過去の放送分
過去の放送分 過去の放送分 2008 2月2日 放送分
「海の生き物の話」(2)
コーチャー/佐藤克文さん
(東京大学海洋研究所国際沿岸海洋研究センター准[じゅん]教授)
大村正樹&佐藤克文
大村正樹
先週は海の中の生き物の謎に迫ったデータロガーという機械を開発した東大の先生のお話を聞いてきたけれど、今週もまたその先生がお越しになって非常に興味深い話をしてくれます。今週のサイコーも最高に肩書きが長いけれど、行きますよ。東京大学海洋研究所国際沿岸海洋研究センター准教授の佐藤克文先生です。こんばんは。肩書き、ちゃんと暗記します。
ありがとうございます(笑)。
大村正樹
佐藤さん、前回はウミガメとペンギンの本当に興味深い話を伺ったんですけれど、今日はどんなお話ですか?
  はい。じゃあ、その種明かしをする前にこの音を聴いていただけますか。
    (音)  
大村正樹
キッズのみんな、分かった? 佐藤先生の携帯のメール着信音?
  ハッハハ。何か電子音みたいですねぇ。これは動物の鳴き声です。水中である動物が鳴いているんです。何だと思います?
大村正樹
クジラ。
  あぁ、惜しい!
大村正樹
先週話したペンギンですか?
  違いますねぇ。
大村正樹
みんな分かる? 正解は?
  これはウェッデルアザラシというアザラシが水中で鳴いている音なんです。
大村正樹
ウェッデルアザラシ。アザラシの鳴き声ですか? これは何を言っているんですか?
  分かんないです(笑)。ただ水中で彼らがお互いにコミュニケーションしてるんですね。その時に発する音です。
大村正樹
これは人間の耳でも聞けるんですか?
  はい。実際に南極へ行って氷の上を歩いている時に、あるいは氷の上でトイレに入っている時にこの音が下から響いてくるんです。
アザラシ
 
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大村正樹
一人で個室に入っている時にこの音が聞こえてきた。これ最初分からなかったら、ちょっとお化け屋敷みたいな感じで。
  本当にそう思いました。ビックリしました。
大村正樹
これもこの間の機械、データロガーで聴けたわけではないですね?
  そうじゃないです。この音は氷の上で聞くことができるんです。やっぱり何をしているんだろうと気になりますよね。それを調べるためにはデータロガーが必要なんです。この音を出している彼らは、水中で非常に複雑な社会があることを想像させる音なんですね。実際どうなっているかを調べるためには、機械をつけて調べるやり方がすごく効果的です。
大村正樹
南極というと、やっぱりアザラシとペンギンですよね。それぞれつけて、いろいろデータを取ったわけですか? どんなことが分かったんでしょう?
いろいろなことが分かるんですけれど。まずアザラシとペンギンの話が出たのでそのことから言いますと、泳ぐ時のヒレの動かし方に関する面白い発見がありました。
大村正樹
アザラシのヒレは脇についているピコピコというのとお尻ですか?
  そうですね。2つついているんですけれど、アザラシは後ろの足を魚のように左右に振って、尾ビレで泳ぎます。ペンギンは前ヒレをパタパタと羽ばたいて泳ぐ。これは見てれば分かるんですが、実際に海の中で彼らが100メートル、200メートル、300メートル非常に深い所までもぐってくるんですけれど、そこまで行って帰ってくる時にどんなふうにヒレを動かしているのかを調べたんですね。
大村正樹
それもデータロガーで分かるんですか?
  データロガーの中で加速度データロガーがあって、これはちょっと難しい言い方になりますが、家庭に手で持つタイプのビデオカメラがあります。あれの中にも加速度センサーが入っているんですね。最近で言うと、テニスとかやるゲームがありますよね。あの中には加速度センサーが入っていて、物の振動と言うんでしょうか、動きを調べることができるんですね。
大村正樹
みんなの好きなあのリモコンの原理で、データロガーで海の生き物のスピードが分かるということですね。
  スピードとか、ヒレを動かす行動でどれぐらいせわしなくパタパタやっているのか。これが分かるんです。意外な発見だったんですけど、私たちは当然、動物たちは泳いでいる間はずーっとバタバタバタバタやっていると思ってたんですね。ところがこれは違ったんです。アザラシの場合ですが、潜っていく時にヒレの動きを止めて落ちていくんですね。
大村正樹
えっ、体重で海の底へ潜っていくんですか?
  ええ。ちょうど空を飛ぶ鳥で滑空している、羽を広げて何もしないでスーッと。トンビとか鷹とか。ああいうふうにスーッとグライディングしている様子を見ることができますよね。実は海の中の動物もあれと同じことをやってたんです。
大村正樹
じゃあ、重さに任せてスルスルスルと潜っていくんですか?
  アザラシの場合は300メートルぐらいの所までヒレを動かさずに落ちていったんですね。300メートルから水面に戻ってくる時は、バタバタバタバタと一生懸命、お尻のヒレを振っているんです。一生懸命漕いでました。のぼってくるんですね。
大村正樹
アザラシからしてみると、どっちが重労働なんですか?
  当然グライディングでやってる時のほうが楽なんです。バタバタバタバタさせながら、潜るほうが楽ですけれど、“行きはよいよい、帰りはこわい”。潜っていく時が楽な分、帰りはしんどいですよね。で、この逆がペンギンのパターンです。
ペンギン
 
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大村正樹
ということは、ペンギンは潜る時パタパタさせながら、上がるときは普通に上がってくる。人間と同じじゃないですか。潜水する時は手と足でかきながら潜って、上がる時はスーッと上がっていく。
あぁ、そうですね。例えば皆さん、浮き輪とか持って海に浮かんでますよね。あれを無理やり水の中に沈めてパッと放すとポーンと浮かんできます。ペンギンの体もちょうどあんな感じに体の中に空気があったんですね。だから、潜っていく時は非常に一生懸命ヒレを動かさないと潜っていけない。その代わり、帰りは楽に浮力を使って水面まで何もヒレを動かさないで戻ってくることができるんです。
大村正樹
それはやっぱり潜る前に息を大きく吸い込んで潜るから、そういうふうな動きになって。アザラシは水中で呼吸ができるんですか?
  違うんです。アザラシは哺乳類でやっぱり肺呼吸動物なので、空中でしか呼吸ができないんです。魚とは違いますね。アザラシは肺呼吸動物です。われわれ人間と全く同じです。
大村正樹
じゃあ、やっぱりハーッと吸ってから入っていくわけですか?
  そこが違うんです。アザラシは空気を吐き出してから潜ってたんです。
大村正樹
じゃあ、空気がない状態で潜っていくじゃないですか。何でですか?
  これは本当に面白いんですけど、アザラシは水面にいる間にすごく深呼吸しています。スーハースーハーものすごい深呼吸をして、その間に体の中の血液と筋肉の中に酸素をいっぱい溶かし込むんですね。だから、空気という形では酸素を持ってないけれども、血の中と筋肉の中に酸素をたくさん溶かし込む。そして、さぁ潜り始めるという瞬間に空気をフーーーッ!と吐き出してから潜り始めるんです。だから浮力がないので落ちていくんですね。
大村正樹
そうか。いわゆる浮き輪みたいなものをつけてないから重さで落ちていって、だけど体の中に酸素があるんですね、血液や筋肉から。これは人間にはできないわけですよね。
人間も当然、筋肉中や血液中に酸素をある程度溶かし込んでいるんですけれど、その割合が全然違うんですね。人間の場合は、肺の中の空気と血液中と筋肉中が大体同じぐらい酸素があるんですけれど、アザラシは空気という形でほとんど持たずに血液と筋肉の中にいっぱい酸素を持っていられる。
大村正樹
これもデータロガーでの発見ですか?
  データロガーで発見したのはアザラシの行動の部分ですよね。落ちていくとかペンギンが浮かんでくる、こういう部分はデータロガーで分かったことで、じゃあ何でだろうと調べていったら、そういう背景が見えてきたんです。
大村正樹
そういうのって、例えば水中撮影のテレビ局が映像をこれまで撮っていたことはないんですか?
  海の浅い所に限って言えば、そういう撮影班が撮ることができたんですね。ところがそこから下は、これは人間がなかなかおいそれとついていけない場所ですから観察データはなかったんです。
大村正樹
なるほど。それも大発見だったということですね。また今週も動物園や水族館に行って見るべきものが増えたね。アザラシは潜る時はヒレは動かさない。ペンギンは潜る時にヒレを動かして、浮かんでくる時にはヒレを動かさない。アザラシは浮かんでくる時にヒレを激しく動かしている
ええ。水族館はあまり深くないので、よく見ないと分からないですが。
ペンギン
 
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