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2008年07月28日

◆2008年前半 聞いた落語会、落語会で聞いたゾ佳作ネタ

■1月
5日 月例三三正月特番昼 柳家小満ん/盃の殿様
     月例三三正月特番夜
7日 にぎわい座談春独演会
11日 三遊亭圓橘の会三遊亭圓橘/三味線栗毛
12日 オリンパスシンクル寄席柳亭市馬/普段の袴
13日 柳家小満んの会
16日 権太楼三昧柳家権太楼/百年目:ネタ卸し
17日 第5回らくだ亭
20日 第13回かもめ亭 柳家小満ん/明烏
28日 三遊亭圓橘一門会 三遊亭圓橘/夢金

■2月 
4日 月例三三独演
11日 圓朝座 入船亭扇遊/牡丹燈籠:お露新三郎
14日 喬太郎たっぷり愛しナイト
17日 悠々遊雀
19日 黒談春昼
冬の正蔵2 林家正蔵/しじみ売り
21日 第6回らくだ亭 古今亭志ん五/干物箱
瀧川鯉昇/宿屋の富/長屋の花見
23日 特選落語会
24日 飯能・有望若手応援寄席 第6回三三独演会
26日 東西若手落語コンペディショングランドチャンピオン大会
桂かい枝/堪忍袋
27日 三遊亭圓橘の会 三遊亭圓橘/梅見のやかん
 28日 第14回かもめ亭

■3月
1日ラジオデイズ落語会 橘家文左衛門/文七元結
5日 にぎわい座 談春独演会
11日 喬弟仁義
13日 鯉昇・喬太郎 古典こもり 瀧川鯉昇/明烏
14日 月例三三独演 柳家三三/雛鍔
20日 YEBISU亭
21日 第15回かもめ亭 快楽亭ブラック/川柳の芝浜
22日 三三・菊志んの会 古今亭菊志ん/だくだく
23日 三三・左龍の会 柳亭左龍/徳ちゃん
25日 黒談春
27日 歌舞伎と落語~江戸東京博物館15周年記念
柳家喬太郎/おせつ徳三郎
白鳥アドベンチャー 三遊亭白鳥/明烏:改作版
28日 ビクター落語会 古今亭菊之丞/三味線栗毛
29日 ビクター落語会
30日 権太楼日曜朝のお浚い会
31日 本調子やなぎの会 柳家の若い衆 柳亭市馬/堪忍袋

■4月
5日 ラジオデイズ落語会
9日 春の正蔵3林家正蔵/突き落とし
10日 にぎわい座談春独演会
11日 初演の会
12日 第52回扇辰・喬太郎の会 柳家喬太郎/宮戸川:通し
16日 第2回こんにゃくえんま一朝会
18日 三遊亭圓橘一門会
第4回柳噺研究会
19日 ビクター落語会 柳亭左龍/淀五郎
遊雀卯月会 三遊亭遊雀/堪忍袋
21日 しのばず寄席 三遊亭圓橘/三十石
23日 WAZAOGI ろっくおん 
24日 16回かもめ亭 柳亭市馬/らくだ:上
25日 夢空間花形特選落語会 柳家喬太郎/宮戸川:通し
30日 第478回落語研究会 林家正蔵/芋俵

■5月
2日 にぎわい座談春独演会 立川談春/不動坊火焔
3日 圓朝座
9日 ミックス寄席 古今亭菊之丞の会
11日 東京マンスリー 古今亭菊志んの会 古今亭菊志ん/湯屋番
12日 月例三三独演 柳家三三/甲府ぃ
13日 柳家小満んの会
15日 桂米朝一門会
16日 横浜喬太郎勉強会
17日 ビクター落語会 春風亭正太郎/狸の札
WAZAOGI落語会 柳家権太楼/文七元結
22日 立川生志真打昇進披露公演
23日 第17回かもめ亭 柳家喜多八/欠伸指南 古今亭壽輔/文七元結
26日 白鳥・喬太郎 デンジャラスナイト 三遊亭白鳥/アニメ勧進帳
29日 らくだ亭 桂小米朝/親子茶屋
31日 あの人のあの噺が聞きたい 林家正蔵/子は鎹

■6月
2日 三三 三十三歳三夜三席三宅坂第一夜
3日 三三 三十三歳三夜三席三宅坂第二夜
3日 三三 三十三歳三夜三席三宅坂第三夜 立川談春/おしくら
6日 にぎわい座談春独演会
7日 談志・志らく親子会
10日 WAZAOGI ろっくおん 通好み(1) 瀧川鯉昇/鰻屋
13日 市馬落語集 柳亭市馬/抜け雀
14日 特選落語会 柳家さん喬/心眼 柳亭市馬/らくだ:上
17日 圓丈の骨、白鳥の肉 三遊亭白鳥/悲しみは日本海へ向けて:改作
20日 東京マンスリー 古今亭菊志んの会
古今亭菊志ん/本膳/三枚起請
21日 遊雀水無月会 三遊亭遊雀/お茶汲み
22日 三三・左龍の会 柳亭左龍/船徳
23日 らくだ亭
24日 柳家三三独演会 柳家三三/五目講釈
26日 いわと寄席 市馬の日
28日 談志・談春親子会
30日 第18回かもめ亭 瀧川鯉昇/ちりとてちん 春風亭小柳枝/船徳


◆2008年前半 聞いた高座ベスト10

① 柳家さん喬 幾代餅 5月4日 上野鈴本演芸場昼席   柳家小三治師の代演として仲入りに登場。さん喬師の『幾代餅』は寄席で16~20分くらいでよく演じられるが、この日は演出がかなり違い、前半が人情噺的に丁寧で、終盤は落とし噺でワッと笑わせてと緩急自在。
特に中盤、幇間医者の薮井竹庵と主人公・清蔵が歩きながらする会話が絶妙で、そこから幾代と清蔵のジックリした遣り取りで観客を唸らせた。1月(こちらは柳家小三治師の代バネ)と4月の新宿末広亭夜席主任で2度伺った『妾馬』も季節感の変化など、細かく配慮の行き届いた逸品。
そのさん喬師が、どうして上野鈴本演芸場の主任だと、落語味の薄い、芸術派深刻演劇落語を演じてしまうのかが不思議でならない。ま、それもさん喬師の芸の幅ではあるのだが。

② 柳家さん喬 ねずみ 1月9日 上野鈴本演芸場夜席   初席の夜、持ち時間はたった10分程度(小三治師の主任だって『小言念仏』なのよ)にも関わらず、いきなり『ねずみ』に入ったから驚いた。
しかも、それが高座に座った途端のマクラの語りだしからオチまで、たった8分38秒しかないのに(マクラが1分くらいあるから実質7分台)、ちゃんと『ねずみ』になっていたからビックリ仰天、てぇかシビレたね!
こういう高座に触れると、「長く演りゃ熱演・名高座」な~んて、“芸知らずのたわごと”と言わざァなるまい。しかも、干支を踏まえたネタって配慮の妙もあり、文句のつけようがない。

③ 柳家小満ん 明烏 1月20日 かもめ亭 新内の『明烏』をサラリと取り入れ、浦里花魁の部屋に時次郎が入ってから、花魁が時次郎をどう扱ったか、部屋の中の細かい様子から花魁の手管までをタップリと演じて、その艶冶にして品の良かった事は無類。
新内の知識がちゃんと小満ん師の中でこなれているから、教養講座の嫌味など微塵も泣く、大人の楽しみになる。
向こうを向いて泣きながら寝てェる時次郎の枕の下に、花魁がスーッと手を差し込んで、時次郎の首を抱えてこっちを向かせる」なんて描写はあんまりステキでゾクゾクしちゃった。先代文楽師以降、最高の『明烏』ではあるまいか。7月の小満んの会で伺った『お富與三郎』の「木更津」で、歌舞伎の場面をちょいと入れる粋な演出なぞも、まず真似手はあるまい。

④ 古今亭壽輔 文七元結 5月23日 かもめ亭
   今年、浅草演芸ホール主任でネタ卸しをされ、上野広小路亭の主任で五日間続けて演じ、さらに池袋演芸場で5日間、吾妻橋から近江屋内まで部分的に演じられて練ったという作品。
「寄席で演れる長さで」という壽輔師の配慮で、吾妻橋からの口演だが、落語協会には絶対にいない、独得の歌い調子で語られる長兵衛のセリフに「人間の不思議な味わい」と「お久に寄せる父親の情愛」が溢れていた。
近江屋に文七が戻った辺りの描写も他にない演出で、ひと言も口をきかない「町内の頭」が実に美味しい脇役になっているなど、芸術ぶらない『分七元結』の佳さをタップリと味あわせて戴いたのに感謝!
近年の『文七元結』では、圓丈師の『大晦日文七元結』や、茶楽師のサラリと短軽快な『文七元結』と並ぶ佳品であります。

⑤ 林家正蔵 しじみ売り 2月19日 冬の正蔵2
面白いのに、何故か演り手が殆どいなかった、先代小文治師から小南師へと伝わった上方系『しじみ売り』を小佐田定雄氏の台本で演じた。
終始、大人びた口をきいていたしじみ売りの小僧が、終盤、一家の味わった身の上の辛さを語って泣く件の悲しみは、『子は鎹』の亀ちゃんの涙と並ぶ“正蔵子役”の名品。『薮入り』が聞きたくなった。
親分の家にいる留公の、如何にも人の良い味わいも嬉しく、上方系『しじみ売り』の笑いと涙を、東京流で見事に復活させてくれた。最後の七五調のセリフのみ、台本も口演もまだ整いきっていないのが課題かな。

⑥ 橘家文左衛門 道灌 4月6日 上野鈴本演芸場夜席
 “文左衛門師の『道灌』はどうしていつも、あんなに面白いんだろう“と思っていた。よ~く注意して聞いて、やっとその理由が分かった。
先代小さん師が語っていたという、「隠居と八っつぁんは仲が良くないといけない」という人間関係を文左衛門師が最も忠実に守っているのだ。
八五郎のトンチンカンに対して隠居が一度として声を荒げない。その距離感が心地よく噺全体を覆っている。先代小さん師以降では最高の『道灌』ではないだろうか。『夏泥』『千早ふる』の面白さも今はダントツだろう。
尤も、そこがまだ中堅の良さでもありますが、ストーリーの立つ話だと小品に比べ、登場人物の距離感がイマイチな感じもするのであります。

⑦ 立川談春 不動坊火焔 5月2日 にぎわい座談春独演会
正直、『慶安太平記』や『小猿七之助』『お富與三郎』を気負って演じている談春師は、私には「談志家元のレプリカ」にしか見えないのでありますが、この『不動坊』や『おしくら』、さらに『らくだ』で手斧目の半次が泣き上戸になってからなどの談春師は素晴らしい。
盤台顔でニマニマとお瀧さんに惚れている吉公も楽しいけれど、やきもち三人組の間抜けさが何とも可愛らしい。映画『父の恋人』に登場する、気の良い三人兄弟なんか演じてもらえないものかしら。

⑧ 三遊亭栄馬 替り目 3月29日 新宿末広亭夜席主任
若い頃より見た目に丸っこくなって、キザな印象が抜け、コクのある高座になってるなァ。モソモソしゃべってるようで、酔っ払いの身勝手な可愛さ、女房の愛情がホコホコと感じられる。後半の夜鳴きうどん屋と酔っ払いのやりとりも夜更けの質感あり。良い意味で庶民的な景色が眼に浮かぶ。目に浮かぶといえば、『茄子娘』なども今は一番風景が感じられます。
この『替り目』に、先代馬生師の演っていた、うどん屋に炙らせた海苔を、如何にも美味しそうにパリパリと折る件を、是非入れて欲しい!

⑨ 古今亭志ん橋 手紙無筆 1月15日 新宿末広亭夜席
志ん駒師匠の代演で、ヒザ前だから前半の10分ほどしかない。
ごく短い高座だったけれど、無筆の男と手紙を持ち込まれて弱っている無筆の兄貴分の会話に「落語らしい無邪気さ」が溢れていた。
このところ、年齢の割にちと老け込んだ感じの高座と続けて出会い、些か心配していたが、まだまだ本領発揮で安心。
志ん橋師では『間抜け泥』の新米泥棒と、その間抜けぶりに手を焼いている親分の会話の無心さも素晴らしい。こういう天性の落語らしさ、無邪気な楽しさは理屈じゃないんだよね。

⑩ 三笑亭夢太朗 お見立て 5月30日 新宿末広亭夜席主任
春雨家雷蔵師匠の代バネ。何よりも言葉に感心した。女郎の喜瀬川が死んだと聞かされた杢兵衛大臣。さらに「墓がある」と喜助から聞かされ、「墓があるのけ!無縁にならなかったのけ!おめえら、墓を
作ってやってくれたのか!」と喜んで泣いたのであります。
『お見立て』は廓噺の中では軽い、気楽なネタとばかり私は思っていたけれど、この杢兵衛大尽のひと言が「死してなお、苦界の浄閑寺」って下級女郎の切なさと、この噺の持つ奥行き、女郎の背負った苦界を知った上で惚れている杢兵衛大尽の人間味を初めて感じさせてくれました。感謝!


石井徹也(放送作家)

投稿者 落語 : 2008年07月28日 00:23