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2015年01月16日

第152回直木賞は『サラバ!』に決定!


直木賞は『サラバ!』(小学館)でしたね。
西加奈子さんの記者会見での表情がとても印象的でした。
見ているこちらまで幸せになるような。
いやーおめでとうございます!!

それにしても今回はなによりも書店のみなさんのプッシュが凄かったですし、
本好きの知り合いの感想や日頃チェックしている書評家の方々の発言などでも
『サラバ!』は大絶賛でした。

ちょっと天邪鬼な思いもあって、『あなたの本当の人生は』を推しましたが
(あ、もちろんこの作品が受賞作でもおかしくなかったと今でも思っています)
作家生活十周年という節目での西さんの受賞は順当ではないでしょうか。


というわけで、あらためて『サラバ!』のご紹介です!

基本的なストーリーなどについては前に書いたので、今回はちょっと違う角度から。

きのうの記者会見で面白いなぁと思ったのは、
「村上春樹さんと似ているという声もあるがどう思うか」という質問があったことです。

西さんはちょっと戸惑いつつ、
そう言ってもらえるのはとても嬉しいと笑顔を弾けさせていました。


質問をした記者がはたしてどんなところに
村上作品との類似点を見出したかはわかりませんが、、
「あながち的外れではないかも」と感じたのは、
この『サラバ!』が、ジョン・アーヴィングに大きな影響を受けているからです。

村上春樹さんもこれまでエッセイなどでたびたびアーヴィング愛を語っています。


かつてポストモダン文学というジャンルが一世を風靡したことがありました。

小説はもとより、映画や音楽などの他ジャンルからのおびただしい引用をもとに物語を書いたり、
起承転結のようなわかりやすい展開を破壊してストーリーらしきストーリーがなかったり、
伝統的な物語とは一線を画したポップな小説(よくいえば。悪く言えばわけのわからない小説)が、
猛威をふるったことがあったのです。

ジョン・アーヴィングは、そんな風潮に異を唱えた作家でした。

ポストモダン文学をけちょんけちょんにけなす一方で、
アーヴィングが高く評価したのは、たとえばチャールズ・ディケンズでした。

ディケンズといえば、19世紀文学を代表する作家です。
バルザックなんかもそうですよね。

この時代に書かれた小説は、
ストーリーは波瀾万丈、喜怒哀楽が全部詰まった人間ドラマが特色で、
長い長い大河小説だけど、いったん読み始めたら面白くてやめられない、
そんな物語がほとんど。

アーヴィングは、ポストモダンブームに抗して、
19世紀に書かれたこのような小説を、
ふたたび現代に甦らせようとした作家です。

「物語の力」を強く信じる作家といえばいいでしょうか。

物語の力を信じる点において、
アーヴィングと村上さんは同志のような間柄です。

そして西加奈子さんもまた、
アーヴィングの志を受け継ぐ作家なのです。


『サラバ!』は、
ジョン・アーヴィングの名作『ホテル・ニューハンプシャー』にインスパイアされた作品です。

『ホテル・ニューハンプシャー』は、ベリー家というある家族のお話。
ともかくあらゆる不幸な出来事がこの家族を襲うのですが、
読んでいてもまったく暗い気分にならない。
むしろ読み終えた時には、前向きな生きるエネルギーをもらえているという稀有な物語です。
『サラバ!』と読後感がとても似ている。

『サラバ!』には、この作品が、ある人物との友情を象徴するアイテムとして出てきます。

ちょっと脱線しますが、『サラバ!』では、他の小説作品や映画、音楽などが
物語の中で実に効果的な使われ方をしています。
(たとえば、大学生になった主人公が壁の薄いオンボロなアパートに住んでいて、
連れ込んだ女の子とコトに及ぶときにかける曲がCurtis Mayfieldの「Move On Up」だったりとか。
せわしなく腰を動かすのにピッタリな曲調で思わず笑ってしまいました)


といっても、『ホテル・ニューハンプシャー』は、
単なるアイテムとして登場するだけではなくて、
より本質的な部分も『サラバ!』と共有しているように思えるのです。

それを言葉にするなら、
「人生ではどんなことでも起こりうる。でも人はどんなことも乗り越えていける」
というような感じになるでしょうか。
人生にたいする構えのようなもの、とでもいうか。


そういえば、アーヴィングつながりで19世紀文学のことを考えていて気がついたんですが、
『サラバ!』のあの長さは、ディケンズやバルザックの時代にはむしろ当たり前なんですよね。

上巻では登場人物にまつわるいろんな情報を把握するのにちょっと辛抱が必要なのに対して、
下巻ではすべての糸がつながってクライマックスに向かって一挙になだれ込んでいく。
あの流れはまさに19世紀文学を彷彿とさせます。

もちろん西さんがそんなことまで意識してお書きになったかどうかはわかりませんが、
物語の巨匠たちが活躍した時代との思わぬつながりに気がついた時に、
西加奈子という作家は、もしかすると文学の王道を歩いていく作家なのかもしれないと思いました。

最後に、記者会見でもうひとつ印象に残ったのが、
西さんが自分を支えてくれた編集者への感謝に、
心からの言葉を尽くしていたこと。


伝え聞いたところでは、
『サラバ!』を担当されたのは、
『世界の中心で愛を叫ぶ』『のぼうの城』なども担当された方とのこと。

実は以前、お目にかかったこともあるのですが、
文学への情熱を持った素晴らしい編集者です。

傑作は作者ひとりの力だけで生み出せるものではありません。

記者会見でも、西さんの言葉からいちばん強い思い入れが感じられたのが、
この編集者への感謝の言葉を述べているときで、
ぼくも聞いていて、思わずウルッときてしまいました。

二人三脚で素晴らしい作品を世に送り出されましたね。

おふたりに心からお祝いを申し上げます。
本当におめでとうございます。


投稿者 yomehon : 2015年01月16日 13:23