過去の放送分
過去の放送分 過去の放送分 2008 7月6日 放送分
「動物の話」(2)
コーチャー/實吉達郎(さねよしたつお)さん(動物学者)
大村正樹&實吉達郎
大村正樹
先週、最高齢の、四捨五入したら80歳という大先生が来てくださいましたが、今週もまだまだ聞き足りない動物の話がありますので、じっくり聞いていきま〜す! 1週間待ちわびました。今週のサイコーも動物学者の實吉達郎先生です。こんにちは。
はい、どうも先日は失礼しました。實吉です。
大村正樹
あらためまして、この先生はソフトバンククリエイティブから『おもしろすぎる動物記』という本を出版されてます。ほんとこれを読んだ後、翌日には動物園に行きたくなっちゃうような本です。僕がまず気になったのは、カンガルーの赤ちゃん。首を出しているでしょ。だけど首を180度曲げてこっち向いてると書いてある。本当ですかぁ?
これは入る瞬間を見た時、私も目を信じなかった。首を下にしてスッポリとまっさかさまに入り込んじゃうんです。
大村正樹
お腹に入る時に「それっ!」って飛び込む感じですか?
  ええ。外にいた子どもがお母さんの袋に帰る時、頭からスッポリと入ってクルリと引っくり返るのが袋を隔てて見えました。やがて首がスルッと出てきたんですが、いつまでたっても絵に描いてあるようなポケットの縁に両手をかけている可愛いポーズをしないんですよ。
大村正樹
首だけ見えているけれど、ポケットの縁に両手はなかった。
  なかった。しかも、出している首の向こうにシッポだけはみ出している。よく見ると後ろ足の先もはみ出している。「おい!お前、どういうポーズで入っているんだ? お母さん、ちょっといじらしてね」とお母さんによく了解を得て。
大村正樹
今、カンガルーのお母さんとの会話ですね(笑)。
  「いじらしてくださいよ」と(笑)。カンガルーのお母さん恐いからねぇ。袋に入れた子どもに手を出したら怒るから。だから、動物園で働いていた時に自分が取り扱っているカンガルーですからお許しを願って調べてみたんです。そしたら、お母さんのほうを向いて体が入ってスッポリと、後ろ足と尾が袋の口から上のほうに出ちゃってる。自分自身は後ろをクルッと振り向いているから、前足は前方、つまり、お母さんのほうを向いている。
大村正樹
お母さんに抱っこをしてもらった。
  抱っこをしてもらった感じでしょうかねぇ。そこまでよく見えなかったから、すがっている感じだったかも知れません。ですから、体までグルッとねじって手を出すことはできないから、よくマンガや絵にあるのは間違っているなということが分かりました。それから専門書を読んでみました。そしたら、まさしく専門書に1、2、3という順序で断面図が書いてありましたけどね。頭から入ってくるりと回ってシッポと後ろ足だけ出して、自分は振り向いて首だけ出して袋の中から見ている。
大村正樹
じゃあ、動物園へ行ってカンガルーの赤ちゃんが袋から見えて手らしきものが見えたら、それは足ということですか?
  それは足をよく見てください。手をちょっとねじって片っぽぐらい出しているかも知れません。柔軟な体をしているからね。だけど、シッポや足がはみ出していることはよくあります。
大村正樹
僕らもお母さんに抱っこされた時は、お母さんのほうを向いて抱っこしてもらったわけじゃないですか。だったらお母さんを見てればいいわけですよ。何でカンガルーの赤ちゃんはお母さんと同じ方向を、動物園のお客さんのほうを見るんですか?
ハハハハハ。入ってから体全体でクルッと向けばいいのに、やっぱり袋の構造から下が広がってますから、ピッタリ首の周りに袋の口が迫ってきますから。ポケットをよく見たら、パックンパックン開いて描いてあるのはウソですよ。
カンガルー
 
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大村正樹
カンガルーのお母さんの袋は、ドラえもんのポケットみたいにダブダブじゃないんですか?
  全然違います。もしお母さんがピョーンと飛んだら、何しろカンガルーですからスポーンと出ちゃうじゃないですか。
大村正樹
こぼれちゃいますねぇ。袋の口がキュッと締まっているんですか? 巾着みたいな感じですか?
  ちょうど巾着みたいな感じで、締まるんです。ヒモはないけど。それで、お母さんはまだ産まない頃は、袋の口はキュッと締まっていて分かりません。袋の口はどこにあるのか、いくら探しても子どもが産まれてこないと分からない。やがて産む時になると、その袋の口を自分の前足で開けて中へ首を突っ込んできれいに舐めてお掃除をして、そこに入れる子どもの用意をするんです。そうすると、動物園のベテランは「あっ、もうじき産まれるぞ」と分かる。
大村正樹
みんな、ちょっとイメージしてみて。首を180度後ろに向けられる? 僕は大体120度ぐらいいける。分度器で調べてね。180度はきついなぁ。とにかくカンガルーを見に行ったら、赤ちゃんは相当キツイ体勢でこっちを見ているということが分かると思います。
もしかしたら、出たり入ったりするところが見られるかも知れませんから、今度はゆっくり観察してください。
大村正樹
そんなの見たことないです。
  それはゆっくりしないからですよ。ひとつの動物に2分間も立ち止まらないもの、一般のみなさんは。観察なさらないんだもの。
大村正樹
動物園へ行ったら、ひとつの動物を何分見ればいいですか?
  せめて2分と言いたいけど、子どもたちやお母さんにすると2分はずい分長い。2分経っても袋に入らないかも知れませんよ。袋から出ないかも知れませんよ。そしたら「さぁさぁ、早く行きましょう。忙しいから」となるんですね。気ぜわしかったら、動物園へいらっしゃるなと。ひとつのおサルさんやカンガルーさんの前で1時間ゆっくりしているオジサンやオバサン、たくさんいるんですよ。
大村正樹
1時間!?
  1時間。私の見たいところがまだ見えないんだと。あるいは、サルの群れを見てると私は落ち着くんだと。いつまでも見ているのんびりした方がたくさんいらっしゃる。そのほうがよっぽど動物園を精神的に利用しておられるね。
大村正樹
そうそう、いまサルの話が出てきたけど、この本によるとサルにも袋があると書いてある。
  それは、ほお袋。ほっぺた袋。
大村正樹
ほっぺた。口の中に袋があるということですか? 何のため?
  まさにわれわれと同じほっぺたのちょっと下側のほうで、いつもはキュッと縮んでいるのでサルのほっぺたは大きく見えませんけれど、口の左右にね。そこに食べ物を一時蓄えるためです。頬嚢(きょうのう)と言います。ほお袋。一番やさしく言うとほっぺた袋。
大村正樹
どのサルにもあるんですか?
  ニホンザルぐらいですね。れわれの知っているお尻の真っ赤な。いわゆる猿山のサルですね。
大村正樹
何を入れておくんですか?
  食べたものは何でも入りますが、サルの研究者によりますと、片っぽのほっぺたにリンゴが1個入るそうです。だから、リンゴを丸2つ口の中に入れたままで、ちょいちょい歩けるわけです。
サル
 
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大村正樹
じゃあ、ほっぺたがふくらんでいるサルがいたら、食べ物を口の中にキープしているということですね。
  そういうことです。つまり、サルは非常に忙しい競争社会の群れの生活です。何か食べようとしたらひったくられるかも知れないし、強いものにすぐ盗られるかも知れないから、食べた時は粗噛み(あらかみ)、ちょっとしか噛まない。リンゴなら大きく噛んで、左右のほっぺたに入れるわけです。ブーッとふくらましてキュッと口を閉じちゃうと、「口を開けてよこせ!」というヤツはいないから、そうしておいて逃げるわけです。群れの外へ出て、今度はゆっくり出す。出すところ面白いですよ。人差し指でキュッと押して少しずつチョコンチョコンと出して、今度はよく噛んで。
大村正樹
1回ガッと入れて、その後チビリチビリ楽しむんですか。
  楽しんで、美味しそうに食べる。みんなやってますよ。あっちでやってる、こっちでやってる。
大村正樹
ラジオの前のキッズたちがおやつの時間にクッキーがきて、ポケットに入らないからとりあえず口の中にほうり込んで、ゆっくり噛むのと似てますね。
似てます。昔、僕もやってましたが、たいてい逃げるまでに中のお砂糖が溶けて美味しくない(笑)。人間の場合、やっぱり厳しいですねぇ。
大村正樹
兄弟で取り合いになっちゃったら、とりあえず口の中に入れちゃうってありますもんね。
  ハハハハ。サルはポケットがないから、頬っぺたにポケットを工夫したとも言えます。
大村正樹
そうか。キャンディーとかポケットに入れますから。昔、チョコレートをポケットに入れてドロドロにした思い出がある(笑)。
  つい忘れるからねぇ(笑)。
大村正樹
面白い。あと、カメレオンの話。カメレオンは緑になったり、ねずみ色になったり茶色になったり変化しますよね。葉っぱがある所だったら緑になると思ってたらそうではないと先生の本に書いてある。これはどういうことですか?
あれは、保護色(ほごしょく)――「緑の葉っぱの中に入ったら緑色になると分からないでしょう」というのが一番教えやすい。分かりやすいから、そういう説明を本に書いたらしいんですね。図鑑を書いた人とかが。
大村正樹
先生はそう書かなかった。
  私はそう書かなかったというより、正確な動物図鑑には、30年以上も前からそんな不正確なことは書いてなかったですよ。カメレオンの色はその場に合わせて変わるわけではない。緑色の中で茶色をしているヤツもいるし、薄黒い色をしているのもいる。いわゆる保護色ではない。
大村正樹
日本の鳥で雷鳥(らいちょう)という鳥がいて、冬になると白くなって、夏は茶色くなる。これは保護色と習ったんですが間違いないですか?
これは日本アルプスの背景がそうなっていて事実に一致しますから、それによって雷鳥が利益を得てますから間違いない。
大村正樹
雷鳥は保護色だけど、カメレオンの色が変わるのは保護色ではない。
  そうですね。どうも、敵から身を守るために色が変わっているわけではないようです。
大村正樹
いやぁ先生、面白い! 2週に続けてありがとうございました。よかったらキッズのみんなも『おもしろすぎる動物記』その他もろもろ、先生は本をいっぱい出してますから、ぜひ読んでください。ということで、今週のサイコーは動物学者の實吉達郎さんでした。ありがとうございました。
どうも諸君、失礼しました。
カメレオン
 
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