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「聴覚の働き」(2)
コーチャー/柏野牧夫(かしのまきお)さん(NTTコミュニケーション科学基礎研究所)
柏野牧夫さん紹介ページはコチラ>>http://www.brl.ntt.co.jp/people/kashino/
大村正樹&柏野牧夫

大村正樹

キッズのみんな、こんにちは。サイエンステラーの大村正樹です。今週も東京浜松町にある秘密の科学研究所シークレットラボからお送りします「大村正樹のサイエンスキッズ」。6月ももう終わりだねぇ。来月になったら夏休みの計画もちょっと立てたいよねぇ。さぁ、今回も聴覚を取り上げます。人間の五感のひとつ聴覚。これは脳の働きと密接な関係があるというお話まで先週うかがったんですが、今日もみんなにじっくりと耳すませて聞いてもらうよ。お知らせの後!


大村正樹

今週のサイコーも、もう音のプロフェッショナルですね。NTTコミュニケーション科学基礎研究所の柏野牧夫さんです。こんにちは。

こんにちは。


大村正樹

先週は、いわゆる耳がいいのは実は脳の回転が速いということで、私は軽くショックを受けたんですけれど(笑)。よく地獄耳とかありますよね。

はいはい。


大村正樹

地獄耳の人は単なる聴覚がいいのか、やっぱり頭の回転が速いのかどちらでしょうか(笑)?

回転かどうかわからないですけれど、やっぱり脳でしょうね。


大村正樹

地獄耳もほめ言葉ですね。

まぁ、そうともいうかもしれません。というのは、いわゆる耳がいいとか悪いとかをお医者さんで測られたりするのは小さい音が聞こえるかどうかです。


大村正樹

はい。

でも小さい音が聞こえるから音の区別がつくかは別問題で、例えばオーケストラを聞いていろいろ音が聞きわけられるとか、たくさん人がしゃべっててよくわかるとかは、小さい音が聞こえることとは必ずしも関係ない。


大村正樹

ええ。

また別問題です。


大村正樹

オーケストラですね。有名な曲で『ボレロ』がありますね。あれは最初聞こえるか聞こえないかのところから入って、最後は一気にいくじゃないですか。

そうですね。


大村正樹

だんだん楽器が加わってくることで知られてますよね。

はい。


大村正樹

本当に聞きわけられる人は「今、これが入った」とか、そういうセンスって脳の能力が?

はい。


大村正樹

ちょっと今週も何か、我々をびっくりさせるようなものを視聴させてください。

そうですね。じゃあ、聖徳太子に挑戦していただきますかねぇ。


大村正樹

聖徳太子!?

そうですか。聖徳太子じゃなくても、みなさんけっこうそういう意味ではすごい脳を持っているという話かもしれないですけれど。


大村正樹

みんなもしっかり聞いてね!

まず何人かの声を混ぜて出します。聖徳太子は10人の訴えがいっぺんで聞こえたといいますが、みなさんはどうかなということで。


大村正樹

何秒ぐらいですか?

ちょっとだけです。本当に一瞬。この中で女性が数字を読みあげてますので、その数字をよく聞き取ってください。あとでおたずねします。じゃあいきます。

(※何人かが重なった声)


大村正樹

もう一回お願いします。

(※何人かが重なった声)

どうでしょう?


大村正樹

わかった人? ラボ内に8人いるんですが、誰もわかってないですねぇ。最後の「40」だけはわかります。

「40」正解です。入ってます。


大村正樹

何ケタですか?

もっとたくさんあるんですけれど。


大村正樹

「3689640」。

違いますねぇ。それはいいとして…。


大村正樹

ちょっと待って、答えは?

実は、それはまだ序の口です。


大村正樹

えぇっ!

ここから先です。ここから先が本番。


大村正樹

はい。

じゃあ、何人しゃべっていたかわかります?


大村正樹

当てずっぽうになっちゃうんですが、7人ぐらいですかねぇ。

ほぉ〜、でも珍しいタイプです。「だいたい3〜4人」という人がほとんどです。これ、ちゃんとした実験をやってみると、2人まではほぼ100パーセント当たるんですが、3人以上になると全然当たらなくなる。「だいたい3〜4人かなぁ?」と言い出すんですね。


大村正樹

ええ。

おそらく聖徳太子に同じことをやっても、たぶん同じことだと思います。聖徳太子も短い間にいっぺんには2人か3人しかわからないはずなんですよ。


大村正樹

そうですか!「はず」ね。

ところが、ところがですね、最初にちょっと手がかりを出します。ある声を出しますので、その声がたくさん混ぜた中に入ってるかどうかを聞いてみてください。

(※「毎日の暮らしに電話は欠かせません」という女性の声。続けて何人かが重なった声)


大村正樹

入ってましたねぇ。

これ、最初から入ってるんですよ。さっき「046…」といった時もずっとこの人がしゃべってたんですね。


大村正樹

ということは、女性の声が2人入ってた。

まだ別の声もあります。

(※「cats and dogs hate each other」という女性の声。続けて何人かが重なった声)


大村正樹

女性の声が3人になった。

この英語の人も最初からいたんです。また別の声も聞きましょうか。

(※「この声が聞こえますか?」という男性の声。続けて何人かが重なった声)


私の声ですけれど、男性の声も最初からずっといっている。


大村正樹

う〜ん。

だから一番最初「数字だけ聞いてください」といった時に、「いや、英語の人がいました」とか「男性がいました」とか、それぞれが何をしゃべっていたかがわかる人はほとんどいないはずです。たまたま断片的に聞こえることはあり得ますが、全部がきれいに聞こえることはない。


大村正樹

なるほど。

おそらく聖徳太子もそうなんですよ。あるいは指揮者の人でも。だけれど何がすごいかというと、やっぱりどこを聞き取るかうまくコントロールできる。だから、この瞬間はこの言葉を聞く、この瞬間はここを聞くみたいな感じで、そのひろったものから全体を再構成する、つくり出す。


大村正樹

ええ。

先週の雑音があったらその前後から補うというのがありましたけれど、必ずしも言葉が全部聞こえなくても実は意味がわかるわけです。半分も聞けば、十分音はわかる。


大村正樹

うん、うん。

半分じゃなくても本当はわかるんですけれど、聞かなくてもいいところがいっぱいあるんです。そういうコントロールがすごくうまいと、一見たくさん聞こえるように見える。


大村正樹

なるほど、へぇ〜。結局、数字は何ていってたんですか?

数字は「046240」だったかなぁ。


大村正樹

もう1回聞かせてください。それを意識して聞きましょう。

(※何人かが重なった声)

ちょっと厳しいかもしれない。


大村正樹

いやぁ、ちょっと待って。ラボ内にそれっぽくうなづいているやつがいるけれど、本当かぁ?

別に聞こえなかったからといって、がっかりする必要は全然ないです。元々聞こえないようなもんですから。要するに不利な状況というんでしょうか、この女性が1人でしゃべってたら多くの人が聞こえると思うのですが、こんなにやかましいところでいろいろガヤガヤしゃべってて聞くというのはそもそも難しい話なんです。


大村正樹

ええ。

今コンピュータでこういういろいろな声をわけるとか、聞き取ることをうちの研究所でもやってますが、非常に難しい。


大村正樹

う〜ん。

1人だけだったら十分できて、いっぱい声があったらお手上げになったりするんですが、人間はそういう状況でも非常にフレキシブルというか融通がきく。つまり今この声が聞きたいと思う時は、なぜかその声がよく聞こえる。その代わり、ほかの声はどうでもよくなって何人いるかもわからない。そういう非常に都合のいい聞き方をできることが人間の脳のすごいところですね。


大村正樹

いやぁ、すごい話だなぁ!

だから、これも非常にうまいことをやっているともいえますね。手を抜くところは抜いて…。


大村正樹

そうですね。不要な情報は脳がはじき、必要な情報を脳は入れるということですね。自然にそういうふうに脳は働いてくれている。

そうです。普通に考えたら、1ミリが測れる物差しがあれば1センチ10センチは問題なく測れる。ところが、例えていえば1ミリは測れるのに1センチはわかりませんみたいなこともありますよ、ということです。


大村正樹

いやいや、単なる耳の音の話、しかもNTTコミュニケーション科学なので電話の話でもするのかなと思ったら、非常に深いところまでお話をうかがえとても得した気分になりました。またぜひ番組に来てくださいよ。

はい。


大村正樹

今日で終わりの気がしないんですけれど。

ハハハ。


大村正樹

ぜひまた番組に力を貸してください。今週のサイコーは、NTTコミュニケーション科学基礎研究所の柏野牧夫さんでした。ありがとうございました。

ありがとうございました。


大村正樹

いやぁ、2週間おもしろかったです。柏野さんは、ヤマハミュージックメディアから『空耳の科学〜だまされる耳、聞き分ける脳〜』という本を書かれてます。“目からウロコ”じゃないけれど、“耳からアカ”みたいな感じのちょっと衝撃でしたね。みんな、どうだったでしょうか?それでは明日から7月、みんな元気に7月を乗り切りましょう! じゃあ、またね。バイバイ!