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2022年01月14日

直木賞候補作④ 『ミカエルの鼓動』

次は柚月裕子さんの『ミカエルの鼓動』にまいりましょう。
柚月さんも『孤狼の血』シリーズや『盤上の向日葵』などで
人気作家の地位を確立しています。

『ミカエルの鼓動』は、手術支援ロボット「ミカエル」をめぐる
医療サスペンスです。物語の主人公は、北海道の大学病院で、
ミカエルを駆使する心臓外科医の西條。

西條が世間の注目を浴びる中、ドイツから天才外科医の真木が
大学病院に赴任してきます。

かたや最先端のロボットを駆使するスター医師。
かたやおそるべきメスさばきをみせる天才医師。
二人は、心臓に難病を抱えた少年の治療方針をめぐり対立します。
そんな中、西條を慕っていた若手医師が自ら命を発ちます。
どうやら自殺の原因は、ミカエルにあるらしい。

ミカエルは、現代の医療にとっての福音なのか、それとも……。
西條はミカエルについて密かに調べ始めます。
一方、少年に対するミカエルを用いた手術が刻一刻と近づいていました……。

とても現代的なテーマを扱った作品です。
例えばミカエルのせいで手術を失敗としたとしたら、
その責は執刀医に求められるべきでしょうか、それともメーカーでしょうか。
これは自動運転の車が事故を起こした場合などにも共通するテーマです。

物語は、こうした今日的なテーマも扱いながら、
ミカエルの背後に隠された大学病院の闇へと迫っていくのですが、
その過程で「医療は誰にためにあるのか」という、
より根源的なテーマが浮かび上がってきます。

惜しむらくは、ミカエルの不具合をもう少し掘り下げて欲しかった。
手術支援ロボットの欠陥にしても、メーカーと大学との癒着にしても、
もっとドラマがあると思うのですが、
本作ではそのあたりの記述がわりとあっさりめです。

また西條の家庭の問題も、もう少し濃密に描けたのではないか。
妻に対する西條の態度は淡白だし、妻も西條に判断を丸投げしているしで、
夫婦の描写はそれなりに出てくるのですが、あまり印象に残りません。
ちょっともったいないなぁと思いながら読んでいました。

西條と真木の対立の構図はとてもわかりやすく、
このまますぐにでも映像化できそうな作品ですが、
読み終えた後、心に爪痕が残るようなインパクトがあるかといえば、
いまひとつという感じです。

投稿者 yomehon : 2022年01月14日 05:00