« キャンプインが待ち遠しい! | メイン | 松井秀喜さんの野球論 »

2015年01月30日

毎日新聞科学環境部がすごい!!


朝の情報番組『グッモニ』を担当していることもあって、
ウイークデーは毎朝、一般紙とスポーツ紙全紙にくまなく目を通すのが日課になっています。

各紙読み比べると、当然のことながら、
同じニュースでも新聞社ごとに切り口が違ったり、
取材の深さに差があったりなのですが、
いつも安定してクオリティの高い記事を発信していて、
「すごいな~」と感心させられているのが、毎日新聞科学環境部の記事。

科学の分野でなにかニュースがあるときは、
真っ先に毎日新聞をチェックするほど信頼しています。

昨年、STAP細胞が世間を騒がせた際も、その報道は群を抜いていました。

STAP論文については、華々しい記者会見から2週間ほどで
ネット上でさまざまな不審な点が指摘されたのはみなさんご存知の通り。
ただ、はじめのほうこそネットが先行していたものの、
途中からは独自取材に基づいた毎日新聞の報道が完全に独走状態だったように思います。


STAP研究チーム当事者や理研関係者への尋常ではない食い込み方、
専門家並みの知識を背景にまとめられた冷静かつ的確な解説記事、
その一方で、記事の行間からたちあがってくる科学界はかくあるべしという熱い思い――。

ほんとうにあの一連の報道はすごかった。

そして、連日のように他紙に先駆けて新しい情報が掲載されていた紙面には、
いつも何人かの見慣れた記者たちの名前がありました。

『捏造の科学者 STAP細胞事件』(文藝春秋)は、
一連の報道の中心となって大活躍した毎日新聞科学環境部の須田桃子記者による書下ろし。


STAP細胞事件のほぼ全容を網羅したといっていいこの本は、
今後人々が事件を振り返る際に、
必ず参照しなければならない基本文献となったといえるでしょう。

STAP細胞というと、
「どうせ嘘っ八でしょ。なにをいまさら」と醒めた反応の人もいるかもしれません。
でもそういう人にこそ、この本は読んでいただきたい。

なんといっても世界の科学史に残る大スキャンダルですし、
それに加えて、須田さんの関係者への食い込み方が半端ないからです。

そもそも、STAP細胞の取材に関わるようになったきっかけも、
後にこの事件で命を絶つことになる笹井芳樹氏ご本人から
「須田さんの場合は『絶対』に来るべき」だとメールをもらったから。

本書には、笹井さんと交わしたメール々が多数引用されているんですが、
ここで描き出されている人間ドラマは、STAP細胞の存在が否定されたいま読んでも
十二分に読みごたえがあります。

それに、いまも事件は完全に終わったわけではありません。

須田さんは、理研の対応でいちばん問題だったのは、
検証実験はやったものの、数多指摘された論文の疑義を、長らく放置したことだ、と言います。

つまり、STAP細胞があるのかないのかということだけにフォーカスし、
(小保方さんが会見で「ありまぁーす」と言ってしまったせいもあるけれど)
肝心の論文そのものの検証をおざなりにしてしまった、ということです。

なぜ論文が大切なのか。
須田さんの次の指摘は、今回の事件の本質を正確に言い当てていると思います。

しかし、科学は長年、論文という形式で成果を発表し合い、検証し合うことで発展してきた。
本来、STAP論文こそ、STA細胞の唯一の存在根拠なのである。
研究機関自らが、社会の関心のみに配慮して論文自体の不正の調査を軽視し、
先送りにしたことは、科学の営みのあり方を否定する行為ともいえよう。
理研の対応は科学者コミュニテイを心底失望させ、結果的に問題の長期化も招いた。
何より理研は、「信頼」という研究機関にとって最も大切なものを、失ったのだ。(364ページ)

科学的な大発見があると舞い上がって報道しがちなメディアの世界にも、
須田さんのように、冷静沈着に事の本質を見極めようとしているジャーナリストも
いるのだということは、ぜひ覚えておいていただきたいです。


須田さんは上記の指摘に加えて、
今回の事件の問題点を、「シェーン事件」と対比しつつ検証することもしています。
この視点にも納得。

ヤン・ヘンドリック・シェーンの事件については、こちらのエントリーをぜひ。

さて、毎日新聞科学環境部の躍進は、STAP報道だけにとどまりません。

降圧剤「バルサルタン」をめぐって、
巨大製薬企業ノバルティスファーマが、
大学病院と癒着してデータ操作を行っていた事件。

この一大スキャンダルも毎日新聞科学環境部のスクープによって明らかになりました。


目の前に立ちはだかる「薬とカネ」という巨大で分厚い壁に対して、
ふたりの記者は文字通り地を這うような取材で、少しずつ穴を穿っていきます。

そのスリリングな取材の過程は、
『偽りの薬 バルサルタン臨床試験疑惑』河内敏康・八田浩輔(毎日新聞社)で読むことができます。

医学の世界では権威といわれる学術誌が、実際は広告誌と化している現状や、
治験をクリアした市販薬を使った臨床試験には、規制する法律がないという実態など、
本書にはいろいろな事実を教えてもらいました。

それにしても科学環境部には精鋭がそろっていますね。

大学で物理を学んだ須田記者は、第一線の科学者とも議論ができるほどだし、
河西記者は医療分野で調査報道の実績をお持ちだし、
八田記者に至っては、STAPとバルサルタン両方の取材を掛け持ちして
その両方で成果をあげるという離れ業をやってのけます。


最近はテレビのコメンテーターとしてもご活躍中ですが、
以前、科学環境部デスクをお務めだった元村有希子さんにお話を伺ったことがあります。。
(元村さんの本はこちらのエントリーをどうぞ)


印象的だったのは、元村さんが、
記者会見などでわからないことがあったら、
たとえ相手にシロート丸出しと思われようが、
気にせずにとことんわかるまで質問をするとおっしゃっていたこと。

そのお話にぼくは、
とても健全なアマチュア精神を感じたのでした。


考えてみれば、
STAP細胞事件とバルサルタン臨床試験事件、
どちらの報道にも、元村さんの発言と共通するする姿勢がみてとれます。


それは、「アマチュアである読者の視点を常に失わない」ということ。


これからも毎日新聞科学環境部の記事には注目です!


投稿者 yomehon : 2015年01月30日 11:00