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2020年07月14日

第163回直木賞 最終予想


これで、すべての候補作の検討が終わりました。
受賞作の予想にいきたいところですが、今回はかなり難しい。
それぞれに良さがある一方で、突出した作品がないからです。

これまでのキャリアからすれば、また選考委員の人情からしても、
おそらく今回は、馳星周さんにとらせたいのだろうと思います。
ただ作品本位でみると『少年と犬』は
受賞作としてはちょっと弱いというのが正直なところ。

迷いましたが、今回は『雲を紡ぐ』を推すことにしました。
この作品には、「ホームスパン」を作る過程や、
この仕事に携わる人々の暮らしが、きめ細やかに描かれています。
日々を丁寧に生きることの素晴らしさが伝わってくるこの小説にこそ、
ぼくは、コロナ禍の中での新しい生活のヒントがあると思うのです。

それに読んでいると、盛岡に行きたくてたまらなくなってしまう。
僕だけじゃなく、この本を手に取った人はみんな「盛岡行きたい病」に
かかってしまうと思います。
とはいえ、いまは旅行にも気軽に行きづらいですよね。
行きたくてもなかなか行けないだけに、
作品の中で描かれる盛岡の美しさが余計に際立って感じられます。

『じんかん』のような熱さはないけれど、その代わり
しっかりと地に足のついた確かさが伝わってくる。
ポスト・コロナに読まれるべきなのは、こういう小説ではないでしょうか。

最後に芥川賞についても触れておきましょう。
今回はなんといっても太宰治の孫であり、
津島佑子の娘でもある石原然さんが話題です。

もし受賞すれば文学史的事件だと思いますが、
僕は高山羽根子さんがとると予想します。

芥川賞と直木賞、どちらも選考会は、
7月15日(水)午後2時から、都内で開催されます。

投稿者 yomehon : 2020年07月14日 17:00