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「ヒッグス粒子って何だ?」(2)
コーチャー/橋本省二(はしもとしょうじ)さん(高エネルギー加速器研究機構)
大村正樹&橋本省二

大村正樹

キッズのみんな、こんにちは。サイエンステラーの大村正樹です。今週も東京浜松町にある秘密の科学研究所シークレットラボからお送りします「大村正樹のサイエンスキッズ」。さぁ新学期ですよ。もう始まったかな、まだかな? 来週かな?春はウキウキするシーズンです。みんな、すてきな春を迎えたでしょうか。今回もレベルの高い内容、ヒッグス粒子を取り上げます。先週、途中までうかがって今日はその集大成ですから、「何がすごいか?」という話が聞けますよ。


大村正樹

今週のサイコーも細かいお話をうかがいます。高エネルギー加速器研究機構の橋本省二さんです。こんにちは。

こんにちは。


大村正樹

前回ヒッグス粒子の話をうかがって、帰り際に橋本さんが「大事なことを言い忘れた」と。「ヒッグス粒子は質量を持っている」という。質量−これは理科で習いますよね。いわゆる重さ、僕らでいうと体重みたいなものですか?

う〜ん、いい線いってるんですけどね。


大村正樹

ちょっと違う?

ちょっと違いますよね。重さと質量は、やっぱり若干違うんです。


大村正樹

そうなんですか。じゃあ、質量とは何でしょうか?

質量というのは、動かしにくさのことなんですね。


大村正樹

へぇ〜。

単に重たいというのではない。ほら、お相撲さんを押しても、なかなか動かないでしょ。


大村正樹

質量のある人は(笑)。

質量がある人は、軽い人が押しても動かない。あれは単に地球に引っぱられて地面にくっついているからだけではなくて、質量があること自体が動かしにくさを生んでいるんですね。


大村正樹

ええ。

宇宙ステーションにお相撲さんを持っていっても、きっと動かしにくいですよ。だから重力によって引かれて重たいというのと質量はちょっと違うんです。まぁ関係はしてるんですけどね。


大村正樹

ヒッグス粒子は質量を持っている。

質量を生む。


大村正樹

生む?

生む存在なんです。


大村正樹

ほかの16〜17個の素粒子は、質量は?

本来なかった。


大村正樹

なかった。

素粒子を調べていくと、素粒子は質量を持っていてはいけないということがわかっちゃった。


大村正樹

素粒子は質量を持っちゃいけないけれど…。

みんな、質量を持っているでしょ。


大村正樹

はい。

質量があるのはありがたいことで、止まっていられるんですよね。


質量がないのは、例えばこの光。光は、光の速さでいつも飛んでいる。止まった光なんて見たことないでしょ。


大村正樹

はい。

いつも飛んでいるんですよ。


大村正樹

光って飛んでいるものなんですね!

飛んでいるじゃないですか、あっちからこっちに。


大村正樹

いやぁ、当たり前と思っていましたから、そんなに認識もなかったけれど。

ずっと遠くの星から、こうやって飛んで来ているわけです。


大村正樹

そうだ。

休むことなく止まることなく。


大村正樹

そうだ、太陽の光も飛んでいるわけですよね。

質量がなかったらあんな風にずっと飛んでないといけなかったけれど、質量があるおかげでこうやって止まってお話できるわけですよ。


大村正樹

僕ら人間の肉体ができているわけですね。

だけれど、素粒子は質量があってはいけないことがわかっちゃった。


大村正樹

はい。

困るでしょ。


大村正樹

はい。

で、どうなったかというと、ヒッグス粒子の理論に加えて、全然質量がないところに持っていって質量が生まれるようなトリックを仕かける。


大村正樹

ヒッグス粒子が?

そういう存在なんです。


大村正樹

そんなちっちゃい1ミリにゼロを18個もつける分の一の大きさなんだけれど、ヒッグス粒子はいろんなものを固体とか物質にくっつけてくれる役割を持っているということですか?

う〜ん、まぁね。ほかのすべての素粒子が光の速さで飛ばなくてもよくなる、質量を持てるための仕組みを用意してくれているんですね。


大村正樹

へぇ〜!

それは単にほかの素粒子にトントンとやって「ちょっと待てよ」とかいっている、“粒子くん”が何かやっているわけではなくて、ヒッグス何かというのが空間にベターッとどこにも存在する。そういうものです。


大村正樹

う〜ん。

粒子ってつぶつぶじゃないですか?


大村正樹

はい。

ちっちゃいでしょ。


大村正樹

はい。

だけどヒッグスの本質というのは空間にあまねく、どこにでもある。べったりとどこにでもあるということが、実は本質です。


大村正樹

えっ、じゃあ粒子がつぶつぶのイメージは、ヒッグス粒子に関してはアメーバみたいなネチョーッと広がりついているようなものですか?

ヒッグス粒子はあるんだけれど、ヒッグス場というのがそれ以外にあって、ずーっとここにあるんですよ、あらゆるところに。


大村正樹

ベースとしてあるということですか?

そうそう、ベースとしてある。それがちょこっと波打ったものがヒッグス粒子と呼ばれている。そこにベターッとあるものは、そのままじゃ気づかないようなものだけれど、「本当にあるんだったら揺らせば揺れるよね。ちょっと揺らしてみよう!」とやったものがヒッグス粒子。


大村正樹

ほぉ〜。

確かにヒッグス粒子があったということは、ヒッグス場というんですけれど、ちゃんと空間にいることがわかった。「そのおかげで、ほかの素粒子はみんな質量を持てました」という仕組みになっているんです。ちょっとややこしいですよね。


大村正樹

でも、そのややこしい研究を橋本さんはされているわけですね。それほど細かい、1ミリのうちにゼロが18個つくぐらいの何分の一の世界のヒッグス粒子を見つけるための機械はどんな感じのものですか?

それが加速器という。


大村正樹

加速器はどんな感じですか? ミキサーみたいなものですか?

このヒッグス粒子を見つけた加速器は円形、丸いドーナツ状のものです。全長27キロメートル。


大村正樹

ドーナツの全長が27キロ!

そうそう。


大村正樹

一周27キロ。二周したらフルマラソン以上の距離ですね。

そうそうそう。


大村正樹

そんなのですか(笑)。

そういうのがヨーロッパの地下深くに埋まっているんです。


大村正樹

えぇ〜、一周27キロのドーナツの加速器が埋まっている!

そのドーナツの中を粒子が走っている。


大村正樹

光の速さで?

ほぼ光の速さで走っている。


大村正樹

具体的にヨーロッパのどこですか?

スイスとフランスの国境にある研究所。


大村正樹

山ですね。アルプスの山のけっこう高いところに?

山の盆地になっているところですかね。


大村正樹

そこの地下にあるんですか?

地下にそういうのが埋まっているんです。


大村正樹

そのための研究所が一周27キロという。

セルン(CERN)という研究所がそこにあって、加速器を動かしている。


大村正樹

すごい!

粒子をお互い逆方向にドーナツの中でグルグルグルグル回して、ある場所で正面衝突、ガチャンとやるんです。


大村正樹

ぶつけているということですね。

ガチャンとやると、違うものが出てくる。いろんなものが出てくる。


大村正樹

はい。

思いっきりエネルギーを上げてぶつけると、時にはヒッグス粒子がポロッと出てくることがあって、それをずっと探していたんですよね。


大村正樹

ほぉ〜!30年40年かけ、「やっと見つけた!」というのが去年の出来事。

そうです。


大村正樹

最後に、このヒッグス粒子が僕らの暮らしの中でどう関わってくるんでしょうか?

全然関係ないですね、これは。


大村正樹

そういうことですか。

だけれどヒッグス粒子のことがわかると、宇宙の一番初めに何が起こっていたかということがわかるかもしれないから面白いじゃないですか。


大村正樹

全くその通りだと思います。別に日常生活に影響はなくても、夢とかロマンですよね。ちっちゃい頃からこういうのが好きだったんですか?

面白いですよ。みんなそうだと思うんだけれど、違うのかなぁ?


大村正樹

いやぁ「最近の男の子はどうなのか?」という問題があって、前々回ロボットの千葉工業大学の教授は「物を分解してみろ」というお話だったんですよ。「この仕組みがどうなっているか?」とか「何でこれがこうなるのか?」とか。「そこから始めると何か生まれるぞ」というメッセージだったんですが、橋本さんはどうですか?

う〜ん、私もやりたいなぁ。もう一回子どもに返って分解するところから始めたいですね。楽しいじゃないですか、やっぱりね。


大村正樹

いやいや、科学者の原点をかいま見た気がしましたねぇ。よかったら、また新しい発見があったら遊びに来てください。

そうですね。


大村正樹

それまで番組、絶対死守しよう(笑)。今週のサイコーは、高エネルギー加速器研究機構の橋本省二さんでした。どうもありがとうございました。

ありがとうございました。


大村正樹

無限大の世界って宇宙のことを指す例が多いけど、やっぱり細かい世界も無限大ですね。よくわかりました。いやぁ、本当にすごいお話だった。新年度、また新たに科学に向かって探究心が高まりました。みんな、どうだったかな? それではまた来週。バイバ〜イ!