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「におい、香りの話」(1)
コーチャー/塩田清二(しおだせいじ)さん(昭和大学教授)
「日本アロマセラピー学会」のHPはコチラ>>http://www.aroma-jsa.jp/
大村正樹&塩田清二

大村正樹

キッズのみんな、こんばんは。サイエンステラーの大村正樹です。今週も東京浜松町にある秘密の科学研究所シークレットラボからお送りします「大村正樹のサイエンスキッズ」。さぁ、みんな、目を閉じて鼻で大〜きく息を吸ってみてください。鼻の奥のほうで何か感じる?そう、何かにおいがしませんか?キッチンから夕食のにおい。車に乗ってるキッズだったら芳香剤のにおいとか。においというか、香りね。においと香りって同じような言葉だけれど響きは全然違いますよね。お知らせの後、におい、香りのお話を聞いてみたいと思います。


大村正樹

今週のサイコーは、昭和大学教授の塩田清二先生です。こんばんは。

こんばんは、よろしくお願いします。


大村正樹

お願いします。においというと、いいものからクサイものまでありますけれど、香りというと、とてもかぐわしいというか、「あぁ、香りかいでみたいな」と思える響きがありますよね。

そうですね。


大村正樹

先生は日本アロマセラピー学会の理事長もされていらして、ご専門は神経科学の先生でいらっしゃる。

はい。


大村正樹

そしてNHK出版から『〈香り〉はなぜ脳に効くのか』という本も出版されています。僕は今、北海道に住んでいますが、「ラベンダーの香りがとにかくいい、いい!」といわれています。でも北海道に住んでも、やっぱり一番いいにおいが僕はキンモクセイだと思っているのですが(笑)。

〈香り〉はなぜ脳に効くのか

そうですか(笑)。


大村正樹

短いシーズンですが、キンモクセイのにおいをかぐ一週間がたまらなく幸せです。やっぱり幸せを感じるのも、とても重要なことですよね。

重要ですね。


大村正樹

先生がにおいの研究を始めたきっかけは何だったのでしょう?

私は紹介いただいたように元々神経科学が専門で、視床下部(ししょうかぶ)といって脳の中に非常に重要な場所がありまして、そこが食欲調節をやっているんですね。


大村正樹

はい。

その食欲調節のメカニズムを調べていく過程で、いいにおいをかぐと食欲がわいてくるのですが「何でわくのか?」、そのメカニズムを知りたいなというのが最初です。


大村正樹

確かにお肉などいいにおいがすると「食べたい!」と思いますものね。

それで結局そのにおいが視床下部にどういうふうに作用して食欲を促進したり抑制したりするのか、それをもうちょっと科学的に知りたいなということで実験を始めました。


大村正樹

ほぉ〜。

それが5年ぐらい前からになります。


大村正樹

最近ですね、においに関する研究を始められたのは。

そうですね。


大村正樹

いいにおい、ジュワーッとはじけるような肉汁の垂れた肉を見ると、やっぱり食欲わくじゃないですか。

わきますね。


大村正樹

だけれど、ちょっと香りが立たないような食材を見ると、あまり食べたいなと思わないですものね。

そうですね。


大村正樹

それはやっぱり視床下部という?

視床下部の中に何千という神経細胞があって食欲を促進するニューロンと抑制するニューロンというんですが、そこに摂食センターと満腹センターというある細胞がかたまってる場所があるんですね。


大村正樹

せっしょくセンターとまんぷくセンター?

はい。


大村正樹

食べるのを控えるセンターと?

摂食って促進するんです。


大村正樹

促進。

満腹というのは、お腹いっぱいになっちゃう。


大村正樹

「もういいよ」という。

そうです。


大村正樹

そういうふうに感知するんですね。

はい。そういうのが視床下部の中に、神経核といって神経細胞がかたまっている場所があります。大きく分けるとそういう場所があって、そこでわれわれは、いろんな五感刺激で入ってきた情報を視床下部で判断して「お腹がすいた」あるいは「満腹になった」ことを感じるんです。


大村正樹

においって鼻で感じるといいますけれど、視床下部というところが感じる場所なんですね。

まぁそういうことになります。


大村正樹

どこですか、それは?

脳の深いところです。


大村正樹

脳の深〜いところにあるんですね。

われわれは外から見えない。


大村正樹

鼻じゃないんですね(笑)。

鼻じゃないです。


大村正樹

舌でもなくて。

ないです。


大村正樹

脳の深〜いところでにおいを感知して、「食べたい!」と思うのか「もういらないよ」と思うのか。

それは結局においをかいで鼻から入りますから、どういうふうにして情報が視床下部に行くのかとか、そしてどういう物質が関係してるかを5年間ぐらいずーっと研究してきたことになります。


大村正樹

へぇ〜。ちなみに「犬は鼻がいい」といいますね。

そうです。


大村正樹

犬と比べて人間の嗅覚、においをかぐ能力はどれぐらい?

ほんとに人間は退化しているので、犬に比べると100万分の1ぐらい能力は落ちてるんです。


大村正樹

ほぉ〜。

それからネズミがいますが、ネズミよりもわれわれのほうがにおいをかぐ能力が低いです。


大村正樹

今、先生「落ちてる」とおっしゃってましたが、昔は人間は犬並みにあったんですか?

おそらく。


大村正樹

えっ、そうなんですか!

おそらく、ね。


大村正樹

ええっ! そうなんですか。

だから進化の過程で、人間というのはやっぱり物をまず最初に食べないと生活できないし子孫を残せないので、物を食べるためにはにおいが非常に重要なんですね。


大村正樹

はい。

今みたいに食べる物がまん延しているような時には必要なくなっちゃってる。だから物が少ない時にはセンサーが非常にアンテナを張りめぐらさないと物を食べることができなかったわけで、だんだんだんだんわれわれは退化してきてるんです。


大村正樹

いや、これはすごい衝撃的な話です。つまり昔のネアンデルタール人たちは誰が与えてくれるわけでもないので、生きていく中で「これは食べてもいい」「これは危険だ」という嗅覚がすぐれていたからちゃんと子孫を繁栄してきた。

おそらく。


大村正樹

僕らは今、いろんな食材が揃って調味料もできていて、食べられる物と食べちゃいけない物が線引きされてるからちょっと油断しちゃってるんですね。

まぁそういうことになると思いますね。昔は今みたいに加工食品などないわけですから、自然の物をとって食べて暮らしていたわけです。


大村正樹

はい。

だけど、例えばキノコだって色々な種類がありますが毒キノコもあるわけです。これはわれわれが目で見てにおいをかいで、ある程度味わって判断する。だけど味わってから毒だと気づいても、もう遅いわけですよ。だからまずはにおいや視覚、見ることで食べていいか悪いかを判断したんだと思います。


大村正樹

いやぁ〜。

だから香りも、同じ食材でもおいしく感じるか感じないかを遺伝的なものと後天的−やっぱり生まれ育った後の環境で非常に影響される。例えば私たちはマツタケをおいしいと思うわけですが、北欧のスカンジナビア−スウェーデンやノルウェーの人たちは、靴下の腐ったにおいとして感じるんですよ。


大村正樹

マツタケは靴下のにおい、靴下をさらに腐らせたにおいですか(笑)。

ええ、向こうの人は。


大村正樹

今、ラジオの前もにおいたってきましたねぇ(笑)。

そうそうそう(笑)。


大村正樹

やっぱりイメージって大事ですね(笑)。

大事(笑)。


大村正樹

ハハハハハ。

日本に入ってきているマツタケは北朝鮮や中国がメインでしたが、今は北欧です。


大村正樹

えっ、靴下の腐ったにおいで北欧はもう食べたくないから、僕らのところにくれるんですか!?

そうなんです。


大村正樹

で、僕らが「うまい、うまい!」と食べてる。

そうそうそう(笑)。


大村正樹

逆に僕らが「こりゃ、食えないよ」といって、北欧の人たちが喜んで食べてる物ってあるんですか?

それもあると思いますね、たぶん。


大村正樹

へぇ〜。

これはほんとに民族差とかありますよ。


大村正樹

あっという間に時間が来ちゃいました。まず根本的なことは、においは鼻じゃなくて脳みその奥の奥のほうにある視床下部でキャッチして、それがにおい、香りをかぐセンサーになっているという。それが一番重要で、来週またさらに詳しい話をうかがっていきたいと思います。今週のサイコーは、昭和大学教授の塩田清二先生でした。どうもありがとうございました。

はい、どうも。


大村正樹

いやいや、僕らの鼻は退化してるんだね。いや鼻じゃない、視床下部というところですね。その視床下部、におい香りを認知してかぎ分ける器官がずいぶん退化しているという話で驚きましたねぇ。便利になったもんだねぇ。昔は犬レベルの嗅覚を人間が持ってたという(笑)。どうだったでしょうか?キッズのみんなも楽しい週末をね。バイバ〜イ!