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2006年07月24日

仏像のひみつ

ある日、体重計にのってみると、
なんといつの間にか2キロも減量しているではありませんか!
営業部に来て1ヶ月あまり。
スタジオに籠もっていることの多かった制作部の頃と違って、いまは毎日が外回り。
やせた要因を考えると、
連日外を歩き回っていることくらいしか思いつかないんですけど、
それにしてもただ歩くだけで、こんなにやせるもんなんでしょうか?

制作にいた頃だって決して運動をしなかったわけではありません。
週末はせっせとジムでウォーキングしていたんですが、
まったく効果がみられませんでした。

それが営業に来たとたん、あっという間に2キロ減。
このペースだと、あと1年で(?)ほぼ入社時の体重を取り戻すことになります。

急激にスリムになっていくぼくに、きっと同僚たちも驚くはず。
そのあかつきにはぜひ、「やせた?」と聞かれたら、素直に「うん」と頷くのではなく、
「最近、食欲がなくて・・・」とか「最近、眠れなくて・・・」などと答えたい。

きっとものすごく過酷な外回りをしているのだと思われるはずです。
そうすれば、売り上げ成績が悪くても、
「あんなにやせるほど頑張っているんだから」と同情の声が高まって・・・
(そんなわけないか)

いずれにしてもぼくのからだのなかでは何かが起きているようです。
だからでしょうか。
「仏像は、やせたり太ったりする!仏像の中には何かがある?」
という帯の文句が、店頭ですっと目に飛び込んできました。

『仏像のひみつ』山本勉著 川口澄子イラスト(朝日出版社)は、
東京国立博物館で昨年好評を博した展覧会
「親と子のギャラリー 仏像のひみつ」展の内容が書籍化されたものです。

「わかりやすさ」と「おもしろさ」において、
この本は、数多ある仏像入門書のなかで群を抜いています。

著者の山本勉さんは、東京国立博物館で教育普及室長の職にあったかた。
(現在は退職され、清泉女子大の先生)
おもに小中学生を中心とした初心者向けの企画を考えるのが仕事で、
専門的な内容をどうわかりやすく伝えるかということに関してはまさにプロです。


山本さんは「仏像たちにもソシキがある!」というところから話をはじめます。
ピラミッド型の図で、上から
①如来
②菩薩
③明王
④天
という4つのグループが示されます。そして山本さんは
「だいたいこの順番がえらい順番と思ってもらえればけっこうです」といいます。

そしていちばんえらい「如来」の説明に入っていくのですが、
それはこんなふうに説明されます。

「如来というのは、さとりをひらいた者のことです。『さとり』って何、ときかれると、
ちょっとむずかしいけれど、自分だとか世界だとかがどんなものであるかが、
すっきりとわかって、もう悩まない・・・・・、そんな状態かなぁ」(10ページ)


「だいたい~と思ってもらえればけっこう」とか
「~かなぁ」とか、
この本を読んでいると、
初心者にむけてものを伝えるときに
気を配らなければならないことはなにかということがよくわかります。

山本さんが心を砕いているのは、
「ものごとの細部よりも全体像をとにかく大づかみさせる」
ということ。

だからでしょう。
山本さんの文章には、初心者を安心させながら先へ先へと運んでいってくれるところがあって、
読者は楽しんで読み進むうちに、いつの間にか深くて広い仏像の世界に触れることができます。

仏像には「やわらかい仏像」と「カタイ仏像」があること、
仏像は時代によってやせたり太ったりすること、
そんな魅力的な切り口が次々と出てきて飽きることがありません。

夏の旅行で地方の名刹などを訪れる機会のあるかたは、
ぜひこの本を手にご家族と仏像鑑賞を楽しまれてはいかがでしょうか。


なお、この本の最後に「仏像のひみつ顛末」と題された
著者のあとがきが掲載されているのですが、
その最後の数行には、
本書の刊行を楽しみにしていたにもかかわらず、
交通事故でお亡くなりになった奥さんのことが記されていて、涙をさそいます。

投稿者 yomehon : 2006年07月24日 10:00