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「走る科学」(1)
コーチャー/桜井智野風(とものぶ)さん(東京農業大学准教授)
大村正樹&桜井智野風

大村正樹

キッズのみんな、こんばんは。サイエンステラーの大村正樹です。今週も東京浜松町にある秘密の科学研究所シークレットラボからお送りします「大村正樹のサイエンスキッズ」。さぁ、今日はみんな知ってると思うけれど、大寒という1年で最も寒いといわれている日です。この時季、校内マラソンってない? だいたいこの前後にマラソン大会がよくあると思うのですが、今日は長距離にとっても詳しいサイコーが登場します。だから、みんなのマラソン大会の順位もひょっとしたら上がるかもしれないよっ。


大村正樹

今週のサイコーは、東京農業大学准教授の桜井智野風先生です。こんばんは。

こんばんは。


大村正樹

桜井先生はスポーツ科学、スポーツ生理学を専攻されていて、秀和システムから『ランニングのかがく』という本を出版されてます。ランニングというと短いものから、42.195キロのマラソンがあったり、あと100キロマラソンとか。間寛平さんは地球一周しちゃったりしたじゃないですか。

はい、はい。


大村正樹

ランニングのことなら何でもご存じですか?

一応、自負はしておりますが(笑)。


大村正樹

先生はランニングされるんですか?

私はずっと高校時代から陸上競技に関わっていて、現在も陸上競技と関連した仕事もしております。


大村正樹

桜井先生の名前がトモノブ先生というんですが、トモの字が嵐の大野智君の「智」でしょ。野原の「野」に「風」。最後に風がつくんですよ。本名ですよね。

本名です。


大村正樹

走るためにつけられた名前みたいなものですね。

昔はよく走ってたんですが、現在はお腹に肉がついてなかなか走れなくなったり(笑)。


大村正樹

そうですか(笑)。

研究のほうが主になっております。


大村正樹

ハハハハハ。でも、やっぱりそれをお仕事にされてるんですね。

はい。


大村正樹

ちなみに公式マラソンで、世界で一番長い距離は何キロマラソンですか?

公式では私もよくわからないんですが、一応世界の陸連が認めているのでは100キロが一番長いと思います。


大村正樹

へぇ〜。じゃあ、普通のフルマラソンの2.5倍近い距離、人間は走れるんですね。100キロ、一日。

はい、走っておりますね。


大村正樹

実際、僕ら人間って頑張れば何キロぐらい走ることが可能ですか?

えぇと、ですね。逆に質問してよろしいですか?


大村正樹

はい。

大村さんは例えば車でドライブに出かけた時、車が走れなくなる原因は何があると思われますか?


大村正樹

ガス欠。

と?


大村正樹

えっ? 走れなくなる原因はガス欠とあと…。

車の故障ですね。


大村正樹

パンク。

ですよね。人間の体も一緒なんです。いわゆる燃料になるのがわれわれの体のエネルギーで、故障というのが体のダメージ、筋肉がダメになったり。


大村正樹

ひざが痛いとか。

実際に僕らの燃料となる部分−脂肪と糖が体にあるのですが、これを全部使うと普通の男性のジョギング程度で140時間ぐらいは続くといわれてます。


大村正樹

故障さえしなければ140時間走ることが可能ということですか!?

という理屈になります。というのも、脂肪をエネルギーにかえるには糖が必要なんです。


大村正樹

ほぉ〜。脂肪はだまっていてもついてますけれど、糖は外部から摂取しないといけない。

その通りです。


大村正樹

前にサイコーで、「赤い筋肉と白い筋肉があって、白い筋肉は短距離に向いている。マラソンランナーは赤い筋肉で、遅い筋と書いて遅筋(チキン)」という話をうかがったんですが、それと関係あるんですか?

あります。赤い筋肉−いわゆる遅筋はたくさん糖をためられる。ですからマラソンの一流ランナーは、脂肪は少なくてもたくさんの糖をためられるようになるんですね。


大村正樹

ため方はどうするんですか?

食べるんです。


大村正樹

へぇ〜。

みなさんご存じないかと思いますが、フルマラソンの一流ランナーはものすごく食べます。


大村正樹

いつ食べるんですか?

三食ともしっかりとっています。


大村正樹

へぇ〜。あの高橋尚子さん、Qちゃんがステーキを食べたり大食いだという話は聞いたことがありますけれど。

その通りです。


大村正樹

ただ、それ以外の選手で野口みずきさんが大食いとか、福士さんが大食いとか聞いたことがないんですけれど。

みなさん、よく食べられますよ。


大村正樹

そうなんですか!

はい。


大村正樹

だけど体形には出ないんですか?

出ない。その分、練習もしてますし、エネルギーも使っているわけですよね。


大村正樹

走るのが趣味、仕事みたいなものですからね。

はい。


大村正樹

へぇ〜。何がふさわしいですか、食料として?

やはり糖ですが、脂肪も当然とらないといけない。脂肪がなくなってしまうと後半というか、長〜い時間運動し続けるための貯蔵庫に入っているエネルギーがなくなっちゃう。糖はすぐ使われてしまうので、その分やはり脂肪もとらないといけない。


大村正樹

ほぉ〜。

ですから脂身といってもいけませんが、脂肪でもとっていいものと悪いものがあるんです。そのうちとっていい不飽和脂肪酸−細かい難しい話になりますけれど、油でいうとラードはダメですがサラダ油などはいいとか。油によっても、とり方によって体の中に脂肪をためられることになります。


大村正樹

うちの娘が来週校内マラソン大会があって、渋谷区ですが4キロ走らなくちゃいけない。戦々恐々としてるんですよ。

はい(笑)。


大村正樹

マラソンの前にふさわしい食事とは? ちょっとヒントとしては?

4キロだったらすぐ終わっちゃいますね。


フルマラソンとか100キロとは違いますから(笑)。できれば、たくさん糖をとったほうがいいと思います。ご飯です。パスタです。


大村正樹

炭水化物?

炭水化物です。


大村正樹

マラソンの前に炭水化物。

それも前日ではなくて、1週間前ぐらいからその食事をずっと続けておく。これが一番。


大村正樹

えっ! 今日から与えなければ。

お腹いっぱいというよりも、いわゆる腹八分目ぐらいの糖の食事を主にしたものをたくさん食べておく。ただし、その中に油も少し含んでいたほうがいい。


大村正樹

その油というのは何がいいんですか?

ふだん食べている中に油がけっこう入ってますから。


大村正樹

天ぷらとか?

いいと思いますよ。


大村正樹

カルビとか?

いいんじゃないんですか、焼肉(笑)。


大村正樹

ホルモンとか、マルチョウとか(笑)。

そのほかにご飯食べたりパスタ食べたりしたほうが、子ども達はいいと思いますよ。


大村正樹

じゃあ、けっこうハイカロリーな食事をしてもいいんですね。

その通りです。マラソン選手には焼肉が好きな人が多いですよ。


大村正樹

いやぁ、ちょっとイメージが。マラソン選手って何か繊維質を食べて代謝をよくしながら、常に細〜い体を維持していてカモシカのような感じかと思ってたんですけれど(笑)。

お酒が好きな選手もたくさんいます。


大村正樹

えぇ、うっそ〜!(笑)

ですから、そういう意味ではいろんなものを食べてますが、やはり一流選手は食事を気にしてますね。


大村正樹

気にはしてるけれど、ただいっぱい食べる。

はい。


大村正樹

逆に食べちゃいけないという料理はあるんですか?

どうなんでしょう。でも、油っこいものばかり食べているのはよくない。特にジャンクフードといわれるやつですね。ファーストフードみたいなものばかりだと、エネルギーになるために必要なミネラルとか電解質が含まれない。


大村正樹

ええ。

そうすると、糖も脂肪もうまく使われないようになっちゃう。ですから、インスタント食品みたいなものは、あまりたくさん食べてもよくない。


大村正樹

ほぉ〜。

ふだんわれわれが食べている、お母さんがつくったご飯みたいなものをたくさん食べると一番いいと思います。


大村正樹

日常生活で与えられるものを食べて…。

ちょっとご飯を多めに、という形のほうがいいんじゃないでしょうかね。


大村正樹

へぇ〜。じゃあ、遅筋が赤い筋肉−糖分を取り込みやすい筋肉はある程度先天的なものかもわかりませんけれど、鍛えれば長距離を走るに耐える筋肉をつくることもできるんですか?

そうですね。前の先生もおっしゃってたかと思いますが、速筋(ソッキン)−いわゆるスピードがあって力が出る筋肉の線維は比較的、遺伝的な要素が強いんです。


大村正樹

はい。

特にオリンピックで優勝する選手のレベルになると、当然僕らが持ち得ないものを持っています。ただ遅筋は、鍛えればいくらでも増える。


大村正樹

赤い筋肉は鍛えようが…。

なぜ遅筋が赤いかわかりますか?


大村正樹

えっ、ロースだからですか。

ハッハハハハ。


大村正樹

わからない。えっ、何で赤いのか…。

あの白と赤の違いは、中に入っている血管の量です。


大村正樹

おっ、血の気が多いんですか?

そうです。血管が多いんで赤く見える。ということは、中にたくさん血管を通してあげれば遅筋が増えることになります。


大村正樹

血管の通し方って、新しくトンネルを掘るように血管は増えるんですか?

私たちが長〜い運動をゆっくりやっていると、筋線維の中に血管がたくさん通り始めます。


大村正樹

知らなかったぁ!

というのは、みなさんが運動のトレーニング効果として、例えば長く走れるようになる。これは間違いなく遅筋線維が活性化している証拠なんです。


大村正樹

ちょっと今、イメージがメラメラ湧きました。

アッハハ。


大村正樹

お肉の中で、僕らが運動をすると血管がニョロニョロニョロニョロとだんだんはびこっていくわけですか?

即効的にはないです。当然時間はかかりますが、そういう現象は起こります。


大村正樹

いやぁ、おもしろい!!

ですから、世界のスプリンターがいますね、ボルトとか。


大村正樹

ウサイン・ボルトね。

ああいう選手がもしマラソンを始めて世界一を目指そうとすると、可能性はあるわけです。


大村正樹

そうか、鍛えられるから。

はい。


大村正樹

ただ僕らはウサイン・ボルトにはなれない。

その通りです。


大村正樹

だけど、ボルトは…。

世界のマラソン一位になる可能性は、“なきにしもあらず”です。


大村正樹

あっ、もうこんな時間だ。先生、この番組は短いので、また来週もより突っ込んだ話をうかがってよろしいですか?

はい、よろしくお願いします。


大村正樹

今週のサイコーは、東京農業大学准教授の桜井智野風先生でした。ありがとうございました。

どうも。


大村正樹

ということで、お母さんがつくるものを食べていれば大丈夫なんだね。特に何か制限するわけでもなく、炭水化物−ご飯とかスパゲッティね。こういうものをたくさん食べて、あとは油分もOKということですね。みんな、マラソン大会が近かったら1週間前から食事の準備もしてください。それでは、来週もまた夕方5時半に会いましょう。キッズのみんなも楽しい週末を。じゃあね!