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「人間の脳と記憶」(1)
コーチャー/田中真知さん(科学ライター)
大村正樹&田中真知

大村正樹

キッズのみんなは元気かな?サイエンステラーの大村正樹です。今週も東京浜松町にある秘密の科学研究所シークレットラボからお送りします「大村正樹のサイエンスキッズ」。さぁ、みんなテストとかやるでしょ。テストをやる時に勉強するよね。勉強したことを覚えてなくちゃテストにならないわけで、それを何というか知ってる?−そうそう、記憶力というねぇ。記憶力がいい人と悪い人がいると思いますが、みんなはどっちだろう?そもそも記憶って何なの?今日は人間の脳、記憶に詳しいサイコーが遊びに来てくれますよ。お知らせの後!


大村正樹

今回のサイコーは、科学ライターの田中真知さんです。こんにちは。

こんにちは。


大村正樹

田中さんは技術評論社から『ひとはどこまで記憶できるのか』という本を出されています。ラジオの前のキッズはテストもあるし…。計算は記憶じゃないんですよね。だけど、歴史とか社会、理科の葉っぱの名前や花の名前、あれは記憶の範ちゅうで?

記憶ですね。


大村正樹

勉強には記憶するものと自分で考えなければいけないものと、2つあると思うのですが、記憶って大事ですよね。

ないと困りますねぇ。


大村正樹

田中さん、こうやって本を出されるということは、ご自身が記憶に関心を持っているのか、記憶に自信があるのか、どちら?

記憶には、実は自信がないんですよ。


例えばコンピューターを使うようになってよく思ったのは、だいたい覚えられないことってコンピューターに入れちゃいますよね。


大村正樹

打ち込んじゃう。

コンピューターって絶対間違えないですよね、1年経っても2年経っても。でも人間は2年経つと、たいていのことはあいまいになっちゃってるじゃないですか。


一方で、脳ってものすごく優秀だとか、宇宙に行けるような機械まで発明できてしまう。その脳が何でこんなに記憶に関しては弱いんだろう? そのあたりが関心の基本だったんですね。


大村正樹

人間の記憶のもろさみたいなもの?

もろさみたいなものが。


大村正樹

はぁ〜。

そうすると自己弁護みたいになってしまうんですが、忘れるのには何か理由もあるんじゃないかなということなんです。


大村正樹

ほぉほぉ。1回聞いたことや覚えなければいけないことを忘れてしまうのには理由がある? それはどうなんですか、結論は出たんですか?

結論は、まぁ仮説だと思うんですけれど、人間が何もかも記憶することはおそらくできないですね、脳にも限りがありますから。ですから、何かを効率的に忘れていかないと、人間の行動はいろいろ不具合が出てしまうのではないかというのがありまして。


大村正樹

ふ〜ん。

例えば、動物がそうなんですよ。動物の脳は小さいから頭が悪いとかいわれていますがそうではなくて、情報処理をする段階でけっこう最低限のことしか記憶しないようになっている。


大村正樹

必要最低限ということですね。

そうなんです。親というものを認識する時に、体全体を見て認識しているわけではなくて、目の位置とか体の形だけで実は親を認識している。ですから棒1本と丸1個をヒナの前に持ってきたりすると、それを親と認識してしまう。その程度の記憶でも、一応生きていくことができるんですね。


大村正樹

成り立つわけですね。

成り立つんです。逆にいろんなことをすべて記憶してしまえる人、そういう特殊な能力を持っている人がいるんですよ。そういう人に往々にして共通するのは、みんな苦労するんですね。


大村正樹

ふ〜ん。

例えば、人にはいろんな表情があるわけです。笑っている顔、泣いてる顔。でも記憶のものすごい人は、その笑っている顔と泣いている顔を別々に記憶しちゃうんです。


大村正樹

えっ、どういうことですか?

同じ人を見て笑ったり、泣いたりしている。それは同じ人がやっていることだと思いますよね。


大村正樹

はい。

記憶がものすごく優れている、超記憶症候群と呼ばれている人たちの中には、その笑っている顔と泣いている顔を別々の枠組み、カテゴリーの中に入れちゃう。


大村正樹

田中さんが僕の前で笑ったり泣いてたりしても、僕がもし超記憶症候群だったら田中真知さんが2人いるということ?

そういうふうに思えちゃったりするんです。


大村正樹

へぇ〜。

記憶がありすぎることによって、困っている人たちも実はいたりするらしいです。


大村正樹

同じ人間で?

同じ人間で。


大村正樹

会ったことないですよ、そんな人。

もちろん、めったにあることじゃないですけれど。おそらく人間というのは進化の過程であまりにもたくさんのことを記憶するのではなくて、生き延びるためにある程度記憶を消去していく、忘れるような仕組みをつくり上げてきたんじゃないかと考えられるわけです。


大村正樹

そんなことをいっていると、じゃあ小学校の高学年ぐらい、社会で「この地図のマークをおぼえなさい」。「でも別に日常生活で必要ないから忘れちゃうもん」と言い訳するキッズがあらわれるかもしれない。

そこが難しいところですね。


大村正樹

ハハハハ。

そこが難しいところなんです(笑)。最低限おぼえなくてはいけないことはあるんですけれど、でも、子どもはいいと思うんですよ。子どもさんの番組ですが…。だんだん大人になってきて記憶が積み重なってくることによって、われわれは割と記憶に苦しめられることがあると思うんです。


大村正樹

う〜ん。

思い込みとか、全部記憶ですよ。


大村正樹

はい。

自分は周りの人にこういわれた、「あいつは足が遅い」、「足が遅い」。その記憶が残っていて、本当は速く走れるのに自分は足が遅いんだという記憶に支配されていつまでも走れないとか。


大村正樹

はい。

そういうふうにして、潜在意識の中で記憶が本人の成長をさまたげてしまうということが実はけっこうあるんじゃないかと。


大村正樹

いわゆる失敗した後悔とかですね。

そうです。


大村正樹

あぁ〜。でも、それをいつまでもおぼえておくと、その人のプラスにならないから忘れたほうがいいということですか?

そうです。ですから、記憶はもちろん大事だけれど、その記憶とどう付き合うかということが大事なんですよ。


大村正樹

でも逆に、そういう嫌なこと、例えば僕が仕事仲間に本当は思ってないのに助手に「あっ、変な顔」といってしまった。軽くいったのに、助手が超傷ついて泣きながら帰ってしまったら、僕は一生悔やんじゃう。助手を泣かせちゃったと。でも今ね、本当は忘れたほうが僕の成長にいいかもしれないけど、人を傷つけたという記憶は残っちゃうじゃないですか。

残りますね。


大村正樹

それは何でですか?

どういう記憶が残るかというと、結局、感情を揺さぶらせた記憶なんですよ。ですから後悔したりとか悲しんだり喜んだりした記憶。何かの感情が揺さぶられた時のものが残る。


大村正樹

重い記憶が残っちゃうんですね。

重い記憶が残るんですよ。ですから年号や何の思い入れもない、自分の日常生活にほとんど関係のないことは、何の感情もなくただ暗記するだけだからどんどん消えていくんですね。


大村正樹

ということは、記憶力が弱い人とか、テストの前におぼえなくちゃいけないことをすぐ忘れちゃう人は、もっとおぼえるべきことを重いものとしてとらえれば、逆にいい点数をとれるかもしれないということですか?

その通りですね。重いものというか、結局、楽しむことですね。想像力をわかして。


大村正樹

いいですねぇ、なるほど。“勉強を楽しめ!”ということですね。

楽しむことですね。感情が揺さぶられたことは、脳の中で刺激が強くなるんですよ。その刺激が記憶に残る回路を太くする。ですから、例えば国語の教科書に芥川龍之介の顔写真が載ってたりしますよね。


大村正樹

ええ。

子どもの頃、だいたい落書きしたりしたじゃないですか(笑)。


大村正樹

した、した。8・2分けにおでこを下ろしてみたり、ヒゲ描いたり(笑)。

そのことって残ってますよね。


大村正樹

そうだ!

そうなんですよ。


大村正樹

正岡子規なんか、頭にズラをのっけましたよ。

フッフフフ、そうですか。


大村正樹

はい(笑)。

そういうことです。肝心の作品の中身をおぼえてなくて、でもとりあえず顔写真が残っているから、後でテレビで正岡子規の写真が出てきたら、「あっ、正岡子規だ」と。


大村正樹

あと、森鴎外もね。

森鴎外とか出てくるわけですよ。


大村正樹

フフフフ。そうすると、森鴎外、正岡子規はおぼえるし、じゃあ「作品は何か?」とちゃんと関心を持てばおぼえてくるわけですね。

そうなんです。


大村正樹

なるほど。すっごくわかりやすいポイントです。今、思い出した! 子どもの頃に、たぶんラジオを聴いているキッズのお父さんお母さんは絶対に記憶があると思うんだけれど、睡眠学習法ってあったの。田中さん、ご存じ?

ありましたねぇ。


大村正樹

ちょっと来週その話を聞きた〜い。あれは何だったのかという。

そうですね。


大村正樹

せまっていきますよ。もうこんな時間。ちょっと時間がなくなったので、来週またよろしいですか?

はい。


大村正樹

今週のサイコーは、科学ライターの田中真知さんでした。ありがとうございました。

ありがとうございました。


大村正樹

朝起きて、顔を洗って歯を磨くのも記憶なんだねぇ。日常生活はすべて記憶なんだ。そうそう睡眠学習法、キッズのお父さんやお母さん記憶あります? 来週ちょっとそのあたりを聞いてみますよ。それではまた来週、夕方5時半に会いましょう。キッズのみんなも楽しい週末を。バイバイ!