過去の放送分
過去の放送分 過去の放送分 2008 5月10日 放送分
「ナメクジウオの話」(2)
コーチャー/窪川かおるさん(東京大学海洋研究所)
大村正樹&窪川かおる
大村正樹
今日も先週に続いてナメクジウオのお話。インターネットなどでその姿をキッズのみんなは見てくれたかなぁ? ユニークな形でした。今週はもっともっとナメクジウオの深い話を聞いていきま〜す。窪川先生は先週お話しましたように、ナメクジウオという体長5センチぐらいの半透明みたいな不思議な、泳ぐナメクジをイメージしてもらえば分かると思うけれど、ちょっと変わった生き物の研究をされています。そもそもナメクジウオでどんな研究をされているんですか?
いろいろな研究をしています。ナメクジウオがどこに住んでいるかを探すところから始まりました。というのは、ナメクジウオは日本では絶滅(ぜつめつ)に近い動物と考えられていたんですね。ですから、どこに行ったら捕れるかというところから研究を始めたんです。それから子孫を増やすために卵をとらなくてはいけないので、どうやったら卵をとれるか、どうやって子どもをとるかというような研究をしていました。それから生理学的な研究ですね。ご存じだと思いますけれどホルモン、体の中でいろいろな調節をしている物質ですが、どういうものがあるのかという研究もしています。
大村正樹
ホルモンで思い出しましたけれど、ナメクジウオはオス・メスあるんですか?
  はい、オス・メスは別々です。
大村正樹
どうやって見分けをつけるんですか?
  よく聞いてくださいました(笑)。実は、卵を産む時を繁殖期と言うんですが7月と8月なんですね。6月ぐらいからオスとメスの見分けがつきますが、それはメスは卵巣、卵をオスは精巣、精子を持っているので、色がメスは黄色、オスは白の生殖性を持っているんです。そこでオスとメスが分かるんですが、それ以外の季節はオスかメスか分からない。
大村正樹
へぇ〜。僕らも年に1回男か女か分かったら面白いねぇ。微妙な感じでいて、年に1回だけ明らかにしちゃうとかね(笑)。
  フフフフ。ちょっと大変ですね(笑)。
大村正樹
ほかにどんなことが分かるんですか?
  あと、遺伝子の研究もやっているんですけれど、ナメクジウオのゲノムって分かりますか?
大村正樹
ゲノムって遺伝子、DNA?
  はい。すべてのDNAをひっくるめてゲノムと呼んでいますが、私たち人のゲノムが数年前に全部分かったんですね。それで去年、ナメクジウオのゲノム、遺伝子も全部分かった。ホームページで見ることはできるんですが、人のゲノムとナメクジウオのゲノムを比較してみると、遺伝子の並び方がナメクジウオは人に近いことが分かったんです。そのあたりも、ナメクジウオは人間の祖先かも知れないというゆえんですね。進化の過程で、進化していくうちに遺伝子の並び方がいろいろバラバラに変わってくるんですね。それで人とずい分違ってくるはずですが、ナメクジウオはとても近い。

ナメクジウオについての
詳しい説明はこちら- Wikipedia


海
(イメージ)
 
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大村正樹
もしかしたら、そのあたりの解明がナメクジウオの研究で最も重要なところかも分からないですね。
  はい、そうかも知れません。とても面白いと思います。
大村正樹
ほかにナメクジウオは、例えば天ぷらなどにして食べられるわけではありませんよね?
  あっ! 実は中国では食べている。中国で食べたことあるんですけれど、美味しくなかったです(笑)。
大村正樹
美味しくなかった。どんな味でした?
  学生さんがゆでたんですね。ゆでて食べたんですが何も味がなくて、これは食べ物ではありませんでした。中国は卵とじが美味しいんだそうです。
大村正樹
ナメクジウオの卵とじ。メニューありますかねぇ?
  今はないと思いますけれど。実は中国でも絶滅にひんしていて、とても貴重な動物になっているんです。もう食べちゃいけないです。絶滅危惧種(ぜつめつきぐしゅ)だから。私も食べたのは一匹だけでしたけれど(笑)。
大村正樹
いまナメクジウオは日本ではどういう立場なんですか? 例えば、天然記念物とかになっているんですか?
  非常にまれです。いくつかの生息地はあるんですが、あまり個体数がいません。実は広島県と愛知県の2ヶ所で、場所の指定ですが天然記念物になっています。
大村正樹
えっ、そうなんですか! ナメクジウオ、ちょっとあなどってました。そういう絶滅が心配されていて、広島や愛知県では天然記念物なんですね。
はい、それはその場所だけですけれど。残念ながら、そこの場所では今ほとんどいない。
大村正樹
先週お話されてましたが、やっぱり東京湾にはヘドロが多すぎていない。きれいなところを好むわけですよねぇ。ナメクジウオの生態を観ることによって、何か先生が研究しながら気づいたことはありますか?
私もナメクジウオを捕ったり生態を研究しているんですが、高知大学の上田拓史(ひろし)先生という方がいらっしゃって、その先生も生態の研究をされています。それで上田先生は、ナメクジウオを“海のミミズ”と呼んでいるんですよ。
大村正樹
ナメクジウオのほうが見た目にはいいんですが、ミミズ呼ばわりですか?
  はい(笑)。なぜかと言うと、ナメクジウオは海底の砂の中で動くわけです。海底というのは、堆積物(たいせきぶつ)、ヘドロも含めて泥も砂もプランクトンの死骸(しがい)も上からどんどんどんどん積み重なってくるんです。そうすると、どんどん押されて酸素がだんだん少なくなってくる。
海中
(イメージ)
 
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大村正樹
土の中は?
  はい、海底の砂の中が。ナメクジウオが動き回ることによって耕(たがや)される。ナメクジウオがいるところには、それこそ何十匹、何百匹といますし小さい動物ですから非常によく耕されて酸素が供給されるだろうと考えられています。
大村正樹
海の底、大体何メートルぐらいのところに棲息(せいそく)しているんですか?
  私たちは20メートル30メートルのところで捕っているんですが、大体100メートルより浅いところに住んでいます。
大村正樹
100メートルより浅いところで砂地を耕す魚はほかにいないんですか?
  あまりいないんですね。縦にもぐったり、砂の中でウロウロウロウロする動物はあまりいないと思います。アサリやハマグリですと、波打ち際で縦にもぐってますね。
大村正樹
貝ではダメなんですね。もうちょっと深いところへ行くとナメクジウオぐらいしか、100メートルぐらいの海を耕す存在はないんですか?
はい、たぶん一番そのナメクジウオの個体の数の多さも含めて、そういう役割をしていると思います。
大村正樹
へぇ〜。先生って、好きなことをやって幸せそうなお顔をされてますね。
  好きなことをやって嬉しいですけれど、でも、ちゃんと大学の仕事もしていますので、それだけではありません(笑)。
大村正樹
この番組は子どもたちが聴いているんですが、キッズのみなさんに今みたいに・・・。――たかだかナメクジウオですよ。5センチぐらいのこんな小さな生き物の話を2週に分けて延々(えんえん)と語る女性がいるなんて僕はけっこう感動したんです。こういうのもひとつの夢というか、お仕事になるわけですよね?
はい、そう思います。ナメクジウオは私たちの祖先で一番重要な動物なので、そういう意味でも私の仕事は重要だと自分でも思っているんですけれど、それだけではなくて、ひとつのことをやっていくといろいろなことが広がっていくんですね。ナメクジウオはたったひとつの動物ですが、住んでる場所の環境の話や遺伝子の話、進化の話とかどんどんどんどん広がっていきます。そういうことはとっても楽しいことで、ですから、ぜひぜひ夢は大きく、だけどあきらめないで。「ナメクジウオなんか捕まらないからあきらめちゃおうかな」と思っていると、たぶんできなかったと思うんです。
大村正樹
なるほど。いいお話でした。数年後、何年後ぐらいだろうなぁ、関東地方でもナメクジウオがいてくれると嬉しいなと思いました。
  分かりました。急いでやりま〜す(笑)。
大村正樹
よろしくお願いします。今日のサイコーは東京大学海洋研究所の窪川かおる先生でした。ありがとうございました。サイコーの窪川さん、サイコウだったなぁ! ナメクジウオに完全に恋しちゃった女の人という感じでしたねぇ。いやぁ、好きなことに没頭するっていいことだと思います。キッズのみんなも好きなこと、没頭できることをぜひ見つけてください。
海中
(イメージ)
 
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