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2014年10月21日

「仕事」ってなんだろう


時々、「なんのために仕事をしているんだろう?」と考えることがあります。

おそらく働いているほとんどの人が、
いちどは抱いたことがある疑問ではないでしょうか。

考えてみれば、大人になってからのほとんどの時間を、
ぼくらは仕事をしながら過ごしているわけです。

にもかかわらず、どうしてそこまでの膨大な時間を仕事に費やすのか、
あらためて考えてみると、よくわからなくなります。

「好きだから」と答えられればいいけれど、
そんなふうに胸を張って即答するには、日々のストレスが多すぎるし。

じゃあ「金のためだよ」と割り切れればいいけど、
そんなふうにシニカルに構えるには、楽しいことだって多いし。
だいいち、お金のためだったら、もっといい給料の会社は他にあるでしょうしね。

ますますわからなくなります。

いったい、仕事ってなんだろう?

『告白』『悪人』『モテキ』などのヒット作を連発し、
日本映画界を牽引するプロデューサーである川村元気さんも、そんな問いを抱いたひとり。

仕事について考えた川村さんは、
仕事には二つの種類があるのではないかと気付きます。

ひとつは、ただお金をもらうための仕事。
日々の活計(たつき)というか、生活の手段としての仕事、ですね。

そしてもうひとつが、「人生を楽しくするための仕事」。

どんなに時間や労力を費やしてもまったく苦にならないうえに、
まわりのたくさんの人を幸せにすることができるような仕事。

もしかしたら世界を変えることだって、できるかもしれないような仕事。

川村さんはそんな仕事を「仕事。」と名付けます。

『仕事。』(集英社)は、川村さんがインタビュアーとして、
「仕事。」で世界を面白くしてきた先輩たちに会いに行った記録。

これが素晴らしくヒントに満ちた本でした。


まず出てくる人たちがいずれも素晴らしい「仕事。」をしている人ばかり。

敬称略でお名前を挙げさせていただくと、

山田洋次・沢木耕太郎・杉本博司・倉本聰・秋元康・宮崎駿・糸井重里
篠山紀信・谷川俊太郎・鈴木敏夫・横尾忠則・坂本龍一というそうそうたる顔ぶれ。

川村さんは彼らに、
自分と同じ年の頃、何を想い、何を考え、どう働いていたのか。
何に苦しんだり、何を楽しんだりして、ここまでやってきたのか。
その果てに何を見つけたのか。
そんなことを訊ねていきます。


一読して、居住まいを正されるような気になったのは、
ここに出てくる人たちが、誰一人として、
自分の過去の仕事を自慢げに語るようなことがないこと。

昔のことはさして興味がなさそうに淡々と語り、
「これからやりたいこと」といった未来の話になると、俄然、トーンが変わります。
目を輝かせ、前のめりになって夢中で話をしている様子が、紙面からうかがえるのです。


たとえば山田洋次さんは、80歳を超えてなお、学ぶ姿勢を失っていません。
若いころにはちっともよく思っていなかったという小津作品の凄さに年をとってから気づき、
その演出手法に学んで『東京家族』という作品に結実させてしまう。

現役バリバリの山田監督に刺激されて、同じ映画人である川村さんは、
50歳上の大先輩であるにもかかわらず、思わず「同世代のライバルのよう」だと漏らしてしまう。

山田監督もその言葉を当然のように受けて止める。
いや、ほんとに大きな人物だと思います。

坂本龍一さんもそう。

映画音楽の経験も知識もないにもかかわらず、
『戦場のメリークリスマス』の音楽をつくることになり、
徹底して映画音楽を研究したというエピソードについて訊ねられた坂本さん。

そこまでやる理由について坂本さんは、
オリジナリティのある仕事をするためにこそ、
過去の作品に学ぶことが必要なのだ、と言います。

そしてそれはすなわち、今は亡き「偉人たちとの対話」だと言います。
坂本さんにとって、過去の偉大な作曲家たちがライバルなのです。


この本で取り上げられている12人それぞれが、
自分なりの方法論を持ち、仕事をただのお金のための作業ではなく、
人生をより楽しく、充実させるための「仕事。」にしていました。


自分がやっているのは、果たして仕事だろうか。それとも「仕事。」だろうか。

ページをめくるたびに、常にそう問いかけられているような気がしました。

働くことをいまいちど見つめ直すのに最適の一冊。

悩みながら仕事をしているすべての人におススメします。


投稿者 yomehon : 2014年10月21日 13:37