日 池袋演芸場夜席

松之丞『狼退治』/べん橋『引越しの夢』/ぴろき(花代演)/柳之助『時そば』/平治
『善光寺由来』/章司/松鯉『赤垣徳利の別れ』/桃太郎『不動坊』//~仲入り~//ひ
でややすこ/春馬『雑俳』/圓(遊雀昼夜代り)『権助魚』/うめ吉(踊り・夜桜)/柳橋
『抜け雀』

★柳橋師匠『抜け雀』

昨夜より些か急いでいたのか噛んだりしていたが、宿の亭主が雀が衝立から飛び出す
のを見た瞬間、父絵師が宿に入ってきた瞬間、父絵師の描いた鳥籠に雀が収まり亭主
が平伏した瞬間、それまでとパッと雰囲気がかわり静謐というか、淑気のようなもの
が漂う場面になるのは独特の魅力。

★章司師匠

聞いた事のない「煮豆売り」や「座禅豆売り」など珍しい売り声が多く、いつも以上
に愉しかった。

★桃太郎師匠『不動坊』

思い出し思い出しみたいな雰囲気だったが、焼き餅三人組は可笑しい。後、冒頭の大
家と吉の遣り取りで、「嫁を世話しようってんだよ」「昇太にですか?」には笑っ
た。

★平治師匠『善光寺由来』

噺と入れ事の出入り自由自在で、実に可笑しかった。中でも柳昇師匠の『免許証』の
真似が余りに似ていて可笑しく驚いた。『免許証』、演らないかな。

★松鯉先生『赤垣徳利の別れ』

たった15分で何故にこれほど!と感嘆しきり。中堅若手噺家の講釈ネタとは比較にな
らず、他の講釈師とも桁が違う。兄に会えなかった赤垣の無念。義士に弟が加わって
いた事を知った兄の喜びと悲しみが、最後に兄の吹く、源蔵の形見の呼子の音にちゃ
んと出るから凄い。

◆3月8日 池袋演芸場昼席

右紋『犬の目』/圓『長短』//~仲入り~//Wモアモア/夢太朗『長屋の花見』/鯉朝
『反対俥』/うめ吉(東京ボーイズ昼夜代り)/鯉昇『二番煎じ』

★鯉昇師匠『二番煎じ』

夜回りはアッサリ加減で酒宴中心の構成。食べ物と登場人物の関係性が密接に表現さ
れて行く。月番が牡丹肉を鍋に広げ、その上にネギをばら蒔き(江戸料理系割烹の葱
鮪鍋の仕立て方に似ている)、味噌を鍋になすって、「瓢の酒を・・・ヒタヒタッて
くらいにかけて」と言いながら鍋を仕立てる鍋奉行ぶりと、牡丹肉の脂肪が鍋に溶け
て行くのを感じさせる妙味。黒川先生が猫舌で牡丹肉を頬張って慌てる可笑しさ。湯
飲みの匂いを嗅いだ侍が一度、横を向いてから「正しく、此れは煎じ薬だ」と振り向
きざまに言う嬉しさ。侍が鍋の残りを箸でかき集めてモリモリ食べる様子の楽しさ
と、寒さを凌ぐ温かい食べ物の魅力、人の食べる事への拘りを嫌らしくなく、愉しく
感じさせる独特の面白さだった。

◆3月8日 第104回江戸川落語会「若手特選会」(江戸川区総合文化センター小ホー
ル)

まめ平『子褒め』/菊之丞『湯屋番』/喬太郎『竹の水仙』//~仲入り~//三三『笠
碁』/正蔵『蜆売り』

★菊之丞師匠『湯屋番』

出来は先日と変わらず良いが、独演会でもないのなマクラが長すぎるのは惜しい。誰
か遅れていたのかな?

★喬太郎師匠『竹の水仙』

手に入った作品で安定している。とはいえ、三年くらい前から見ると、宿・大松屋主
人のワイフ・コンプレックスが抑制され、単なる味付け程度になったので気楽に笑え
るのが佳い。

★三三師匠『笠碁』

「止めりゃ良いんだ」と盤上を掻き回す科白など、喧嘩のテンションが稍高いのが後
へ尾を引くのは惜しい。また、美濃屋が手持ち無沙汰で碁を打つ手付きをするのも
「友情より碁」の雰囲気を強くする。待つ側が「言わなきゃ良かった」と反省する辺
りは二人きりの幼馴染みの情が愉しく出て良い。二人とも商人らしくなってきたのも
結構である。二人の若さは仕方ないこと、というか、老成していた芸が実年齢に戻っ
てきたというべきかも。

★正蔵師匠『蜆売り』

稲葉屋清五郎の親分ぶりが板について来た。特に蜆売り・長吉の去り際に掛ける「春
は近ェよ」の科白の良かった事は特筆物。反面、これだけ落語としての表現密度が高
まると、演出面で最後の芝居掛かりの(調子も中途半端なので)七五調科白が邪魔に
なってくる。

◆3月9日 池袋演芸場昼席

圓『天災』//~仲入り~//Wモアモア/鯉朝『夜のてんやもの』/夢太朗『禁酒番屋』/
東京ボーイズ/鯉昇『佃祭』

★鯉昇師匠『佃祭』

次郎兵衛さんが暢気に佃島で酒を呑んでいる様子、葬式の場て町内の連中が次郎兵衛
さんのカミサンから彫り物の惚気を聞いてダレる件と、淡彩乍ら落語らしく良い箇所
は幾つもあるのだけれど、どうも何度聞いても、今一つ満足感が得られないのは、登
場人物に「風情」が乏しいせいかなァ。

★圓師匠『天災』(後半しか聞けなかった)

「土左衛門の引き取りじゃねえ」「駆け出せねェんだよ。心臓が弱くて医者に止めら
れてんだ」「駆け出さねェとただ措かねェぞ」「駆け出すよ」「駆け出すしても広い
原中だ」等、聞いた事のない遣り取り多数の面白い演出。

◆3月9日 池袋演芸場夜席

松之丞『狼退治』/べん橋『垂乳根』/花/柳之助『長屋の花見』/平治『松山鏡』

★柳之助師匠『長屋の花見』

大家が「みんな花見に行かないと言うなら、この場を店賃催促の場に変える」と怒り
だしたり、上野の山に到着してからも、店子連中が大根の蒲鉾をバリバリ食べたり、
茶を湯飲みからバラ撒いて塵鎮めにしたりと、他に聞かない可笑しな演出多数で短い
が愉しい。沢庵卵焼きが堅くて噛めないのが羅宇屋の爺さんというのも納得出来る可
笑しさ。

★平治師匠『松山鏡』

黒門町以降、何となくシナシナする噺だが、平治師匠だと田舎の小騒動の馬鹿馬鹿し
さ、純朴と無知の混乱が明るく愉しい。

◆3月9日 談春アナザーワールド(成城ホール)

春樹『道灌』/談春『按摩の炬燵』//~仲入り~//談春『木乃伊取り』

★談春師匠『木乃伊取り』

家元より遥かに全体が明るく、素晴らしく可笑しい。清蔵の奇怪な擬音の酒の飲み干
し方、酒好きでテレ屋の女好きなとこがステキに愉しく、若旦那に向かって説教する
重さを吹き飛ばす。それを若旦那・番頭・頭が面白がってる雰囲気も嬉しい。頭の
すっとこどっこいぶりは勿論、少し口調に堅気らしからぬ点もあるが、少なくとも家
元より若旦那が若旦那らしく、しかも商人

の倅らしい。オフクロ様は前半が先代今輔師匠のお婆さんみたいに可笑しく、清蔵の
口から語られる「息子可愛さと心配の余り、夜通し寝られぬ甘い母」の面が共感出来
る(目白の小さん師匠のオカミサンを思わせる)。でもその哀れに噺の軸が流されて
「良い話」に堕する事なく、若旦那は「オフクロは勿体無いが騙し良い」と感じてる
のが魅力的。

★談春師匠『按摩の炬燵』

近年では珍しい五代目小さん師匠型。米市の酒好き、饒舌な明るさが噺の骨格になっ
ていて可笑しく、「火が熾きて来ました」って科白の良さが耳に残る。その代り、番
頭さんは小さん師匠ほど明るくないのは全体のトーンの違いを生む。番頭さんが米市
の過ぎた軽口を軽く糺すのが、一瞬、情知らずかと思えたが、前後の流れで、世間を
気にする立場から「按摩というサービス業」である米市への親切なの忠言と取れる。
『つるつる』の樋ィサンの意地悪みたいなもので、其処には出入りに対する気遣いが
ある。半面、みんなが寝静まってからも米市が饒舌過ぎて、噺の背景にある寒さが消
えてしまうのは、小さん師匠にも感じなかったが、惜しい点である。

◆3月9日 池袋演芸場昼席

小笑『身投げ屋』/遊雀(右紋昼夜代り)『堪忍袋』/圓『もう半分』//~仲入り~//W
モアモア/鯉朝『置泥』/夢太朗『お見立て』/東京ボーイズ/鯉昇『千早振る:モンゴ
ル篇』

★圓師匠『もう半分』

キッチリ演じて、高座に声を掛ける馬鹿夫婦をピタリと黙らせた。

★鯉昇師匠『千早振る:モンゴル篇』

この噺と『歳そば』の可笑しさは何故か中毒になるなァ。

★遊雀師匠『堪忍袋』

絶対に外さない。これ以上、サゲの可笑しい『堪忍袋』はあるかな。

◆3月9日 池袋演芸場夜席

小曲『垂乳根』/べん橋『六尺棒』(踊り:奴さん)/花/柳之助『ひと目上り』/平治
『人形買い(上)』/章司/松鯉『天野屋利兵衛』/桃太郎『怪我漫談』//~仲入り~//
ひでややすこ/春馬『お玉牛』/右紋(遊雀昼夜代り)『ババァんち』/うめ吉/柳橋『親
子酒』

★柳橋師匠『親子酒』

演出的には壽輔師匠とほぼ同じ流れだが、親父のキャラクターが普通の人。塩辛が肴
だが、くどく食べたりはしない。飽くまでも酒中心。冷で三杯呑み干すが、割と早く
酔いだすが、嫌らしくない酔い方で愉しい。呑み乍ら、合間に都々逸を唄ったりする
ので、全体の雰囲気はミニ『試し酒』っぽい愉しさがある。更に一升瓶から一杯注い
だ所へ息子が帰って来る(息子が「ただいま、ただいま」と二度言う)。四杯目の入っ
た湯飲みだけは下げさせないのも酒呑みらしい。息子は目白や遊三師匠のように直立
から倒れるのではなく、襖を開けた途端に倒れる。小泉(観劇に出掛けて留守)⇒安部
(早く店仕舞い)⇒福田(早く店仕舞い)⇒麻生(漢字を習いに出掛けている)⇒鳩山(母
親に小遣いを貰いに出掛けた)⇒菅(店の中が揉めてる)と得意先を回った挙句、道端
で小泉と再会して呑む、という展開。

★平治師匠『人形買い(上)』

テンションの高い甚兵衛さん、というのは珍しい。焼豆腐で怒るカミサンが毘沙門天
みたいなのが可笑しい。

★松鯉先生『天野屋利兵衛』

赤穂城駆け付けから河内守取り調べまで20分ほどで感激させてくれる凄さ。

石井徹也(放送作家)

投稿者 落語 : 2011年03月27日 20:02