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2015年03月09日

女ともだちの完全犯罪


幼い頃、よく怖い夢をみて、夜中に目を覚ましました。

不思議なことに、目が覚めた時にはいつも内容は覚えておらず、
なにかに巨大なものに追い詰められて、
ものすごく怖い思いをしたという感覚だけが体に残っていました。


なぜ、繰り返しあんな夢をみたのだろう?
けっこうな頻度でみていたから、
もしかしたら隠された深層心理と何か関係があったのかもしれません。

大人になってからはしばらくあの悪夢の感覚は忘れていました。
ところが、奥田英朗さんの『ナオミとカナコ』(幻冬舎)を読んで、
ひさしぶりにあの「いや~な感じ」を思い出したのです。

デパートで外商の仕事をしている直美。
そして銀行マンに嫁いで専業主婦となった加奈子。
ふたりは学生時代からの無二の親友です。

直美はある日、加奈子が夫から酷い暴力を受けていることに気がつきます。
エスカレートするDVから逃れるために、直美が加奈子に持ちかけたのは夫を殺害すること。

来るべき決行の日に向けて、念入りに殺害計画が練られ、
やがてふたりは力をあわせて目的を達します。

計画は一部、いかにも小説ならではの偶然に支えられているところもあったりはしますが、
それでも一見、誰にも疑われるおそれのない、完全犯罪として成立したかにみえました。

・・・・・・ここまでが物語の前半。

後半はうってかわって、
夫の妹の執拗な追及をきっかけに、
直美と加奈子の完全犯罪のシナリオが、
徐々に綻びはじめる展開となります。

一転して追われる立場となった直美と加奈子。
彼女たちは果たして逃げ切れるのでしょうか――。


追い詰められた人間が一発逆転を目論むところや、
終盤に向けて物語が加速していくところなどは、
あの傑作『最悪』の系譜に連なる作品といえるでしょう。

奥田英朗さんは、
先日紹介した宮部みゆきさんと並んで、
現代のエンターテイメント小説の代表的な書き手。

その筆の運びは見事で、
読者は前半部分を読むだけで、
理不尽な暴力にさらされる加奈子にすっかり同情し、
加奈子を救出するために奔走する直美には共感をおぼえて、
気がつけばいつの間にか、ふたりの共犯者のような心境にさせられるはず。


ふたりが追われる立場となる後半に至っては、
じりじりと捜査の網が狭まってくる展開に、
まるで自分が警察に追い詰められているかのような切迫感にとらわれてしまうことでしょう。


奥田英朗おそるべし。

寝しなにこの作品を読んだとき、
ぼくは何十年ぶりかで、あのおそろしい夢をみたのでした。

「ああ、あれは警察に追われるおそろしさだったのか・・・・・・」

首筋にじっとりにじんだ汗をぬぐいながら、納得。

でも、あんな幼い頃にどうしてそんな夢をみていたのだろう?

もしかして・・・・・・犯罪者の素質でもあるんだろうか??


投稿者 yomehon : 2015年03月09日 01:00