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2011年07月12日

 第145回直木賞直前予想!


夏の本格的な到来と歩をあわせるかのように
今年も直木賞のシーズンがやってまいりました!
第145回(平成23年度上半期)の直木賞の選考会は7月14日(木)。
というわけで、さっそく恒例の受賞作予想とまいりましょう。

今回の候補作は以下のとおりです。

『下町ロケット』池井戸潤(小学館)

『アンダスタンド・メイビー』島本理生(中央公論新社)

『オーダーメイド殺人クラブ』辻村深月(集英社) 
※辻村の「つじ」は正しくは二点しんにょうの表記です。

『ジェノサイド』高野和明(角川書店)

『恋しぐれ』葉室麟(文藝春秋)


池井戸さんが3回目、葉室さんが4回目の候補入りで、そろそろ、という気もします。
辻さんは2回目、島本さんは芥川賞でこれまで3回候補になっているものの
直木賞は初めて。初エントリーは高野さんのみです。

ざっと内容をご紹介すると、

『下町ロケット』は、高い技術力を持った大田区の中小部品メーカーが、
契約切りや知財をめぐる訴訟などといった大企業からの嫌がらせに屈することなく、
やがて国産ロケットに部品を供給するに至るまでを描いた作品。

作者は建設業界の談合を題材にした『鉄の骨』
吉川英治文学新人賞を受賞するなど、着実に階段をのぼってきている作家です。
この『下町ロケット』は、読むと心が奮い立つというか、
震災を経験したいまだからこそ、たくさんの人に読んでいただきたい一冊。


『アンダスタンド・メイビー』は、作家生活10年をきっかけに書き下ろされた作品。
幼馴染の男性との関係を軸にしながら、ひとりの少女の成長が描かれます。
主人公の女性が男性とうまく関係を結べないところがポイント。
ネタばらしになるからあまり言えないのですが、
そういう主人公の男性関係に親との関係が影を落としていることがわかり、
主人公は初めて自分の過去と向き合うことになります。
そして見えてきた真相とは・・・・・

さすが作家生活10年を記念しただけのことはある力作です。
ただ、上下巻という形態自体は選考会でネックになるかもしれません。
(これまで上下巻刊行の作品が受賞したケースがあまり記憶にないため)

特に主人公の中学高校時代を描いた上巻は、
もう少し刈込めたのではないかと思いますし、
物語が長い割に、あっと驚くような展開もないので、
なんだか全体的にもったいない感じがします。


『オーダーメイド殺人クラブ』は、
世間の記憶に残るような衝撃的な方法で殺されたいと願う
中学生の少女を主人公にした作品。
思春期の少女の不安定な心のありようが見事に描かれた佳作です。

別作品でありますが、作者は今年吉川英治新人文学賞を受賞したばかりで、
同じ年に直木賞まで獲得するかなというのは少々ギモンが残るところ。
選考委員は「もう少しこの人の作品をみてみたい」とかいって、
今回は選ばないような気がするのはぼくだけでしょうか。


『ジェノサイド』は候補作の中でもっとも骨太なテーマと格闘した作品。
亡くなったウイルス学者の父が息子に託した謎のメッセージ。
そしてある傭兵に課せられたアフリカ奥地での暗殺指令。
このふたつが、「進化」をテーマに結びつく構成はお見事。
年末のミステリーのランキングでも上位にランクインすること間違いなし、
今年のエンターテイメントの収穫といえる一作です。


『恋しぐれ』は、江戸期の画家・俳人の与謝蕪村を主人公に、
彼を取り巻く弟子や友人たちとの交わりを丁寧に描いた連作短編集。

同じ俳人でも、松尾芭蕉や小林一茶、尾崎方哉などは
狂気を内に抱え込んだ表現者という感じがするのですが、
蕪村といえば、京の都にのんびり暮らしながら、絵を描いたり
俳句を詠んだりしていた優雅な人、というイメージしかありませんでした。
でもこの小説における蕪村は、ちゃんと表現者としての業も抱えた
魅力的な人物として描かれていて、とても好感が持てました。

ひとつひとつの短編には特にインパクトはありませんが、ただただ「巧い」。
衝撃はないけれど、物語職人としての安定感は抜群。
直木賞がひとつ好みそうな傾向の作品であることは確かです。


さて、ざっと見てまいりましたが、今回の予想は・・・・・・うーん、難しい。
文句なし、ダントツのトップがいない、団子レースという感じは否めません。
そんな中、なんとか予想をひねり出すとすると・・・・・・、

今回はまず、葉室麟さんが受賞をするのではないでしょうか。
候補になった回数からみてもそろそろでしょうし、
『恋しぐれ』には、これといった欠点も見当たりません。
「欠点がないのが欠点」という人もいるかもしれませんが、
誰もが安心して読める上質な物語、という意味では、
社会的影響も大きい直木賞にふさわしい作品といえるでしょう。


そして、そして――、今回はもう一作、同時受賞するのでないかと思うのです。
池井戸潤さんか高野和明さんか・・・・・・どちらだろう・・・・・・。

池井戸さんの『下町ロケット』は電車の中で思わず涙した作品です。
ひと言でいえば、「あきらめなければ夢はかなう」的な物語。
震災後はこういうストレートに心に届く物語が待ち望まれている気がします。
ただ、この作品で気になるのは、山本周五郎賞の候補になり落選していること。
直木賞の老舗文学賞としてのプライドの高さを考えると、
山本周五郎賞落選作が直木賞をとるという展開は・・・・・・うーんどうだろう。

かたや高野和明さんは、
江戸川乱歩賞受賞作『13階段』でデビューして以来、
寡作ながらも、着実に面白い小説を世に送り出している作家です。

聞くところによれば、作者は『ジェノサイド』の構想を
25年間もあたため続けていたのだとか。物語のスケール感といい、
あっと驚く真相といい、構想25年にも納得の仕上がりです。

エンターテイメント作品としては今年最大の収穫ですし、作品の射程が広く、
「人類とは何か」を考えさせるところまで届いていることを考えると、
もう一作にはこの『ジェノサイド』を推したい気がします。


といわけで、第145回直木賞、
当ブログの予想は、

高野和明さん『ジェノサイド』
葉室麟さん『恋しぐれ』
の二作同時受賞です。

投稿者 yomehon : 2011年07月12日 13:00