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2019年07月16日

第161回直木賞 最終予想


これまで直木賞候補全6作品を紹介してまいりました。
それでは第161回直木賞の受賞作を予想いたしましょう。

今回はどうしても
「史上初めて候補がすべて女性作家」
というところに目がいってしまいます。
いずれもキャリアのある作家で、ポッと出感のある人はひとりもいません。
候補作もしかり。読み応えのある作品ばかりで予想が非常に難しい。

ただ関係者に聞いた話だと、女性候補が揃ったのはまったくの偶然らしいですね。
だからそこにこだわってもさほど意味はないのかもしれませんが、
とはいえ偶然に必然性を見出したくなってしまうのも人間の習性です。
天井の木目が人の顔に見えてしまうがごとく、
今回の女性候補者勢揃いがなにかの啓示のようにも思えてくるのです。

最終的に迷ったのは、以下の3作です。
大島真寿美さんの『渦 妹背山婦女庭訓魂結び』
窪美澄さんの『トリニティ』
原田マハさんの『美しき愚かものたちのタブロー』

大島さんの文章は全候補作の中でピカイチです。
大阪弁や京都弁が読んでいてとても心地いい。ですが前にも書いたように、
作中に突然登場する語り手にどうしても違和感を感じてしまいます。

窪さんの『トリニティ』は現代の女性史として素晴らしいと思います。
ただ、あまりにマガジンハウスをモデルにし過ぎているところが
選考会ではマイナスに働いてしまうかもしれません。
この小説の舞台となっている時代にマガジンハウスで
仕事をしていた人も選考委員の中にはいるからです。

原田さんの松方コレクションを素材にした作品もタイムリーですが、
歴史的な事実をきちんと押さえるところと、
フィクションで遊ぶ部分が少しギクシャクしているところが気になります。
ピッチャーの投球フォームでいえば、動きがカクカクしているというか。

うーん、どうしましょう……。
で、冒頭で述べた、女性候補が揃ったことに
啓示のようなものを感じてしまう、という話に戻るわけですが、
今回は窪美澄さんの『トリニティ』を受賞作と予想します。

マガジンハウスの黄金時代を知る選考委員にとっては
「私の知っているananは違う!」とか
いろいろ言いたいことはあるかもしれませんが、
この小説は別にノンフィクションノベルではありません。
作品の勘所は事実はどうかというところではなく、
いつの時代も変わらない女性の生きづらさにあるのですから。

窪さんは作品の中で、登場人物たちが束の間、
女性が自由に生きる時代の到来を夢見た瞬間をうまく描いています。
そしてその夢が潰えた瞬間も、ある歴史的な事件と絡めながら
巧みに描いています。そこがとてもいい。

直木賞に権威を感じる人も年々少なくなっています。
若い人の間ではもはや知名度も関心もそれほど高くないでしょう。
そんな中、世間に対して直木賞のインパクトを出そうと思ったら、
とんがったメッセージを発するしかないと思うのです。

史上初の女性候補だけの直木賞で、
戦後の日本を懸命に生きた女性たちを描いた作品が選ばれる。
今回の直木賞にふさわしいストーリーはこれではないでしょうか。

さて、最後に芥川賞にも触れておきましょう。
今回は今村夏子さんと高山羽根子さんが軸になると思いますが、
いよいよ今村さんの番ではないでしょうか。
こちらは今村夏子さんの『むらさきのスカートの女』を受賞作に推します。

受賞作は7月17日(水)の夜、発表される予定です。

投稿者 yomehon : 2019年07月16日 07:00