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2006年05月26日

晴天のヘキレキ!

いやーびっくりした。
このたび人事異動の発令があり、
なな、なんと、営業部へ異動となりました!!

時季外れの人事異動で、
しかも(出世した人は別にして)部署の異動は僕ひとり。
これじゃまるでなにかしでかしたかのようですが
もちろん何もやっておりません。(というか、何もバレていないはずだ・・・)
ともかく、そんなことがあったものですから、
今週はたいへんバタバタしてしまいました。

ところで。
今回の異動に関して
社内でいろんな人に声をかけていただくのですが、
みなさんの言葉を聞いていて気がついたことがあります。
先輩諸氏のおっしゃることはだいたい以下のパターンに
集約されるのです。

「このタイミングで営業に行くのはおまえにとってすごくいいことだと思う」
「大丈夫、大丈夫、おまえなら営業でもきっとやれるよ」

ありがたいことです。
もったいないお言葉です。
身に余る光栄です。

しかし!!
人間の心理というのは不思議ですね。
いろんな人に似たようなことを言われつづけるうちに、
僕のなかでむくむくと頭をもたげてきたギモンがあります。
それは・・・


「みんなして何か隠しているのではないか???」


ということ。
このようなギモンにとりつかれてからというもの、
先輩諸氏からお声をかけていただくたびに、
僕の耳にはみなさんの心の声が聞こえるようになってしまいました。

「今回の異動はおまえにとってプラスだよ」
(そんなわけないんだけどなー。でもこんなふうに励ましてやらないとなー)

「大丈夫よ!あなただったらできるわ!!」
(なんて不憫なの!こんなに太ってるのに外まわりだなんて!死んじゃうわ!!)


かあさん!!
都会の人が、みんなしておいどんを騙そうとしちょるですたい!!


・・・それにしても営業とは。
当然、営業に関してはまったくの素人です。
そんなわけで、困ったときの本頼み。
営業の奥義の書かれた本を探して、本屋さんへと走ったのでした。

買ったのは以下の3冊。

『ドキドキ初回営業の極意 「最初」の1回が「最大」の営業チャンス』
渡瀬謙(中経出版)

『買わせる心理学 トップ営業マンなら知っている』鈴木丈織(ダイヤモンド社)

『訪問しないで3倍売れる!トップ1%営業マンの「がんばらない」戦略』
八木猛(WAVE出版)

ワラにもすがりたい思いで読みはじめたのですが、
うーむ・・・・・あっという間に読み終えてしまった。

あまりにもスイスイと読めてしまった
この「ひっかかりのなさ」は何だろう。

なんというか、上記3冊を読んで感じたのは、
「どの本も同じ顔をしている」ということです。

「同じ顔」とはどういうことか。
それはいずれの本でも、「こうすれば成功する」ということだけが
語られているということです。

株式投資術の本とすごく似ていますね。
「私はファンダメンタル分析で儲けた」
「私はテクニカル分析で儲けた」
などなど、みなさんがそれぞれ自分の成功した投資法を披瀝しあっている。
この手の本はいくらでもバリエーションがききます。
「こうやって成功した」ということだけを書けばいいからです。
「私は我が家の天才犬ポチが指差した株を買って儲けました」
「私は鼻毛占いで株を買って儲けました」

たしかに万にひとつの可能性でそういうこともあるかもしれない。
しかし大切なことは、世の中「こうやって成功した」という人もいれば
「同じことをして失敗した」という人もゴマンといるということです。
当たり前の話ですが。


今回、不慣れな営業に異動になってよくわかったのですが、
よくわからない分野にのぞまなければならない人間にとって
もっとも役に立つのは、
「こうすれば成功する」という情報よりはむしろ、
「こんなことをしたら怪我をするよ」という情報です。

知らない国に行くときに役に立つのは、
その国でこんなラッキーなことがあったという情報より、
その国のタブーや危険地域についての記述であるのと同じことです。


そういう「失敗学」的な本というのが営業本のジャンルでは見当らなかった。

そしてもうひとつ、
よくわからない分野にのぞまなければならない人間に
情報をインプットする際に有効なのが「物語」なのですが、
営業本ジャンルにはこれもないのです。

活き活きとしたストーリー形式にすれば頭に入りやすいにもかかわらず、
退屈な参考書形式で書かれたものがすごく多い。
営業本のジャンルは工夫の余地があると思いました。

そんななかで読んで面白かったのが
『御社の営業がダメな理由』藤本篤志(新潮新書)です。

タイトルからして挑発的な本ですが、要するに、
営業センスというのは先天的なもので、後天的にのばすことはできない。
「いい営業マンが育たない」というのはそもそも前提を誤っている。
問題は個人の才能や資質にあるのではなく「システム」にある。
システムを変えることで、その会社の営業は驚くほど変わる、というのが
この本の主張。

システムをどう変えればいいか、
そのための方程式とはなにかということは、
ぜひ本を手に取ってご覧いただきたいのですが、
この本でひとつだけ疑問を感じたのは、
営業に限らず、仕事には、システムに還元できない部分が
あるのではないかということです。

いま僕はディレクターの仕事を後輩に引き継いでいますが、
その作業のなかでわかったのは、
長いことやってきた仕事のなかには引継ぎメモに反映できない
「暗黙知」的な部分がかなりあるということです。

言ってみればそれは、
無意識にバットを振って球を打ち返していたのを
コトバにするようなもので、
なかなかマニュアル的に説明できません。

おそらく世の営業マンたちが各々
「簡単には言葉にできない技術」を抱えているはずなのです。
僕がそういうものを獲得できるまでには
いったいどれくらいの時間がかかるのだろうと思いました。

(ところで、このブログはどうなるんだろう???)

投稿者 yomehon : 2006年05月26日 09:03