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2007年09月11日

正蔵VS三三 池袋の決戦?!レポート

 7月下席の喬太郎主任から始まった夏の熱い寄席。その掉尾を飾ったのが池袋演芸場の恒例、入場料2000円の廉価14時開演下席昼間8/21~8/30。
 今回は、林家正蔵師匠と柳家三三師匠が交互に主任と仲入りを勤める上、早い出番で春風亭小朝師匠が出演とあって、連日、満員立ち見の盛況が続いた。

 小朝師が高座で「正蔵VS三三となってますが、実際は(義弟の)正蔵が三三さんの胸を借りてるんですよ」と言ってはいたが、ストーリーテリングの名手・三三師と、じり脚ながら人間味表現の名手・正蔵師という、正に対照的な好取組となった。

 しかも、正蔵師はその間、29日には『夏の正蔵』での『唐茄子屋政談』披露を控え、三三師は21~23日と上の鈴本演芸場夜席で『年枝の怪談』『怪談乳房榎』『団子坂奇談』を演じるという過酷なスケジュールである。「こいつは通わなくちゃ!」と6日程足を運んだ。

 自分のスケジュールで三三師の主任が余り聞けなかったのは残念だが、22日の主任『五貫裁き』が素晴らしかった。最後に大家がケチな徳力屋を叱る件で、やや正義感が前に出すぎた以外、行ったり来たりのステーリー展開で見せたテンポの鮮やかな快さ、皮肉な面白さをヌケヌケと語り、談志家元のように重くならず、落語の範囲に留める見事な腕前には脱帽。三遊亭圓生師匠の『一文惜しみ』、立川談志家元の『五貫裁き』を凌ぐと言っても過言ではない出来栄えだった!

 30日の『文違い』も、展開は面白いが、それに負けぬ演技を示すのが難しいこの噺で、女郎お杉が通ってくる客をあしらう心持を部屋の出入りで細かく現わす等、レベルの高い高座で納得させられた。24日の主任『青菜』も五代目小さん師匠・小三治師匠とはまた違った雰囲気で、どちらかというと、「キレのよい四代目春風亭柳好師匠」といったおかしみが特徴である。
 惜しむらくは、仲入りのネタで定評ある『壷算』は結構だが、冬のネタ『権助提灯』を2度、演じられた事。「噺家の時季知らず」にしても、ちょいと違和感があった。

 一方、正蔵師は26日の主任『子は鎹』が素晴らしく、私はこの噺で本当に久しぶりに泣かされた。故・古今亭志ん朝師匠の『子は鎹』でも泣いた事はないのに・・・夫婦別れの間で子供の亀ちゃんがどれほど辛い思いをしたか、可哀想で可哀想で堪らなかった! 噺の前半、饅頭屋のエピソードの代わりに、自分の横を通り抜けた子供に、「亀!」と棟梁が思わず声を掛けてしまった、ってエピソードも胸に滲みたねェ。

 29日の主任では夜の『夏の正蔵』に備えてか、『唐茄子屋政談』を最後まで演じきった。後半、誓願寺店に回る辺りで1度テンポが落ちて心配させられたが、そこからのリカバリーは大丈夫で安心。若旦那・徳三郎が気の弱い、誠に「佳い人」であり、如何にも若旦那らしい鷹揚さがある。その魅力が貧乏長屋のお内儀に儲けの銭を上げたり、最後で因業大家を薬缶で殴る正義感に繋がっているのが嬉しい。
 一方、仲入りのネタでは、22日の『蔵丁稚』でパロディックな芝居掛りの面白さを、24日の『鼓ケ瀧』では泉鏡花を思わせる奇怪さを描いて腕の上達を示した。

 25日には福島だかの仕事で池袋は休んだが、トンボ帰りして、新宿夜席の代バネを勤めるなど、「一席でも多くの高座を勤めたい」という現在の正蔵師の心意気へは、落語好きとしてエールを贈らぬ訳には行かないやね。

 その他のメンバーも好調で、小朝師は『親子酒』『紀州』『ピーチボーイ』『こうもり』と、聞いた範囲では漫談なしの熱演で連日場内を沸かせ、続く柳家小満ん師匠は“粋な噺ってェのはこういうモン”と言いたくなる『宮戸川』、切れ味抜群の『浮世床~夢』、軽妙洒脱な『幽女買い』、季節感とおかしさのバランスが素晴らしい『目黒の秋刀魚』と実力を遺憾なく発揮。鈴々舎馬桜師匠は自作の『暑い日』で観客をヒヤリとさせる現代風怪談を聞かせ、三遊亭生之助師匠の『質屋蔵』では圓生師譲りの形の美しさを堪能した。代演組でも、柳家喜多八師匠(正蔵代バネ)が実に怖い『死神』で客席に涼気をもたらせば、春風亭一朝師匠は先代柳朝師匠譲りの江戸っ子ぶりが最高の『蛙茶番』、で(30日、新宿夜の主任での『唐茄子屋政談・上』もホント、結構な高座でした)、橘家圓太郎師匠がエネルギッシュな『祇園祭り』で客席を沸かしてくれた。
 また、前半のロケット団、ヒザの丸一仙三郎社中が連日、見事な時間調整を見せ、番組表通り、主任にタップリ時間を取らせてくれたのは隠れたファインプレーで拍手!

 半面、一つ残念だったのは、仲入り後、ヒザ前が2高座で40分という番組構成にやや緩みがあったこと。仲入り直後の食い付きが柳家さん彌さん・古今亭朝太さんの交互出演ながら、2人共、この番組の中では明らかに荷が重く、ほぼ全滅。柳亭左龍師匠、桃月庵白酒師匠くらいの若手真打が食い付きでないと、仲入り前が矢鱈と面白いだけにキツい。同様に、ヒザ前のむかし家今松師匠は後半の『竃幽霊』等では飄々たる味わいが楽しめたものの、『千両蜜柑』や『猫の茶碗』では無理に高座時間が長く感じられた。この出番で、今松師の味を楽しむには12~15分の設定が適切だろう。そのためか、連日、仲入りが終わると1割程度の観客が席を立ったのは惜しまれる。仲入りの時間設定を10分程度、後ろに下げても良かったと思う。

 とはいえ、下席の池袋は実りが多く、毎日オナカ一杯という雰囲気で、余は満足じゃ。これからも、池袋の下席昼からは目が離せない。9月の下席は春風亭正朝師匠が主任で、仲入りが入船亭扇遊師匠。仲入り後に五明楼玉の輔師匠、柳亭市馬師匠、前半に橘家円太郎師、春風亭勢朝師匠、春風亭柳朝師匠と並ぶ。こりゃまた通うしかないか・・・

 妄言多謝


                                  石井徹也 (放送作家)

投稿者 落語 : 2007年09月11日 14:18