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2012年11月04日

石井徹也の「らくご聴いたまま」 2012年10月特大号

すっかり寒い陽気になりました。いつのまにかお酉様の季節です。今年は八日と二十日。みなさんはお詣りをされますか?
今回はおなじみ石井徹也さんによる、ごく私的落語レビュー「らくご聴いたまま」の2012年10号をUPいたします。怒涛のボリュームですので、気を確かにもってご高覧くださいませ!

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◆10月1日 上野鈴本演芸場夜席

扇『金明竹』/時松『道灌』(交互出演)/仙三郎社中/扇遊『蜘蛛駕籠』/百栄(一之輔代演)『トビの夫婦』/ロケット団/馬石『元犬』/二楽/三三『五目講釈』//~間入り~//小菊(小円歌代演)/小三治『青菜』

★小三治師匠『青菜』

これまでの『青菜』とは噺の雰囲気が違っていた。序盤の旦那と植木屋の遣り取りが
何より愉しい。「貴方が水を撒いてくれると夕立がスーッと過ぎたように」と銀張り
の団扇を旦那が翳し乍ら語る動きに、夕立のひと降りが感じられたのは初めて。或る
意味で圓生師っぽくも感じる。また、植木屋が「あっしがキッパリお断りすると腹の
中で誰かが“戴いておきなさい”と言って」の可笑しさは抜群。特に“戴いておきな
さい”の言い方は何処か枝雀師っぽい。奥様が襖を開けて頭を下げた時にフッと感じ
させる座敷の中のほの暗さは目白の小さん師っぽい。そういう様々な要素が、鯉の洗
いを初めて食べて美味しいと思い、隠し言葉を知って「広くて大きいから御屋敷じゃ
ない。ぶっかきが出てくるから御屋敷じゃあない。そういうとこが御屋敷だなァ」と
感心して、更に御屋敷が好きになる植木屋の中でちゃんと小三治師の世界になり、
「植木屋の嬉しい午後」として感じられる。ある部分セリフに関しては稍、噺の展開
上の理由付け・説明に感じる所もあるけれど、四代目小さんの「知性」を受け継いだ
印象も同時に受けた。そういう面白さのある序盤だった。中盤、かみさんとの遣り取
りは序盤と比べ、かみさんの人物像がイマイチで普通の出来ではあるけれども、「お
前はそうやって、いつでも俺の上に、上にと立とうとする」という植木屋のボヤきは
矢鱈と可笑しかった(これは小三治師匠の了見から出てるセリフなのかな?)。終盤
の鸚鵡返しでは、ひたすら旦那の真似に懸命な植木屋と、明らかに様子のおかしい植
木屋を心配する大工、どちらもステキに良い。思わず「友達だよね」と微笑したくな
る遣り取りが愉しい。特に、大工が箸を付けている姿、口に含んだ様子を見ていた
ら、こちらも鰯の塩焼きに大根おろしを添えて食べたくなった。

※吉行淳之介氏が「小説家は食べ物の美味い不味いが分からないと、良い文章が書け
ない」という意味の文章を書かれていたが、噺家さんにも言えるのかもしれない。美
味い不味いを蘊蓄として語る必要はないけれどね。

◆10月2日 池袋演芸場夜席

金也(交互出演)『短命』/ゆめじうたじ/市馬『のめる』小歌(交互出演)『黄金の大黒』/小菊/一朝『一分茶番』//~仲入り~//多歌介(交互出演)『肥瓶』/南喬『野晒し』/ダーク広和(夢葉代演)/歌武蔵『持参金』

★小歌師匠『黄金の大黒』

「渋く可笑しい」は変な言い方だけれど、三代目三木助師に志ん好師を混ぜて、マジ
~メな顔で『黄金の大黒』を演じてるみたい。渋い可笑しさで何とも落語らしい。

★歌武蔵師匠『持参金』

先代圓馬師や小南師が演っていて、小遊三師が演る『金は廻る』系の『持参金』で、
サゲは「不思議の五円(御縁)だ」。主人公が友達からかみさんに貰った女の故事来歴
を聞いて頭を掻きながらボヤく様子が妙に可笑しい。トントン運ぶけれど、甚兵衛さ
んが訪れる辺りは貫禄があって、しかもシャアシャアと可笑しい。主人公は如何にも
職人体で骨太だから、噺全体がシニカルでなく、後味が明るくて馬鹿馬鹿しいのは強
み。小遊三師の軽快に納得感を加味した面白さだ。

★一朝師匠『一分茶番』

権助が観客を怒る調子が稍強く、珍しくそこで観客の受けが一度止まり、テンション
が下がったまんまになったのは残念。ちゃんと聞いてるお客だったんだけど、珍し
い。

★南喬師匠『野晒し』

20人のお客相手に出して受ける噺じゃないけれど、それがちゃんと受けるから凄
い。軽い調子だが、尾形清十郎の話を聞いてる八五郎のリアクションが素晴らしく、
釣場での独り気違いぶりが暢気で軽くて明るく馬鹿馬鹿しい(釣客の一人が「独り気
違いだね」と言うセリフがあるのは珍しい)。釣客が呆れて「お膝送り」をするっ辺
りも馬鹿に嬉しい愉しさ。若手真打の頃にはもう演ってたけれど、誰の系統なんだろ
う。先代圓遊師のとは違うし。

◆10月3日 新宿末廣亭昼席

はん治『背中で泣いてる唐獅子牡丹』/歌司『漫談』/正楽/小満ん『お花半七』//~仲入り~//扇辰『肥瓶』/にゃん子金魚/菊志ん(世之介代演)『御血脈』/小袁治『唖の釣』/和楽社中/正朝『七段目』

★正朝師匠『七段目』

上野昼席の主任で聞いた時とは格段の相違・上昇。若旦那のやさな感じが似合い、定
吉があくまでも子供の口調で二人侍を演じるのもひと工夫である。驚いたのは「七段
目」を始めてからで、平右衛門が若旦那の芝居でなく、平右衛門の心で芝居をしてい
る。「これ妹、」のセリフの前後の一寸した表情に「髪の飾りや化粧して」のセリフ
に繋がる、妹を思う兄としての平右衛門が描かれている。「『七段目』としては凝り
過ぎ」という見方もあろうが、これはこれで「芝居狂」の演じ方として納得感があ
る。セリフや形も歴然と向上。

★扇辰師匠『肥瓶』

扇辰師では初聞きの演目かな。二人と道具屋、兄貴分のキャラクターがちゃんと立っ
ていて面白い。のみならず、二人が瓶を担ぎ出す時、先棒が振り返って道具屋の主人
に礼を言う場面で引き絵の風景が浮かぶ良さ、「これがかみさんだ」と兄貴分が照れ
乍ら後ろを振り返ってかみさんを紹介する件でかみさんや新所帯の初々しい雰囲気が
感じられる良さと、可笑しさだけでないプラスアルファが描かれているのが如何にも
扇辰師らしい魅力。

★菊志ん師匠『御血脈』

 クサいっちゃクサい演り方だけれど、まだ寄席の中軸出番のメンバーとして固定し
ている訳ではない若手真打だから、これくらい「受け」を取りに行くのは間違ってい
ないだろう。まして、前でにゃん子金魚先生が暴れているから、普通に演ったら白け
かねない。扇辰師も演目でちゃんと受けるようにしていたのを演じ方で繋いだ印象。

 ※ちゃんと後ろの小袁治師がまとめて、ヒザ・真打へ渡してくれる、という流れの
安心感もあるかな。そういう意味で、正楽~小満ん~仲入り~扇辰~菊志ん~小袁治
~和楽社中~正朝という流れは、「安定した腕前による適当な起伏」があって面白
かった。

◆10月3日 第47回東西三人会(国立演芸場)

市助『手紙無筆(上)』/志ん八『七福神オーディション』/志ん橋『ぞろぞろ』/小雪/小里ん『猫久』//~仲入り~松喬『竈幽霊』

★小里ん師匠『猫久』

八五郎とかみさん、髪結床の主人の会話には何の違和感も無いのに、侍が同じ調子で
は喋れていない。意識過剰と侍噺の不慣れが祟って、侍だと声も小さく張りもなくな
る。『妾馬』『宿屋の仇討』などを演じて、侍言葉に慣れるしかないかな。

※これはあくまでも私観だけれど、聞き乍ら、目白の小さん師が『猫久』『三軒長
屋』の稽古を受けた根岸の文治師の侍はもっとクサいけど、押し出しが大きかったの
ではないか・・と感じた。それを目白の師匠が自らに合わせて柳家的侍へと面白さを
変えたのではあるまいか。その分、小里ん師の「クサくは出来ない」という長所をこ
の噺では克服、または変更する必要があるのかもしれない。逆に、今年、『猫久』で
奇跡的な出来栄えを見せた喬太郎師は人情噺系の演目や『錦木検校』などの演目で侍
を演じるのに慣れてるのが強味なのかな。川戸貞吉氏が所有しているという根岸の文
治師の『猫久』を聞いた事がないので、しかとは言えないのだけれども。

★松喬師匠『竈幽霊』

近年、東京で上方演出(圓生師・三代目三木助師系)を聞いて、面白いと思った事が殆
ど無い。それらとは比較にならないくらい、脳天の熊五郎が登場してからが面白い。
六代目松鶴師を彷彿とさせる骨太な語り口と大きな声でグイグイと噺を引っ張る。特
に三代目三木助師の用語の巧さばかりに操られていた、家元以降の東京の演者と違
い、熊五郎の迫力がシテ、銀ちゃん・幽霊・道具屋夫婦・道具屋の客は全てワキとい
う感覚で「幽霊と博打をする面白さ」に噺が集約している。こう演じれば面白い演出
なのか、というか、『らくだ』等と同様、演者を選ぶ噺なのか…。

※病のためか、松喬師は声が高くなっているけれど、もっちゃりと鈍重にさえ感じさ
せた短所が感じられなくなり、芸が明るくなっている。「病も味方に付けた気概」と
いうべきか。それでいて、部分部分で発する大きな声には、如何にも六代目松鶴師譲
りの存在感、「松鶴系ならではの大きさ」がある。先代小染師と競って欲しかった
かったなァ。

★志ん橋師匠『ぞろぞろ』

この師匠の噺家としての天性に驚く。無信心な荒物屋の親父が稲荷に初めて参詣し
て、「御利益なんかどうでも良いが、サッパリして気持ちの良いもんだ」とコロッと
変わるセリフに納得感があり、草鞋の御利益に感謝して頭を垂れる件に嘘がない。非
常にセリフ数の多い辺り、志ん朝師型かと思われるけれど、それでいて全く説明的な
噺に感じない。更に言えば志ん橋師の描く「信心」「御利益」に懐疑など全く持たず
愉しめる。この面白さは稀有である。

◆10月4日 新宿末廣亭昼席

歌司『親子酒』/正楽/小満ん『廐火事』//~仲入り~//扇辰『垂乳根(上)』/にゃん子金魚/世之介『堪忍袋』/小袁治『初天神・飴』/和楽社中/正朝『竈幽霊』

★正朝師匠『竈幽霊』

正朝師では初聞きの演目かな(昨夜の今日というのは季節の故か)。東京で聞く三代
目三木助師型の中では面白い高座だった。少なくとも、東京で三木助師型をを聞いて
しばしば感じる「長さ」を全く感じなかった。三代目三木助風の用語に余り拘った力
の入れ方をしていないらしいので気楽に愉しい。熊さんはもう少しパワフルさが欲し
いけれど(権太楼師向きの役かな)、家元風の品の悪い硬さはないので、「幽霊と博打
をするマンガ的な可笑しさ」はちゃんと感じられる(西洋ならば死神とチェスするよ
うなもんだけど、ベルイマンの耽美になっちゃ落語でなくなるしね)。銀ちゃんは明
るくヘラヘラしているが、これまた優男風で似合う。或る面、文朝師っぽい。幽霊は
最初、シナシナしていたのに身の上話から博打に掛かると普通の人になっちゃったの
が残念。幽霊のまんまでいて欲しい。

★小満ん師匠『廐火事』

ちと中っ腹口調で、言葉に力があり、メリハリのある半面、お客がリアクションする
にはテンポが速く、聞きやすい割に受け難い高座。「お崎さんの感情の面」が強く出
ると、『小言幸兵衛』みたいに馬鹿馬鹿しくならないみたいね。

★世之介師匠『堪忍袋』

完全に遊雀師と同じ演出になっているけれど、以前からこうだったかなァ?堪忍袋が
破れて楽屋からワチャワチャ言わせるのは以前通りだが(但し、それがオチではなく
「お婆さん、長生きしたそうです」がオチ)。

◆10月4日 NODA・MAP公演『エッグ』(東京芸術劇Playhouse)

作:演出・野田秀樹。出演:妻夫木聡・橋爪功・深津絵理etc.

★ラストシーンを見乍ら、『上海バンスキング』のラストシーンを思い浮かべた。
『上海バンスキング』で「夢は、そのつけを払うもの」だった。この芝居では「夢は
恐ろしく虚しいもの」だ。構成的には『走れメルス』等の初期作に近いけれど、寺山
修司の作品を装った「歴史と現代の対照」に歪みが大きく、なまじこちらに通じてし
まう部分があるだけに、「精神的に大人になれないという同世代の思慮の在り方」を
感じてしまい、胃が痛く、鬱陶しく、辛くもある。「石川部隊」・「スポーツ&音楽
によって捏造される国民的熱狂」の使い方以前に、満州国へと遡る唐十郎的な世界構
成としては、深津絵理の演じる「いちごいちえ」に川島芳子、李香蘭の影が余りにも
なさすぎるのではあるまいか。『走れメルス』の蠎零子と芙蓉の頃のようには、野田
秀樹のイメージの中だけで世界が集約出来ないでいるけに、川島芳子や李香蘭の影が
必要だと思う。考えてみれば、『小指の思い出』など、伝説的人物を使うのが野田さ
んは巧いけれど、『ポロロッカ』の時同様、歴史的に具体性があり過ぎる人物を扱う
と、オリジナルイメージとの乖離が起きやすいんだな。

◆10月5日 新宿末廣亭昼席

はん治『ボヤキ酒屋』/若圓歌(歌司代演)『桃太郎』/正楽/小満ん『目黒の秋刀魚』//~仲入り~//扇辰『道具屋』/にゃん子金魚/世之介『辰巳の辻占』/小袁治『代書屋』/和楽社中/正朝『祇園祭』

★正朝師匠『祇園祭』

京男の横柄さは正朝師独特の「嫌味なキャラクターの面白さ」になっている。しか
も、それが聞いていてモタれないのは芸の軽快さ故だろう。

★小満ん師匠『目黒の秋刀魚』

秋の空のある『目黒の秋刀魚』。殿様の食べる秋刀魚が一匹なのが適切で、だからこ
そ自ら裏表を返すのが可愛く可笑しい。本当に聞いてて涎が出た。「サンマのテリー
ヌに白ワインを(銘柄は忘れた)」と御膳係りが薦める辺りにまた、小満ん師ならでは
の洒落っ気と愉しさが満ちる。

★扇辰師匠『道具屋』

普通、前座さんが演じる『道具屋』より、かなり与太郎のテンポが速い。そのテンポ
だからこそ、伯父さん、隣の道具屋、客たちのキャラクターが見事に出る。特に隣の
道具屋の江戸っ子ぶりは際立って心地好い。一流真打の『道具屋』

◆10月5日 第39回特撰落語会 柳家権太楼の会(江戸深川資料館小劇場)

おじさん『牛褒め』/右太楼『猫と金魚』/権太楼『うどん屋』//~仲入り~//遠峰あこ/権太楼『素人義太夫』

★権太楼師匠『うどん屋』

 最近、意欲的に手掛け始めた目白十八番ネタ。酔漢が喜び過ぎて泣き出す件はもう
少し抑えたいけれど、「酔うと屁理屈を言いだす親父」にしてあるのは面白い工夫
で、権太楼師に似合うと思った(「かみさんに普段から注意されている」というセリ
フが入る)。小燕枝師の酔漢とはまた違う屈折の仕方が愛しい。遣り取りの前半、憮
然としていて、途中からニコニコするといった具合に、うどん屋のリアクションは変
化するが、変化しなくても良いのではあるまいか。店者がうどんを食べる件では、手
繰る動きより、うどんを吹く息の強さが寒さ、うどんの熱さ、うどんの旨さを一挙に
描き出すのに大感心した。うどんはそば以上に「吹く」方が旨そうに見えるのは権太
楼師の発見か。確かに口の中を火傷するほど熱くないと、うどんや小龍包は旨くない
よなァ。

★権太楼師匠『素人義太夫』

半月板損傷の影響か、終盤一寸テンションが落ちたけれど、旦那と茂蔵の遣り取りは
変わらぬ爆笑。

◆10月6日 新宿末廣亭昼席

はん治『鯛』/歌司『小言念仏』/正楽/小満ん『目黒の秋刀魚』//~仲入り~//ひな太郎(扇辰代演)『締込み』/にゃん子金魚/世之介『お花半七』/小袁治『紀州』/和楽社中/正朝『宗論』

★正朝師匠『宗論』

二階を開けた観客の入りに相応しく、軽く、ギャグも無駄に足さず、軽快に愉しい高
座で、如何にも昼席の主任らしかった。変に入れ事沢山にした揚げ句、噺がモタレ
る、という近年の『宗論』に多い欠点がなく、親旦那のかなりの頑固さ、調子のフワ
フワした若旦那の能天気ぶりが的確に描かれているのが良い。

★小満ん師匠『目黒の秋刀魚』

昨日に続く好調。殿様の人物が品良く可愛く、天高く秋空晴れる世界がある上に、
「どこぞにマクドナルドはないか?」「A面B面」「ナィーヴな眼差し」「シャ
トー・オー・ブリヨン」等の警句感覚が洒脱に溶け合う辺りが堪らなく愉しい。

◆10月6日 柳家さん喬独演会vol.12(江戸深川資料館小劇場)

さん坊『つる』/さん弥『薬罐舐め』/さん喬『らくだ』//~仲入り~//新治『七段目』/さん喬『線香の立切れ』

★さん喬師匠『らくだ』

冬に六本木で聞いた時の「曇り空の下、場末の長屋で起こるロマンティシズム」とは
また違い、目白の小さん師型をベースに「気が小さく大人しい、猫久みたいな屑屋」
が酔いに連れて(三杯目から)突如明るく大胆になり、「濁酒の政と立場が次第に逆
転してしまう事」にひたすら重点が置かれた展開になっている。カンカンノウでは
政・死体、両方の動きを見せるけれど、踊りが体にある人だから、形の良いシュール
なマンガになる。こういうマンガ鰺はさん喬師の演目では珍しい。立場が逆転してか
らは、「登場人物全員酔っぱらい天国」的な展開で、らくだの死体を落として、その
場で願人坊主を拾う演出変化(これは行ったり来たりのまだるっこしくなくて良い)な
どが面白い。願人坊主と後棒の政との遣り取りの辺り、更に笑いを明るく増やせそう
な予感がある。

★さん喬師匠『線香の立ち切れ』

上方の雰囲気を少しずつ加味しながら、ベクトルを変えている過程の印象。番頭はあ
くまでも忠義の人だけれど、序盤は『土橋萬歳』のように「変わり」を感じさせる強
さが欲しい。場面が蔦乃家に移ってからは、やはり小糸が若旦那から貰った品を寝具
の上に並べている場面が哀しい。女将は一度泣いてから明るさを見せるが、茶楽師の
色街の意地を感じさせる「泣かない女将」と比べるとやや印象が弱い。若旦那は柳橋
へ向かう辺りの「若さと軽薄さ」が抜群。今回は普通に「黒髪」だったが、三田で聞
いた「四つの袖」が忘れられない。最後、パチッと弾き切らない三味線は、オチの
「立切れた」の雰囲気にはそぐわない印象を受ける。

★新治師匠『七段目』

上方風で番頭や、ラストの旦那の「オ~イ!」等、店全員が芝居に浮かれる雰囲気が
愉しい(『蛸芝居』等に近い道化感覚か)。特に定吉の伴内の真似や赤い着物を着た
途端、女口調になる辺りが「大人の愉しさ」である。平右衛門とお軽の遣り取りも、
文書きからタップリある(全体に女形が良い)。言えば、序盤の判官、定高や権太の動
きがもう少し大きくキッパリとありたい。

◆10月7日 第十五回柳噺研究会(下谷稲荷神社社務所二階座敷)

市助『狸の札』/小里ん『将棋の殿様』/雲助『蜘蛛駕籠』//~仲間入り~//小菊/小燕枝『大工調べ』

★小里ん師匠『将棋の殿様』

家来に対する殿様の我儘なリアクションがマンガっぽくて妙に可愛らしく、一々可笑
しい。これは目白の小さん師にも無かった愉しさ。また、三大夫の厳めしく憮然とし
てブツブツ物を言う辺りは目白の小さん師ソックリで面白い。稍、口演数不足で三大
夫の侍口調に定まらない所は散見するが、過去に聞いたこの噺では一番面白い。

★雲助師匠『蜘蛛駕籠』

初演(らしい)。駕籠屋は普通にちゃんと駕籠屋(前半、リアクションが割と単調)。
道を尋ねる侍や酔っ払いなど客の方が面白味が強く、例えば酔っ払いがヘナッとして
右肩を上げ気味に右の袖を体の前に翳した形なんてのは何とも可笑しい。あれは先代
馬生師の酔っ払いの形だね。相撲を取る最後の客も仕種が愉しい。駕籠屋は終盤、ふ
たりが乗り込んだ駕籠を「重い」と言わず「?」というリアクションで担ぎ始める辺
りが一番面白い。あと、茶店の親父の妙に厳めしいのも独特の面白さだ。

★小燕枝師匠『大工調べ』(通し)

小燕枝師では初聞きのネタ。リアクションから醸し出される与太郎の味わいが何とも
サラリと可愛く、目白系の与太郎らしくて自然に面白さ、可笑しさが出る(小里ん師
の与太郎と全くタイプは違うけれど、目白の根の感じられ方が中堅以下の目白系与太
郎と明らかに異なる)。大家の態度が普通⇒反感風⇒悪心と変わる様子も面白く、同
時に町役らしい大きさ、威圧感をジワジワと滲ませるのも独特である。棟梁は稍、職
人にしては輪郭が柔らかいが、肩の線の職人らしさ、啖呵の的確さを含めて、世話講
釈みたいになりがちな人物造型を落語の範疇に留めているのが嬉しい。棟梁の啖呵で
受けようなんてしないのが良く、更に白州での棟梁の人間的魅力は特筆物だろう。

◆10月8日 新宿末廣亭昼席

歌司『元帳』/正楽/小満ん『目黒の秋刀魚』//~仲入り~//ひな太郎(扇辰代演)『垂乳根(上)』/遊平かほり(にゃん子金魚代演)/世之介『堪忍袋』/小袁治『胸肋鼠』/和楽社中/正朝『唖の釣』

★正朝師匠『唖の釣』

安定感に優れた可笑しさで、与太郎の残酷な程の無邪気さ、七兵衛の臨機応変な小悪
党ぶりが如何にも「らしく」て面白い。こういう噺にメリハリを付けられると嫌らし
くなるがトントン運んで軽快な愉しさだから、後口が良いのである。

◆10月8日 第61回扇辰・喬太郎の会(国立演芸場)

さん坊『子褒め』/扇辰『目黒の秋刀魚』/喬太郎『あの頃のエース』//~仲入り~//
喬太郎『堀の内』/扇辰『雪とん』

★扇辰師匠『雪とん』

佐七と小糸の想定外の色模様は結構ながら、糸屋女中のお清が遣り手婆並に五月蝿く
て、扇辰師ならばと楽しみにしていた背景の静まり返った雪夜が出ないのは残念。佐
七も今の海老蔵程度で、ちと斜な感じがちらつく。橘屋とは言わないが、せめて十一
代目成田屋くらいの純な色男には見せて欲しいやな。田舎の若旦那は悪くない。翌
朝、船宿の前を佐七が通りかかる時、傘を差していたが、雪は降り続いてるんだっ
け?

※『汐留の蜆売り』を扇辰師で聞きたいな。暮れから二月に掛けての寒夜に。

★扇辰師匠『目黒の秋刀魚』

昼間、小満ん師の佳作口演を立て続けに聞いた後だと、扇辰師のトっぽい殿様が些か
キャラクター過剰に感じるのと、洒落っ気の不足が感じられてしまう。小満ん師、一
朝師、市馬師と現代にも優れた『目黒』が幾つもあるからだけれどね。それと、小満
ん師「ナイーヴな眼差し」・扇辰「ナイーヴな瞳」は、言葉の使い方の正邪やセンス
の違いも感じてしまう。「ナイーヴな眼差し」は感触だけれど、「ナイーヴな瞳」だ
とキャッチコピーっぽくなってしまうのである。

★喬太郎師匠『堀の内』

一見、ハチャメチャな作りだけれど、亭主の粗忽(ってより健忘症で早呑み込みの上
に慌て者、という多重症状保持者)を「面白いッ!」「結婚して良かった!」と矢鱈
に可愛ぶって面白がるかみさんが実に可笑しい。喬太郎師の演目では『錦の袈裟』の
かみさんに近いノリ。両国からの戻りで、かみさんに合わない辺りはちゃんと理を意
識した演出になっている。ギャグとしては、亭主が自分のうちが分からなくなり叫ん
でいるのにかみさんが隣家に潜んでいて「隠れてんの、ウフッ」というのと、「親子
で行くんだ!」と叫びながら亭主が金坊を背負ったまま、また堀の内に行っちゃう、
この二か所に笑った笑った。堀の内で亭主の隣に辰じんさんが特別出演したのは御愛
嬌。

★喬太郎師匠『あの頃のエース』

『堀の内』のマクラで少し触れていたが、池袋の三題噺興行で生まれたネタらしい。
片想いが微苦笑のうちに終わる辺り、喬太郎師らしい世界ではあるけれど、まだ展開
の無理が先立ってしまう。五十路の片想いとしては『ラヴ・レターズ』を意識して、
千葉雅子さんが書かれた『マイノリ』ほどには実感・共感出来ないのである。どっち
かといえば、山上たつひこの書いた「自宅新築設計」と「長年の片想い」の絡みあう
マンガを喬太郎師で聞きたくなった。

 ※なんのかんの言って、新作では白鳥師と喬太郎師以外、共感・実感を凄く伴う作
品は私にはまだ無い。圓丈師は純文学である分、圜丈師の世代には実感・共感が出来
るんだろうな・・と感じながらも、もっと汎日本社会的な世界になるのを強く感じる
のだ。実感・共感出来るのは「現在の五十代のだらしない恋愛感覚」(映画評論家の
山根貞男さんの名言)なんだよな。精神的草食系ノンポリ世代人の自嘲というかさ。

◆10月9日 新宿末廣亭昼席

さん生『煮賣屋』/ぺー/はん治『子褒め』/歌司『短命』/正楽/小満ん『締込み』//~仲入り~//扇辰『紋三郎稲荷』/にゃん子金魚/世之介『千早振る』/小袁治『鰻屋』/和楽社中/正朝『お花半七』

★正朝師匠『お花半七』

小朝師の演出も少しだけ残っているけれど、それ以上に若い師匠が演るのと違い、叔
父さん叔母さんにクドくない味わいがあり、お花も半七も初で(多少、お花の側に意
図はあるが、そんなに濃くは無いのが良い)、人物配置が的確で、しかも軽い色気が
ある(その辺りも文朝師的になってきたかな)。小満ん師の絶妙な口演とはタイプが違
うけれど、主任で聞いて十分に愉しく、コクもちゃんとある『お花半七』を出来る師
匠ってのは意外と少ない。貴重である。

★歌司師匠『短命』

今時珍しい、先代圓楽師以前の簡素な『短命』で、隠居と八五郎の遣り取りはくどく
どと引っ張ったりせず、八五郎の能天気と普通の長屋のかみさんの陽気な夫婦加減で
終盤も十分に愉しい(かみさんは台所仕事をしているし、茶碗で飯を掬ったりしな
い)。オチの呼吸の良い事には惚れ惚れした。歌司師の矢来町に似てるとこが良い方
に出た典型の高座。こんなに良い歌司師を私が聞いたのは若手真打時代以来である。

◆10月9日 第71回月例三三独演(イイノホール)

こはる『権助魚』/三三『ぞろぞろ』/三三『口入屋』//~仲入り~//三三『井戸の茶碗』

※三三師は完全に風邪声。

★三三師匠『井戸の茶碗』

この噺に登場人物の了見が感じられないと、本当に詰まらない噺になってしまうんだ
な。「自分の理を通すために自らの辛苦は厭わないが、、他人に迷惑を掛けるのは恥
と感じる」(彦六師みたいな人)ってのが、実は千代田卜斎・高木作左衛門・清兵衛に
共通していて、そこに家臣・浪人・町人の立場の違いが重なれば、自然と面白くなる
噺なのではあるまいか。そういう了見が全く感じられない。例えば、『らくだ』の久
六みたいに清兵衛は踏みにじられている訳でもないし。三三師の芸風を鑑みると前半
をバッサリ切り、清正公境内で屑屋仲間が話をしてる件から始めた方が無駄が少なく
て済むのではあるまいか。聞いていて、前半の地のセリフが殆ど無駄にしか思えない
のである。

★三三師匠『ぞろぞろ』

これは三三師のせいではなく、「圓窓師演出のこの噺がなんで愉しくないか」が良っ
く分かった。薄荷の菓子なんか要らないし(黴臭い菓子を食うなんてのは『ちりとて
ちん』より嫌な件である)、小噺に色を付けた程度の噺で良いのに、前でストーリー
を作り過ぎているから、肝心のオチが引き立たないこと甚だしい。かつての彦六師や
先日の志ん橋師みたいに「落語ってものを心底から信じている人」が素直に演出し、
演じないと、面白くなならない噺らしい。

 ※家元の演出型の方が人物造型になるだけマシだけれども、先日の志ん橋師みたい
に「信心というのはどういうことか」をフッと感じさせはしないのが弱味。

★三三師匠『口入屋』

風邪なので無理せず、という雰囲気の高座。扇遊師のような色気がこの噺にないのは
元からだけれど、無理をせず、人物表現無視で噺を進めてるから、上方風台所の絵面
の見えなさ加減の詰まらなさ、大の男二人がいて吊り戸棚を何故下ろせないのか?と
いう不思議、物騒な台所におかみさんが現れる上方の習慣が残っている矛盾と、駄目
な『三枚起請』みたいに、噺の演出的な歪みばかりが耳についてしまう。この展開な
らば、上方の原典通り、女中がおかみさんに目見えして喋りまくる所からちゃんと
演った方が良くないかな?三三師のツーツー喋る芸質にも適うと思うよ。

 ※この演出を『引越しの夢』と呼ぶのに私はどうも同意出来ない。圜生師の『引越
しの夢』と背景が違い過ぎる。同じような例としては、『宿屋の仇討』と『庚申待
ち』が違うように、三代目三木助師系の『御神酒徳利』と目白の小さん師系の『占い
八百屋』は明らかに内容の違う噺である(「どちらも『御道徳利』だ」と言い張る人
もいるけれど)。上方の『天神山』と志ん生師系の『安兵衛狐(または墓見)』も雰
囲気の丸で違う噺である。元は一つの噺かも知れないが、ラテン語とイタリア語、フ
ランス語、ドイツ語が違うようなもんで、志ん生師の『雨の将棋』『犬の災難』、最
近なら喜多八師の『ぞめき』『夕涼み』みたいな呼び方の方が噺家さん個々の演目と
して「本来のあり方」なんじゃないかなァ?『替り目』の前半だけを『元帳』、上方
系『堪忍袋』の前半だけを『夫婦喧嘩』、『真田小僧』の前半だけを『六銭小僧』と
書いているのはあくまでも私の勝手だけれど。

◆10月10日 新宿末廣亭昼席

夢葉(正楽代演)/小満ん『目黒の秋刀魚』//~仲入り~//ひな太郎(扇辰代演)『代書屋(上)』/浮世亭とんぼ横山まさみ(にゃん子金魚代演)/世之介『堪忍袋』/左楽(小袁治代演)『馬のす』/和楽社中/正朝『阿武松』

★正朝師匠『阿武松』

落語協会の寄席で聞くのは久しぶりの演目。何よりも立花屋善兵衛の落ち着いて、重
すぎない人柄が良い。客商売の愛嬌、相撲好きのくだけた感じが出ていて結構なも
の。長吉は家元のような「貧乏育ち」の感じはせず、『花筏』の千鳥ヶ浜を気弱にし
た感触で、体の割に子供っぽいのが良い。この芝居で何度か聞いて、正朝師は文朝師
に高座の雰囲気が似てきたのを益々感じる(時々、一寸シニカルなのが香辛料になる
とこも似てる)。武隈のかみさんの「自然な口喧しさ」は談志家元より似合う。武隈
もなかなか関取らしい。錣山の方は、セリフに「情」があるけれど、稍太さに乏しい
のは惜しい。とはいえ、全体のスピードも分かりやすく好演。

★とんぼまさみ先生

初めて聞いた時は、上方風の派手な衣装や喋り方が何か「汚れ」っぽかったが、短期
間に東京の寄席の雰囲気を掴んだのか、ボチボチ、ユッタリと喋るのが流れに嵌まっ
ていて面白い。「(品物は)百金」「(買ったのは)ダイソー」と「サングラスを掛ける
と金正男」には笑った。これならヒザの出来る漫才になりうる(落語協会でヒザの似
合う漫才はひろし先生が休んで以降、ゆめじうたじ先生くらいだと私は思うから。の
いるこいる先生では爆笑になり過ぎる)。

◆10月10日 第三回にぎわい座雲助一門会(にぎわい座芸能ホール)

緑太『垂乳根』/馬石『粗忽の使者』/白酒『錦の袈裟』//~仲入り~//龍玉『鮑熨斗』/雲助『つづら』

★雲助師匠『つづら』

前半と後半で雰囲気をかなり変える演出を採った。前半は世話噺で蔵出しの際の陰に
近く、質屋に場を移して亭主と番頭との遣り取りになってからはガラリと落語になっ
て上野ネタ出し主任の時のように明るくなる。オチも「番頭ん「へい」「流さねえで
おくれよ」とポーンと言い放つ洒脱なもので、真に結構。この方が落語らしい。番頭
がまたアクの抜けた面白さで雲助師の落語はこうでなきゃね。質屋旦那の好色が香辛
料になっている。

★白酒師匠『錦の袈裟』

一貫している与太郎の人物像が面白く、若い連中は完全にフラれ用脇役としてジタバ
タと可笑しい。かんぺら門兵衛が団体で来たようなもんだ。セリフと共に三代目金馬
師の明快さを巧く取り込んでいる辺り、並の噺家さんではない頭の良さを感じる。

★馬石師匠『粗忽の使者』

治部右衛門の驚き方(表情・動き)を留っ子の語る件が抜群に可笑しく吹き出した。そ
れだけに、留っ子の語りではなく、治部右衛門と三太夫の遣り取りで聞きたい。兎に
角、治部右衛門のリアクションがこんなに可笑しい『粗忽の使者』は稀有。柳家の噺
から金原亭の噺に代替わりするか。

★龍玉師匠『鮑熨斗』

セリフの内容は十分に古今亭・金原亭で可笑しいのだけれども、噺全体のテンション
が落語にしては余りに低い。甚兵衛さんが二度目に大家のうちを訪ねるまで低過ぎ
て、適切な受けが取れていない。表情のリアクションは相変わらず圓生師多数。古今
亭・金原亭系のセリフと適合していない。勿体無ェなァ。

※『錦の袈裟』の直ぐ後に『鮑熨斗』を出すってェのもどうなのかな?

※圓生師の軽くて可笑しいネタ、『汲立て』『阿武松』『鼻欲しい』『てれすこ』辺
りを演らないかな?

-----------------------------------------------以上、上席-----------


◆10月11日 噺小屋スペシャル 気になるふたり 小満ん・市馬の会(銀座ブロッサム)

市也『金明竹(骨皮抜き』』/小満ん『厩火事』/市馬『猫の災難』//~仲入り~//市馬『七段目』/小満ん『明烏』

★小満ん師匠『厩火事』

小満ん師にしては派手目な遣り取りになっている。それがブロッサムの広さにピタリ
で(末廣亭での口演は試しか)、お崎さんが旦那の前では些か押しが強めで騒がしいの
だけれど、それが亭主の前ではコロッと可愛くなるのが愛しい。亭主がまた、「一緒
に飯を食いたい」と言う件と、瀬戸物を心配するのではガラリと調子の変わる、我が
儘な怠け者ぶりが愉しい。末廣亭で試した甲斐がございますぞ。

★小満ん師匠『明烏』

頼山陽を読んで頭の痛くなった若旦那が二枚袷を着て、粋な両親に見送られ(阿っ母
さんも洒落てる演出は初聞き)源兵衛・太助と「お籠り稲荷」(親旦那曰く)へ向か
う。四郎兵衛の番所へお籠りの挨拶に行ってる間に(笑)、茶屋へ注進が入る。籬を抜
けて広い階段を上がり、八間の大提燈に照らされて二十畳のひきつけで狐につままれ
たようにポカンとしてる。小満ん師ならではの情緒と可笑しさで、大真打の『明
烏』。それが中盤、「大門で止められる」の箇所で咳が出て止められず(噺を止めて
一度大きく咳を切る、なんて野暮が出来ず、辛い思いを自らしちゃうのが小満ん師の
良き所でもあり弱味でもあり)、「このまんま、テンションが下がっちゃうかな?」
と心配したが、見事に持ち直し、源兵衛・太助の部屋覗きから、他に類を見ない花魁
部屋の描写、浦里の手管に時次郎が陥落するまでを鮮やかに描き、後朝の源兵衛・太
助のグジュグジュと小声で愚痴る辺りから珍談御中心の面白さ、甘納豆の愉しさと、
かもめ亭以来の『明烏』でブロッサムの広さなどものともしなかった。真似が出来な
い。

★市馬師匠『猫の災難』

以前よりも、呑み出してからの流れは良くなったが、セリフが「独り言ちる」になら
ない弱味がある。「冷は後で利くよ」が抜けたのも残念だけれど、兄貴分が目の前に
いない場合、セリフをどうも観客に向けて喋るため(独り言を呟いて、しかもお客に
聞こえなきゃ)、長閑さが出ず、「嗚呼、良い一日だったな」に繋がらない。兄貴分
との「友達関係」もまだ希薄。終盤、「ちょいと熊さん!」の隣のかみさんのセリフ
も目の前で怒ってる距離感である。

★市馬師匠『七段目』

受けてたけれど、少し芝居の仕種やセリフ、調子の上げ下げなどが雑になってきてい
るのは何故だろう。第一、筋なんか無い噺だから、会話はもっと丁寧に演らないと。
また、今夜はツケが酷かったな。高座見ないで叩いてるような有り様だった。

◆10月12日 新宿末廣亭昼席

桃太郎『柳昇物語』/京太ゆめ子/遊吉『鰻屋』//~仲入り~//ぴろき/とん馬『犬の目』/伸之介『ろくろ首』/喜楽喜乃/遊三『火焔太鼓』

★遊三師匠『火焔太鼓』

目白の小さん師が『火焔太鼓』を演ると、こういう感じかなァ。甚兵衛さんにしては
職人性が強く、余りボーッとしていない(いえば実直誠実な道具屋で古今亭の「非正
業」の感じはしない)。その代わり、侍が立派でかみさんも普通の長屋のかみさん。

※大喜利は聞かずに仕事で移動。

◆10月12日 激闘 喜多八vs正蔵 落語浅草番外地vol.11“六十三の変化”(ことぶ季亭)

はな平『黄金の大黒(上)』/正蔵『身投げ屋』/喜多八『抜け雀』//~仲間入り~//正
蔵『皷ヶ瀧』/喜多八『だくだく』

★喜多八師匠『抜け雀』

余り出さない噺とて、喜多八師では初聞きの演目。若い絵師の抜け抜けと快活な所が
実に似合っている。地を減らして会話に変えてある演出変更は柳家らしい流石さで、
中でも大久保加賀守のセリフの良さは特筆物。会話の言葉の良さは目白型の典型に
なっており、了見に天然自然な品があって無邪気な所は中々類を見ない面白さだ。相
模屋のかみさんに色気があって妙に仕種が柔らかいのにも関わらず、権高い態度なの
も可笑しい。老絵師の厳しさ、冷徹さは小三治師を思わせる。相模屋主人は雀を初め
て見て驚くリアクションなどは素敵に面白いが、普通に遣り取りしてる場面が流れ気
味でイマイチなのは不思議。雀が飛び出すのは二日目に一人で見せられたかみさんが
金棒引きをして広め、老絵師に籠を描いて貰うのは主人一人では決められず、周囲の
客の賛同を得て決める、など細部に独自の工夫がある。

★喜多八師匠『だくだく』

近眼乱視の泥棒は相変わらず素敵に面白く、好き勝手に使われる先生も愉しい。反
面、主人公は面白がりで悪戯心もありながら、『抜け雀』の絵師と違い、目白の師匠
の登場人物みたいな無邪気さがどうも乏しい。いっそ、『抜け雀』みたいに先生の描
いた品が飛び出して主人公が慌てる、くらいな悪戯心を発揮した手直しをしても良い
のではないだろうか?

★正蔵師匠『身投げ屋』

銅鑼が入れられないのでアッサリ目の演出。親子の身投げ屋の親父が最初少しクサい
けれど、子供が可愛く、噺としてのまとまり、愉しさは十分。名刺に書かれた名前が
「千駄木の立川雲黒斎」は感心せず。やはり「麹町の中沢さん」か「◯◯堂会長・郡
山ゴウゾウ」くらいでないと、雰囲気が出ない。

★正蔵師匠『皷ヶ瀧』

ショートヴァージョン。歌詠みが手直しと言われた際の西行の表情は過剰ながら、直
された歌を詠み返して愕然としつつ、悔しさも感じさせる辺りは人物が出るように
なった。こうなると「私は西行と申して」の身分証しがこの噺の必要条件から外れる
かもしれない。最後まで名前は明かさず、「バチは当たらねェだよ」の後に「西行法
師、旅日記“皷ヶ瀧”」くらいで良いのかもしれない。「この瀧は皷ヶ瀧、バチは当
たらねェだ」のオチも演出としては稍クドい。「罰が当たりますまいか?」「ワッ
ハッハ(と目白風の笑いで受けて)皷ヶ瀧、バチは当たらねェ」で分かる。

◆10月13日 第二回柳家小満んおさらい会(ことぶ季亭)

小満ん『錦の舞衣(二)』/小満ん『錦の舞衣(三)』//~仲入り~//小満ん『鍬潟』

※自分が主催者になった会なので詳細は述べないが、『錦の舞衣』はお須賀の苦衷と
慚愧に特色がある。『鍬潟』でこんなに面白かったのは過去も含めて初めて。

◆10月13日 第33回「この人を聞きたい 今松・馬石二人会 その二」(三輪田学園百年記念講堂)

駒松『狸の札』/馬石『甲府ぃ』//~仲入り~//今松『江島屋』

★今松師匠『江島屋』

「縁談~衣裳買い」「婚礼~お里の死」「藤ヶ谷新田老婆の呪い」「命日の怪異」と
まとめた構成。怖がらせようとしすぎて、うるさくなるような怪談噺ではないのは良
いけれども、淡々としているといっても、丸で怖さの無い怪談てェのはなァ…先代馬
生師のような「美しい怪異」も無いし。私は先代馬生師の艶麗と蝠丸師の怖さが忘れ
られない。

★馬石師匠『甲府ぃ』

短縮版の物足りなさもあるが、法華、というか信仰色が皆無で、矢鱈と「良い人ばか
りの噺」になっていたのは「お局好み感覚」でゾッとしない。

※古今亭圓菊師匠逝去。84歳。

 努力の人であり、長く落語協会の寄席を支えた存在である。短命に終わる方の多
かった五代目志ん生一門の長老として、あれだけの数の御弟子さんを育てられたのは
有難く、口上に立ち会えなかった文菊師匠の真打披露最中に逝去されたのがまた、一
入、哀悼の念を強める。一門が御稽古を受けている噺の中、結構、細かい演目で圓菊
師自身から伺った事の無い噺があるのは悔しい。また、『火焔太鼓』の御稽古に伺っ
た他門の後輩に「志ん生師匠から“これは夫婦の噺だって事を忘れちゃいけない”と
言われている。それを君も決して忘れないで欲しい」と語られた、という言葉は「古
今亭」の芸の系譜・ありようを的確に後世に伝えるものだと私は思う。『井戸の茶
碗』『幾代餅』『唐茄子屋政談』のように、かなりの回数を伺った演目と、一度くら
いしか伺った事の無い演目の差が極端な師匠だったなァ。

◆10月14日 霧矢大夢ファーストコンサート「アモーレ・ムジカ」昼の部(青山劇場)

◆10月14日 霧矢大夢ファーストコンサート「アモーレ・ムジカ」夜の部(青山劇場)


◆10月14日 池袋演芸場夜席平治改め十一代目桂文治襲名披露興行

小遊三『千早振る』//~仲入り~//小遊三・米助・桃太郎・蝠丸・伸治・文治「襲名披露口上」/蝠丸『首の仕替え』/桃太郎(交代出演)『柳昇・先代文治・夢楽・蝠丸色噺』(漫談)/ボンボンブラザース/文治『禁酒番屋』

★文治師匠『禁酒番屋』

これまでと違い、肩をいからして膝も崩さないまま、言葉だけ酔いが回ってくる番屋
の侍が、次第に晩年の彦六師匠みたいに見えてきたのが面白い(笑)。

★蝠丸師匠『首の仕替え』

 時間の押している中で、この噺を持ってきて、しかも前の口上を活かして、ちゃん
と受ける辺りが相変わらずの「寄席名人」ぶりで凄い(中身は米朝師や松喬師の演じ
ているのとかなり変えて或る)。


◆10月15日 新宿末廣亭昼席

左圓馬『掛取り』/東京ボーイズ(南玉昼夜替り)/圓輔『辰巳の辻占』/桃太郎『勘定板』/京太ゆめ子/遊吉『浮世根問』//~仲入り~//ぴろき/とん馬『雑俳』/伸之介『六銭小僧』/喜楽喜乃/遊三『お見立』

★遊三師匠『お見立』

喜瀬川の高っ調子な不実さがマンガで可笑しく、杢兵衛大尽が「馬鹿こくでねェ。そ
んな事したら、吉原中の若い阿女っ子がおらに焦がれ死にしちまうでねェか」と微笑
してヤニ下がる見の面白さは独自だ。

★遊吉師匠『浮世根問』

後半の「どんどん」から「もうもう」の辺り、如何にも快いテンポで、「成る程、こ
の噺の後半はリズムで愉しませれば良いのか」と感心した。

※大喜利は聞かずに仕事で移動。

◆10月15日 人形町市馬落語集(日本橋社会教育会館ホール)

市也『真田小僧(上)』/市馬『真田小僧(下)』/市馬『雑俳~りん廻し』//~仲間入り~//市馬『甲府ぃ』

★市馬師匠『甲府ぃ』

御会式月のせいか、重なる演目だね。市馬師では初めて聞いた演目だろう。明治以降
の設定で、その分、「東京」「人生」など、言葉が比較的硬め。善吉に店を任せてか
ら、金公が所帯を持って暖簾分けする。それからお花との縁談になる、という流れは
展開としてしっくりこない。誰に稽古を受けたのだろう?二番弟子が師名を継いで、
兄弟子を追い出すみたいな印象は市馬師に似合わないと感じた。構成的には稍ウェッ
トさが強めで、登場人物全員が「良い人」過ぎて、噺がより平坦になるのは一昨夜の
馬石師と似た短所である。圓太郎師・扇辰師・左龍師の「堅法華な豆腐屋親父の職人
気質」の面白さで噺を引っ張るのに較べ、牽引車のない列車みたいな頼りなさを感じ
るのである(目白の小さん師が豆腐屋親父のモデルにはピッタリなんじゃないか
なぁ)。半面、善吉の「如才なさ」を余り押さないのは市馬師に似合い、教訓臭を感
じないのは市馬師らしい長所である。

※市馬師の善吉を聞いていて、江戸下り以降の「草鞋拾い」「道連れ小平の騙り」
「四ツ目小町」での塩原多助を、特に主人と多助主従の縁を聞きたくなった。目白の
小さん師系の人物造型で多助を演じるなら、世代的に市馬師が最適任者だろう。小満
ん師の「経済小説」として抜群に面白い『塩原多助一代記』ともまたひと味違い、刻
苦精勤なる出世人の魅力を嫌みなく描くとするならば、『塩原多助』は演者をかなり
選ぶ演目だと思うから。

★市馬師匠『雑俳~りん廻し』

『道漑』と同じ入りで、隠居は素敵に人物造型されているのだけれど、八五郎が曖昧
で物足りない。妙に知識があり、それが口調とそぐわないのである。噺全体のリズム
もおかしく、りん廻しに入ってからもリズムが安定しないから、『雪てん』まで伸ば
すのかと思った。全体的には余り良い出来ではない。

★市馬師匠『真田小僧(下)』

市也さんの後を受けて、珍しい師弟リレーだけれど、口演自体が久し振りなのかな。
『真田三代記』の中身も、オチも間違えないようにか、言葉を置くような喋り方をし
ていた。丁寧だけど面白味は余り感じなかった、という高座。

◆10月16日 新宿末廣亭昼席

南玉/圓輔『欠伸指南』/桃太郎『先代文治吝吝嗇伝』/コント青年団(京太ゆめ子代演)/遊吉『肥瓶』//~仲入り~//ぴろき/とん馬『元帳』/伸之介『ろくろ首』/喜楽喜乃/遊三『船徳』

★遊三師匠『船徳』

火箱の件、なるほど、今大抵の人が演じているより速く前後に動かないと面白くなら
ないんだな。船に乗ってからの客二人の動き方がスラップスティックで面白い。

★遊吉師匠『肥瓶』

トントン運んで先代歌奴師みたいな感じ。寄席の落語だなァ。

★桃太郎師匠『先代文治吝嗇伝』

故・梅橋師の『楽屋奇人伝』みたいなものだけれど、やはり仲間内の楽屋噺は可笑し
い。第一、先代文治師だと実際に吝嗇だったとしても憎めない。

※大喜利は聞かずに仕事で移動。


◆10月17日 新宿末廣亭昼

南玉/圓輔『夢の酒』/桃太郎『結婚相談所』/京太ゆめ子/遊吉『紀州』//~仲入り~//ぴろき/圓馬(とん馬代演)『ん廻し』/伸之介『牛褒め』正二郎(喜楽喜乃代演)/遊三『禁酒番屋』/大喜利・二人羽織

★遊三師匠『禁酒番屋』

漏斗を使って女中にも小便をさせる演出は遊三師では初めて聞いたんじゃないかな?
仕返しを言い出した酒屋の者が「小便を小便だって言って持ってくんですから、呑む
呑まないは相手の勝手で・・・」を張らずに(今は大抵張って受けを狙う.)モジョモ
ジョと口籠るように次第に声を下げて言うのは目白の小さん師でも聞いた記憶があ
る。仕返しの気持ちとは別に、小便を呑ませる事には躊躇のあるこの演出の方が、汚
さが強調されずに可笑しさが出て良いなァ。番屋の侍の立派さ、酔いをセリフに留
め、態度に出し過ぎないのも流石である。

※大喜利は聞かずに仕事で移動。

◆10月17日 CD発売記念春風亭一之輔三夜連続独演会『一之輔、落語の海へ帆を上げて』第一夜(博品館劇場)

市楽『お菊の皿』/一之輔『提燈屋』/市馬『笠碁』//~仲入り~//一之輔『宿屋の仇討』

★一之輔師匠『提燈屋』

分かりやすい可笑しさはあり、中でも「俺くらいになると字なんぞには頼らねェ」と
力む奴は矢鱈と可笑しいが、後は若い衆が全体に与太郎っぽくなっている。先代柳朝
師⇒一朝師⇒現・柳朝師と伝わっている「軽くキワキワする」のが得手でないのか
な。声が強過ぎるせいもあるけど、一朝師だって甲高い調子ではないから、セリフの
運び方だろう。隠居と若い衆の区別もちゃんとはついていない。九月に聞いた時とは
些か異なり、提燈屋の主は妙に腰が低かったり、ムカついたり、気が弱いんだか意
地っ張り気質なんだか、どうも曖昧なままである。

★一之輔師匠『宿屋の仇討』

勢いで演じている感じが無くなってきたのは喜ばしい。萬事世話九郎を喜八相手の冒
頭で洒落っ気のある江戸侍の感じにしている。それが終盤の仇討ち騒ぎで世話九郎が
かなりマジになっても巧く作用して、「無駄な怖さ」を感じさせない。世話九郎が喜
八に止められて、直ぐ冷静になるのも噺がバタバタしない良さに繋がっている(その
分、仇討ち騒ぎのテンション維持はしにくくなっているけれど)。喜八がおふざけ
キャラクターでないのも噺のまとめ役として嬉しい。江戸っ子三人は『提燈屋』の若
い衆同様、何となく与太郎・甚兵衛さんっぽさが出ており(軽く演じようとすると型
崩れしちゃう訳かな?)、「江戸っ子気質丸出しの跳ねっ返り三人」にはまだ見えな
い。時々、「内容」など硬めの言葉を使っていたけれど、ギャグや穿ちにはなってい
ないので余り効果を感じなかった。宴会を止められて、「碁でも打つ?」と今宵限り
のギャグを使うとか、些か古くはなるが「それが人間の業ってもんよ」とか言うなら
まだ分かるけれどね。

★市馬師匠『笠碁』

良くなった所もあるけれど、冒頭の喧嘩がマジ過ぎる。従って、「よい齢をした二人
がムキになって」という可笑しさや、可愛さに乏しい。見た目は二人とも、如何にも
旦那らしくて良いんだけれど、言葉のキレが真剣勝負過ぎるのである。美濃屋とかみ
さんの遣り取りが「情」があって良いのに較べると、待つ側の主人が店の者に語り掛
けすぎて、目白の小さん師匠型のセリフにある「独り言ちる面白味」が活かされてい
ない。店の者=客席に語るセリフになってしまう印象を今回も受けた。セリフの言葉
遣いを少し変えてみてはどうだろう?

◆10月18日 新宿末廣亭昼席

一矢(南玉代演)/圓輔『強情灸』/桃太郎『結婚相談所』/コント青年団(京太ゆめ子代演)/遊吉『安兵衛狐』//~仲入り~//ぴろき/柳橋(とん馬代演)『代脈』/伸之介『高砂や』/喜楽喜乃/遊三『明烏』/大喜利・二人羽織

★遊三師匠『明烏』

東京落語会のトリ用に浚っていたみたい(笑)。遊三師で聞いた事があったか
なァ・・多分初聞きの演目。黒門町型スタンダードかと思っていたら、翌朝が茹で小
豆でなく、梅干に砂糖掛けとお茶で矢来町風だった。親旦那の洒落の分かってるとこ
が良く、源兵衛・太助も柄にあって古風な町の札付き。その片割れが苦い顔して梅干
を食べてはお茶を啜ってるダルな感じが一番面白い。

★遊吉師匠『安兵衛狐』

落語芸術協会の寄席でこの噺を聞こうとは!狐の雰囲気などを重視せず、トントン運
んでいる印象。長屋の孀四人が「なんであいつらだけにかみさんが」とボヤいている
辺りが軽妙に可笑しかった。

★伸之介師匠『高砂や』

隠居の謡が良い声で立派なのに驚いた。先日の披露口上司会でも感じたが、一寸アナ
ウンサー的な発声ではあるけれども、まず声が良いんだな。今日は仕種も動き過ぎな
くて面白かった。

※大喜利は聞かずに仕事で移動。


◆10月18日 立川生志らくごLIVE「ひとりブタ」芸術祭参加公演(内幸町ホール)

生志『反対俥』//~仲入り~//生志『柳田格之進』

★生志師匠『柳田格之進』

総体には良い出来で、ネタ卸しから更に客席を引き締めた口演だったけれども、レベ
ルが上がるほど、ディテールでは気になる所も沢山出てくる。細かい手入れを増やし
て、娘・琴の自害・萬屋萬兵衛が徳兵衛を使いには出さず主従で柳田を待つ、という
流れは定まって来た。但し、生志師の考える「武士の娘として琴が思いを通す」演出
の『柳田格之進』はやはり「人情噺」であろうと私には思える。その結果、「待った
は無しじゃ」というオチは、落語としては分るけれど、急に噺が軽くなってしまう印
象も感じた。『立切れ』の「線香が立切れました」的な「情」と「無常」などの要素
が欲しくなるのだ。故に、「今の演出の流れでオチが要るのか?」という疑問にも繋
がった。生涯の友に別れを告げて立ち去ろうとする柳田、その裾を掴む萬兵衛。この
演出のオチとして活かすならば、萬兵衛の手を払いながら、苦衷の表情に万感をこめ
た、「阿漕であろう」の心を感じさせる「待ったは無しじゃ」が必要なのではあるま
いか。柳田は上半身の無駄な動きが無くなり、侍らしい端正さは増した。半面、肩の
線がまだ丸く、パッと見た瞬間に「侍の姿らしさ」が感じにくい点が残る。「井伊の
赤備え」で鍛えられた柳田の背筋はあくまでもピンとしてなければなるまい。「じゃ
あ」など、侍としての用語にも時々疑問を感じた所がある。落語にせよ、人情噺にせ
よ、描写の言葉にも些か無駄が多めなのを感じる。逆に、湯島切通しから見下ろす、
雪化粧した下谷界隈の絵は必要じゃないかなァ。また、琴が廓に身を沈めて作った五
十両を前に、柳田がひと晩泣き続ける、という演出は稍「侍心」から離れたものを感
じる。侍なればこそ、泣くより辛い苦しみもあるのではないだろうか。萬兵衛は大店
の主にしては軽めのキャラクターだけれども、キチンと好人物。徳兵衛はネタ卸しの
ときより、少し子供っぽくなってしまった観あり。「大人の男の嫉妬」でありたい。

★生志師匠『反対俥』

「尼ケ崎事件」の話からANAの機内放送の話と、マクラの振り過ぎでリズムが掴め
なかった感あり。後ろの『柳田』の緊張感もあったのか、生志師本来の軽さではな
い。

 ※『柳田』のサゲを言った後、「作品解説」のようなトークを語ったけれど、「こ
こで説明はしない方がいいな」と私は感じた。家元の悪い癖が似てきちゃったか
なァ。家元が『孝行糖』で教えてくれた具体的な芸談も、「了見の伝承」として面白
い内容ではあるが、『反対俥』のマクラにあるべき話題か?と思う。生志師がマクラ
で聞かせるシニカルさや良い意味での「下から視線」は面白いけれど、「生志師の演
じる落語の世界の良さ」と乖離して来ているのではないか?と感じる。立川流の御客
さんばかりを相手にしていた時代とは、かなり客質も違ってきているのを感じるから
ね。トークはトークとして独立させた方が良いと思う。

◆10月19日 第一回「圓太郎ばなし」(日本橋社会教育会館ホール)

わさび『壺算』/圓太郎『化物遣い』/白酒『松曳き』//~仲入り~//圓太郎『二番煎じ』

★圓太郎師匠『化物遣い』

吉田の隠居(稍口調が町人っぽい。御家人の設定じゃないのかな)の人遣いが無茶苦茶
に荒く、奉公人が居着かなくて千束家の主人・番頭が困る所からあるから尺は長いけ
れど、隠居の「思い遣りの無い優しさが溢れる性格」(笑)が克明に描かれるので強烈
に面白い。忍耐力の見本みたいな「ウォー杢助」(笑)から去り際に叱られて、化物相
手に隠居は優しさを見せるのも可愛い。それが直ぐに本性が出て、また思い遣りが無
くなるのも更に可笑しい。化物連中が気の毒になる性格である。化物連中もそれぞれ
に健気で可笑しい。オチの「お暇を戴きとうございます」を利かせるためか、マクラ
でくどいほど仕込んでいたが、それもオチの面白さで苦にならない。

★圓太郎師匠『二番煎じ』

都々逸の文句から、矢来町演出が基本だと思うけれど、これまた長い長い(笑)。この
噺でも夜回り小屋にみんなが集まってくる件から、個々の性格を徹底して克明に描
く。仕切り屋の月番・穏健だが結構勝手な黒川先生・棒手振り上がりで気の利く宗助
さん・身内の愚痴の多い伊勢屋・先代文治師を彷彿とさせる抗弁屋の達っちゃん(そ
ういえば、先代文治師の本名は関口達雄だった!)と、クッキリ描き分けられた面々
が夜回りの件から、如何にも年よりらしい「我が儘ぶり」を発揮する。最初は五月蝿
く感じた、この馬鹿者老人集団の好き勝手な口のききあいが段々可愛く見えてくるの
がユニーク。しかし、花粉症の鼻声でありながら『化物遣い』40分、『二番煎じ』
50分をあの大声で語り続ける圓太郎師のエネルギーには驚かされる。

★白酒師匠『松曳き』

圓太郎師の『化物遣い』大熱演を物ともせず爆笑。普通に噺をする噺家さん相手なら
ば感心するほど「自分のペース」が守れる。

★わさびさん『壺算』

まだ面白くはなってはいないが、以前のだらしない喋り方が嘘のようで、ちゃんと人
物の了見で話せるようになったのは成長。冒頭の二人の会話、終盤のパニックに陥る
番頭にそれを感じた。

◆10月20日 第一二三回朝日名人会(朝日ホール)

市也『のめる』右太楼『普段の袴』/扇辰『千早振る』/文治『源平盛衰記・木曾義仲&扇の的』//~仲入り~//志ん輔『稽古屋』/さん喬『鼠穴』

★さん喬師匠『鼠穴』

まだ改訂過程の噺か。竹次郎の持つ「意地とは裏腹な弱さと優しさ」(どこかほの温
かいものを感じ続けさせる)、秋田・青森辺りの出らしい兄貴のドメスティックな存
在感、敢えて描写をし過ぎない火事(焼け落ちた後、竹次郎は番頭の顔が真っ黒だと
笑ってみんなを励ます)、挨拶をして去る番頭と残された家族三人の寂しさ、全く態
度の変わる目の中の兄、驚くほど明るく身売りを言い出す娘……心情説明を殆ど加え
ずに噺を進める演出だから、圓生師とも家元とも感触は全く違う。但し、様々な要素
が『雪の瀬川』のようには、まだ「さん喬師の世界」として繋がりきっていない。要
素を繋ぐ楔として必要なのは、例えば「田舎出の竹次郎兄弟」に対する親近感みたい
なものではあるまいか。小三治師の『鼠穴』には親近感が明らかにあり、家元は田舎
者の野暮さが誰よりも似合ったが、それがまだ見当たらない。スッキリしている分、
世界が立ち上がってこないのだ。

◆10月20日 浅草演芸ホール夜席

小燕枝(南喬代演)『小言念仏』/勝丸(正楽代演)/小ゑん(圓丈代演)『寿司屋』//~仲入り~//柳朝『猫の皿』/たかし(仙三郎社中代演))/正朝『悋気の火の玉』/文楽『看板のピン』/遊平かほり/玉の輔『動物園』/ダーク広和/一朝『天災』

★一朝師匠『天災』

一番前の真ん中に馬鹿な酔っ払いがいて声を掛けたり、変な爆発拍手をして高座の邪
魔をしていたためか、稍メリハリを強めに演じたけれど、 その分、セリフの遣り取
りが一層キビキビして非常に面白かった。瞬発的な大声が出せること、切り返しのリ
アクションの鋭さ。やはり超一級品の江戸前落語である。時間の関係で、最後の鸚鵡
返しで少し端折ったかな。

★正朝師匠『悋気の火の玉』

おかみさんの焦がしまくりの焼き餅ぶりと火の玉のすね方のリアルな可笑しさ、それ
に翻弄され乍らも、煙草の火を欲しがる立花屋の暢気さと揃って面白い。

★柳朝師匠『猫の皿』

 口演自体は若手真打らしからぬ腕を発揮しているけれど、馬桜師型の演出はディ
テールの説明が多すぎる。芸風とフィットしていないのではあるまいか。

-----------------------------------------------------以上、中席--------


◆10月21日 落語協会特選会第八回『奮闘馬石の会』芸術祭参加公演(池袋演芸場)

まめ平『元犬』馬石『玄冶店』~仲入り~馬石『茣蓙松の強請』

★馬石師匠『茣蓙松の強請』&『玄冶店』

この二席で芸術祭参加は重すぎる。雲助師が芸術祭に積極的に参加してた時も「二席
とも重いなぁ」と感じたものである。どちらも二~三席分の噺をまとめて演っている
から、茣蓙松の隠居が大家の伊之助に「相対間男」に嵌められた話を繰り返したり、
笑の殆ど無い噺でストーリーの繰り返しを聞かされるのはダレる。雲助師の『茣蓙松
の強請』を初めて聞いた時は70分くらいあったから、今夜の方が短いんだけれど、
クドさを強く感じた。『玄冶店』の終盤を『源氏店』で演じるのは雲助師通りだけれ
ど、これも「噺」としてはかったるい。

◆10月22日 新宿末廣亭昼席

小さん『親子酒』//~仲入り~//萬窓(扇好代演)『紀州』/笑組/一朝『家見舞』/馬の助(伯楽代演『権助芝居』・百面相/勝丸/小里ん『睨み返し』

★小里ん師匠『睨み返し』

張りがあって面白い。那須正勝の件の切り返しにまだ課題はあるけれども(あそこは
本当に難しいんだな)、クドくなく、冒頭の薪屋から各々の人物が良く出た、良い出
来。小里ん師匠の「睨み」と独自の面白さが見せられるようになった。

★一朝師匠『家見舞』

この出番にしては長めで道具屋の遣り取りも豊富だけれど、トントン運んで歯切れよ
く愉しい。


◆10月22日 第44回 人形町らくだ亭 (日本橋劇場)

扇『金明竹』/志ん吉『代脈』/南喬『佐野山』/小満ん『忍び三重』//~仲入り~//志ん輔『子は鎹』

★志ん輔師匠『子は鎹』

冒頭、番頭さん相手の熊さんの職人としての気っ風が如何にも良くて魅力的。それが
最後まで続いている。かみさんも金坊を叱る所が些か強いけれど(金槌を振り上げる
のは感心しない)、熊さんから貰った五十銭だと分かって以降の良さ、鰻屋での逡巡
する様子などは真に結構である。金坊は独楽の件で稍泣きが強いけれど、正蔵師とは
違う形で子供の被る傷を感じさせる。

★小満ん師匠『忍び三重』

日本橋亭での口演に比べると却って冗漫に感じる所あり。長谷川伸の香りも希薄に感じた。

★南喬師匠『佐野山』

地噺らしい出し入れがあり、安定した面白さである。明るく暢気で馬鹿馬鹿しく大きい。


◆10月23日 新宿末廣亭昼席

ぺぺ桜井/志ん馬(扇好代演)『看板のピン』/小さん『幇間腹』//~仲入り~//川柳『ガーコン』/笑組/一朝『目黒の秋刀魚』/伯楽『猫の皿』/勝丸/小里ん『三軒長屋(上)』

★小里ん師匠『三軒長屋(上)』

小里ん師の(上)だけって演じ方は初めて聞いた。「薬罐が飛ぶ、薬罐が飛ぶ」の件が
抜けたせいもあるけれど、最後はもう少しおやかしたい。「エッ!」と思ったのは与
太郎が一人でお燗番をして七輪を扇ぎ乍らボヤくとこで、フッと「一人内弟子の寂し
さ」みたいな物を感じたこと(小里ん師は一人内弟子の時代は無かった筈)。小里ん師
の与太郎はいつも可愛いから、こういう印象を受けたのは初めてだし、過去に聞いた
『三軒長屋』で、こんな印象は誰からも受けた事はない。

★一朝師匠『目黒の秋刀魚』

殿様の食べる秋刀魚が十匹に増えているくらいで、後はほぼ、小満ん師と同じ演出。
こういう演出だったかな?勿論、タッチのかなり違う面白さになっている。

◆10月23日 第一回さん喬十八番(日本橋劇場)

さん坊『道灌』/喬之進『のめる』/さん喬『線香の立切れ』//~仲入り~//さん喬『井戸の茶碗』

★さん喬師匠『線香の立ち切れ』

前半、特に若旦那の蔵入りから蔵出へ掛けて、番頭の心情をこれだけ丁寧に演じたの
は初めて聞いた。上方原典の番頭ほど序盤に威厳を感じさせはしないけれど、忠義心
から思い詰めた雰囲気を感じる。蔵出に際して若旦那に詫びるのが稍長く、序盤の表
情や心情の解説・説明になりかかるのは惜しいが、番頭を「単なる敵役」にしない配
慮だろうか。若旦那が小糸の手紙一本で「百日の説法屁一つ」になってしまう浅さ、
若さは独特の巧みさだ。柳橋蔦の家に移っても、若旦那の如何にも浮かれた、明るく
若い挨拶と喪の家の二人の沈痛さの対比が活きる。女将の語りから後は特にいつもと
変わりはないが、若旦那が線香を上げるのは前と変えた部分か。左龍師で先に聞いた
けれども。戴き物を小糸がならべる場面は杉田久女の「花衣 ぬぐやまつはる紐いろ
いろ」を思わせ、この噺の世界と見事にフィットした艶やかな哀しみの表現として他
の『立切れ』に例を見ない。

★さん喬師匠『井戸の茶碗』

『立切れ』が一時間超えしたので超簡略版。とはいえ、『立切れ』とのセッティング
は見事で、「結ばれぬ縁」と「不思議な結ばれ方をする縁」の対照が面白い。明るい
高木、暢気な清兵衛、温和で矜持の高い卜斎、やや下世話な良助の繰り広げる会話を
楽しむうちに明るく帰路につけた。細川越中守をちゃんと目の効く趣味人にしてある
のも好配慮である。『阿部一族』の細川忠利でもあるまいに、目の効かね主君では家
臣の善し悪しも分かるまいにと、イメージしてしまうから。

★喬之進さん『のめる』

まだ、些かけたたましい所はあるけれど、こういう単純な噺なればこそ、語っている
中身が落語らしくなったのが良く分かる。

◆10月24日 新宿末廣亭昼席

ぺぺ桜井/小さん『不精床(上)』//~仲入り~//扇好『権助魚』/笑組/一朝『壺算』/伯楽『目黒の秋刀魚』/勝丸/小里ん『煮賣屋~長者番付』

★小里ん師匠『煮賣屋~長者番付』

9月22日のネタ卸し以来の口演か。しかし、目立った停滞などなく、特に江戸っ子
兄貴分の語る二組の運付く話もテンポ良く進み、軽快な再演になった。言えば、後半
は稍江戸っ子の調子中心で造り酒屋の主の調子を、煮賣屋の婆さんに近く、もっと
ゆっくりさせた方が更に長閑な愉しさが醸し出されるのではないか。

★伯楽師匠『目黒の秋刀魚』

 随分暫くぶりか、初めて聞いたか、どちらかな。先代馬生師型とも違い、殿様の食
べる秋刀魚が六匹という数も初めて。いや、三太夫さんが随行するのは先代馬生師と
同じか。全体にサラッと面白い高座。

◆10月24日 浅草演芸ホール夜席「二ツ目抜擢興行」

鯉橋(可龍代演)『肥瓶』/陽昇/夢花『目薬』/米福『辰巳の辻占』/味千代/桃太郎『春雨宿』//~仲入り~//宮治『だくだく』/鯉八『都から』(正式題名不詳)/A太郎『お話中』(正式題名不詳)/伸&スティファニー/遊雀『くしゃみ講釈』

★宮治さん『だくだく』

熱気は相変わらずだけれど、今夜はリアクションが決まらず、空回り気味。演目的に
高座数が足りない印象だね。

★鯉八さん『都から』

不条理系一人芝居っぽい。同じ論理展開を繰り返すのは小劇場の女性戯曲家に多かっ
たパターンに似ており、ちと古めかしく感じる。エンタテインメントにせず、わざと
中途半端で止める割に、後は観客の判断に任せます、という図太さみたいなものを感
じない。この演目に燗しては、田舎出の自称アーティストっぽいのだ。演目次第の噺
家さんになるのかなァ?

★A太郎さん『お話中』

聞き乍ら、「あれが僕たちの出会いだったね」「そうね、あなた」みたいに展開する
のかと思ってた。同じ庖丁強盗の繰り返しオチでは日常に歪まされる非日常の面白さ
にならないし、新鮮味もない。いかにも颯爽と男性的な柄で団地の奥さん風な女性を
演じる違和感の可笑しさもあるんだけれど、

◆10月25日 新宿末廣亭昼席

笑組/一朝『蛙茶番』/川柳『ガーコン』/ペペ桜井/小里ん『お茶汲み』

★小里ん師匠『お茶汲み』

 最初の男の序盤、言い間違えが割とあり、客席がバラけ掛けたけれど、二人目の男
の「キャーッ!」が受けてから引き戻し、聞き込ませながら進めて、サゲでドッと受
けたのは結構なこと。二人目の男が娼妓相手に嘘の身の上話をしてる場面が、廊下の
隅にある、二人っきりの夜の寝間だという、一種の物寂しさを背景に感じた。大嘘の
馬鹿馬鹿しさがと寂しさに縁取りされている噺なのか。

◆10月25日 第25回ぎやまん寄席湯島天神編 春風亭一之輔ひとり会(湯島天神参集殿一階ホール)

朝呂久『夏泥』/一之輔『加賀の千代』/一之輔『くしゃみ講釈』//~仲入り~//一之
輔『百川』

★一之輔師匠『加賀の千代』

遊雀師・三三師系で、甚兵衛さんは柄にあるから面白い(逆に普通の若い連中が与太
郎や甚兵衛さんっぽくなりすぎるけど)。結構恐いかみさんの可笑しさはは『青菜』
などと同様。隠居は優しくて、三代目三木助師系のクサみが少なく、変に冷静でない
のも良い。全体がもう少し無邪気になれば自家藥籠中のネタになるだろう。

★一之輔師匠『くしゃみ講釈』

権太楼師型か。講釈は『難波戦記』。主人公は甚兵衛さんっぽくて、遊雀師みたいに
トッポい感じではない。割とマジな乾物屋が似合って可笑しい。講釈はもう一寸滑ら
かでないと。「御母堂淀君」でロレッちゃマズいっしょ。

★一之輔師匠『百川』

喋り慣れていて一番安定感あり。若い連中が主体で、キレキャラの百兵衛さんと好人
物の旦那、マジな鴨池先生が絡む雰囲気。言葉の出し入れは面白い半面、キャラク
ターの数が作れないというか、百兵衛の事を初五郎が仲間に話していると「一対一」
で、周りのいない会話になっちゃうのは課題の一つ。

◆10月26日 新宿末廣亭昼席

ぺぺ桜井/川柳『ガーコン』/小さん『元帳』//~仲入り~//扇好『看板のピン』/笑組/左楽(一朝代演)『馬のす』/伯楽『目黒の秋刀魚』/勝丸/小里ん『お直し』

★小里ん師匠『お直し』

ネタ卸しの時に比べ、今日は前半が地味目。蹴転を始める辺りから持ち味の明るさ、
軽さが出てきた。「惚れ直したよ」が抜けたのは惜しい。蹴転の女郎に戻ったかみさ
んが客に言う「ちょいと」の軽くて可愛くて艶のある事は出色。酔っ払いの遊び慣れ
た面白さ、かみさんの口説を分かって乗って遊んでいる良さも出色。サゲのセリフも
良い。亭主は「お直しだよ」の怒り始めから最後に言う「お直しだよ」の間に、もう
少し焦れた感じが欲しいけれど、骨障子の向こう、薄っ暗い羅生門河岸の露地にしゃ
がんで臍を噛んでる雰囲気がちゃんとある。またかみさんが怒り出してからのおこつ
いた宥めぶりに、この亭主の弱さが出ている。受けは弱いがサゲからの拍手から、お
客が聞き込んでいたのが分かる。

★小さん師匠『元帳』

 亭主のヒョワヒョワした可笑しさに独特の味わいが出て来た。若い頃と違って、芸
全体が明らかに「落語らしい柔らかさ」を持って来ている。

◆10月26日 第52回あおい落語会「秋のさん喬 正蔵 特選二人会」(雲光院本堂)

住職御挨拶/つる『元犬』/正蔵『松山鏡』/さん喬『宿屋の仇討』//~仲入り~//さん喬『片棒』/正蔵『景清』

★さん喬師匠『宿屋の仇討』

さん喬師では初聞きの演目か。惜しい事に風邪声で咳き込むなど不調。冒頭で侍の名
前を言わなかったのも忘れちゃったかな。終盤、伊八の侍部屋⇔三人部屋の行ったり
来たりを一度にしたのは独特の演出か?とはいえ、侍は如何にも闊達で悪い冗談も言
いそうだし、三人で相撲の話をしている時など、ちゃんと三人で話している演出に
なっているのは流石。

★さん喬師匠『片棒』

 明らかに喉の調子が悪くなっている状態の時に、敢えて調子を張るこの噺を選ぶと
いう、この師匠の精神力の強さには驚く。

★正蔵師匠『松山鏡』

ニンにある強味で完全に持ちネタになってきた。長閑で純朴な可笑しさは一寸真似手
がない。小三治師匠が正蔵師を認めている理由を改めて強く感じた、『馬の田楽』を
聞きたくなる長閑さは余人にない「落語」を体現する持ち味である。

★正蔵師匠『景清』

観音経を熱心に唱える辺り、正蔵師の性格が定次郎の人柄に巧く嵌まっている(職人
気質はもっと欲しいけれどね)。但馬の旦那の人間味は既に描けている。「覚えてェ
ろ!」など、黒門町が「キレ」で演じていた件を、「キレ」の得意でない正蔵師がど
う変えるか、それとも演らないか、という判断のステップに入っている。

◆10月27日 第22回三田落語会昼席(仏教伝道会館ホール)

ゆう京『道具屋』/さん喬『天狗裁き』/喜多八『二番煎じ』//~仲間入り~//喜多八『落語家の夢』/さん喬『品川心中(遠し)』

★さん喬師匠『品川心中(遠し)』

前半よりも「仕返し」に重点を置いた印象。前半は一般的なくすぐりや描写を省くな
どして、受け過ぎないように配慮された流れで進行する。金蔵が白木屋の前に再び現
れ、妓夫が驚く辺りからグッと話が盛り上がる。金蔵の幽霊芝居の巧さ、弟役の仲間
の棒読みセリフの対照的な可笑しさ、間で焦れる親分の三者三様の面白さ。お染の感
じる恐怖から、金蔵が仕返しをしくじって再度海に落ちるサゲまで、独自の面白い構
成になっている。

★さん喬師匠『天狗裁き』

 中ヴァージョンだけれど、奉行・天狗のマンガなテンションの凄い高さが絶妙。後
半の「仕返し」中心の『品川心中』を意識した跳ね方かな。

★喜多八師匠『二番煎じ』

そんなに「高齢者」の集まりだとは感じられないんだけれど、夜回りの件から各キャ
ラクターの描き分けが明確。かといって克明ではないから、全体の笑い、愉しさが重
くならない。風景は一寸物足りないけれど、「ひと箸は無理」と猪肉に箸を重ねるセ
リフは実に説得感がある。「葱だ葱だ」と肉を食いまくる男が卑しく見えないのも良
い。最後に登場する侍の二枚目ぶりがまた際立つんだよねェ。

★喜多八師匠『落語家の夢』

徹底的に馬鹿馬鹿しい、極端な法螺話としての展開を、こういう風に愉しく戯画化し
て表現出来る噺家さんって、そんなにはいないよ。

◆10月27日 第22回三田落語会夜席(仏教伝道会館ホール)

朝呂久『猫と金魚』/一朝『三方一両損』/正朝『中村仲蔵』//~仲入り~//正朝『阿武松』/一朝『芝浜』

★一朝師匠『芝浜』

矢来町型(志ん朝師が亡くなってしまい、上げはして貰っていないとのこと)。矢来町
より遥かに熊さんが「落語国の棒手振り」になっているのが何よりも印象的。セリフ
は志ん朝師だから「芝居」なんだけれども、聞いていると全く「芝居」を感じない
(速記にしたら芝居になってしまうだろう)。長屋の中年に差し掛かった、ありふれ
た魚屋夫婦に振り掛かった小さな事件とその顛末、という辺りは全く一朝師独特で、
真似の出来ない落語らしさに溢れている。「落語的な馬鹿夫婦像」として非常に愉し
く優れており、家元系『芝浜』に付きまとう、人情噺的な野暮ったさも皆無である。
又しても東京落語のスタンダードの誕生である。

★一朝師匠『三方一両損』

 ダントツピカイチの凄い高座。登場人物みんなが江戸っ子でみんなが活きている。
しかも、演技的なクサ味が全くない。「落語国」の中で見事に展開が終始する。吉五
郎、金太郎の意気がり方の違い、喧嘩を納める小栁町の大家と喧嘩好きな白壁町の大
家との違い。呆れるほどに面白い江戸っ子噺である。特に喧嘩を面白がる大家と、金
太郎が奉行に喰って掛かる啖呵の面白さは素晴らしい。珠玉の高座でレベルは志ん生
師・目白の小さん師・先代馬生師クラス。

★正朝師匠『中村仲蔵』

雲助師型。以前、「ビクター落語会」時代に演じた時と比べ、やや力の入りすぎは感
じたものの(一時間超えは長い)、旗本の芝居臭さの無い小味な良さ、仲蔵が妙見様
に感謝する件に感じさせる「芸人の心情の良さ」など、雲助師とは違った特徴が幾つ
もある。仲熊夫婦も落語国の町民役者夫婦で偉そうに感じないのが良い。芝居を演じ
過ぎないのも佳。数年前の一朝師的な安定感があるね。「重くならない」という落語
に不可欠の要素を持っている師匠だ。

★正朝師匠『阿武松』

こないだ末廣亭の主任で聞いたばかりだけれど、多分、家元型。特に立花屋が良い。
相撲通ぶらない好人物になっている。長吉が純な若者であって、田舎者過ぎないのは
先代柳朝師系ならではの江戸っ子系人物造型故だろう。

◆10月28日 目黒バーシモンホール開館十周年記念柳家小三治一門会(目黒バー
シモンホール)

ろべえ『初天神』(飴と団子)/三三『錦の袈裟』//~仲入り~//その治/小三治「都々逸」・その治/小三治『禁酒番屋』

★小三治師匠『禁酒番屋』

酔った番屋の侍が小便を持ってきた店の若い者に言った「そこに蹲っておれというの
だ……伸び上がるな!」には笑った笑った。若い者の伸び姿が浮かぶ。今日は番屋の
侍が酔って、すっかり機嫌良くなり乍ら、「役目の手前」に拘る面白さが主体かな。
酔って、手は膝から外すわ、ベロベロに近い声音になりながら、御機嫌で酒を酌み続
ける辺り、酒好きの性根が明確で面白い。「君と寝ようか五万石取ろか、ままよ五万
石、君と寝よ」の「君」が「酒」の愉しさである。刹那なんだけど豊穣な気持ちが、
ある意味、侍らしい豪胆さにも通じる。今まで、こういう『禁酒番屋』じゃなかった
よなァ。

★三三師匠『錦の袈裟』

和尚の「与太さんの笑い乍ら人を斬る言葉に耐えるのが儂にとっては一番の修行」
「万事修行、万事修行」をはじめ、奔放な与太郎を取り巻く人間関係が面白くなって
きた。与太郎が最初の古い袈裟を投げる動きの可笑しさにも笑う。半面、奔放な与太
郎と「目の焦点があってなくて、口をボーッと半開きにしてる」という若い連中の与
太郎描写が余り適わない。

※小三治師が出番前に一度上がり、その治師の三味線で都々逸を歌ったけれど、これ
は大変な御景物。嬉しい得をしちゃった。

◆10月28日 上野鈴本演芸場夜席

朝呂久『間抜け泥』喬之進(右太楼・小権太代演)『のめる』/仙三郎社中/圓太郎『権助芝居』/文左衛門『手紙無筆(上)』/ホームラン(遊平かほり代演)/百栄『弟子の赤飯』/はん治(扇辰代演)『粗忽長屋』//~仲入り~//小菊/小せん(さん弥代演)『河豚鍋』/ダーク広和(正楽代演)/三三『明烏』

★三三師匠『明烏』

この時次郎は稍、パラノイヤ気味で、堅くなったり、シニカルになったり、暴君的に
なったりと厄介な人物で、或る意味、若旦那の典型。その言動の滅茶苦茶さに源兵
衛・太助が振り回される可笑しさなんだけれど、源兵衛・太助が若旦那の厄介さを余
り感じてない点に構成面の緩さを感じる。最後で「武運長久」の御守りを太助に渡す
辺りの時次郎を活かすなら、源兵衛・太助が最初から『苦心の学友・廓版』になった
方が良いのではあるまいか?

※『苦心の学友』は佐々木邦だっけ?佐々木邦はユーモアの仮面を被って実はかなり
子供っぽく残酷なとこが三三師と似てるかもしれない。

★はん治師匠『粗忽長屋』

セリフは基本通りだし、小三治師の抑揚、表情を感じるんだけれど、不思議なリアル
さがあるというか、ニューロティックに近い雰囲気が時々顔を出すのは全く独自。或
る意味、「怖さのある『粗忽長屋』」というべきか。

★小せん師匠『河豚鍋』

「大橋さん」が出てくるから三代目染丸師系であろうか。二人がなかなか河豚を食べ
ないで相手の様子を伺う件を長々と演らないのは賛成。あそこがクドいと噺全体が卑
しく野暮ったくなるから。サゲ際に出てくる乞食の感じも染丸師型でクサ目(小南師
と似てる)なんだけれど、演技的に灰汁が抜けているからクドさは感じない。普通、
わざとらしくなるサゲ間際の遣り取りも巧みに整理してあるのに感心。最近聞いた
『河豚鍋』では出色で、小せん師の頭の良さが分かる。但し、「(お前さんが食べて
からじゃないと)気味が悪いじゃないか」のセリフは、今夜のように、つい口をつい
て出ちゃった感じだと、逆にリアル過ぎて嫌らしくなるし、相手に向けて言うと今度
はクサいギャグになっちゃう。その折り合いがまだ付いていないかな。難しいセリフ
なんだな。

※百栄師まで上野定番メンバーの定番ネタ(ベテラン勢は意外とネタを変えて来る
が、特に中堅・若手の噺家さんの場合、演目の変化が甚だ乏しい)で、出来栄えには
何の不足もないけれど、刺激も無い状態だった。しかし、はん治師・小菊師(「時雨
して」は初聞き)・小せん師と「定番」離れした高座が続き、主任の三三師に向かっ
て気持ちがリフレッシュ出来た。前半の「定番メンバーの定番ネタ」は上野の弱みだ
なァ。余りにもリピーター客をキックするものが無さ過ぎる。かといって、「ネタ出
し」ばっかりになっちゃうのも困る。「落語初心者専門寄席」にしちゃうかね。噺家
さんたちが池袋を「寄席の歌舞伎座」と呼ぶのが最近では内容的にマジになってき
た。

◆10月29日 春風亭昇太独演会「古典と私」第一夜(本多劇場)

昇太「御挨拶」/生志『反対俥』/昇太『禁酒番屋』/昇太『時そば』//~仲入り~//昇太『井戸の茶碗』

★昇太師匠『禁酒番屋』

ネタ卸し。女子衆も小便を徳利に詰める演出。番屋の侍はかなりベロベロに酔うけれ
ど、態度も言葉も嫌らしくならない。また、二升呑まれて悔しがる若い衆の悔しがり
方が昇太師の持ち味にピッタリである。「(ドッコイショの言い訳で)何処、行こっか
な、って言ったんです」「近藤氏の所へ参ると申したではないか!」や「近藤氏の所
は忙しい」などのくすぐりにも無理がない。油徳利の件がやや粗く、展開上で無駄を
まだ感じるのはダレ性な性格のためかな。

※一見、侍が不得意そうなのに、昇太師のどの噺でも侍がおかしくないのは「城郭研
究家」として武士に敬意を払っているから、という事だろうか?

★昇太師匠『井戸の茶碗』

「天性」ってものの強みで、チャカチャカしていて、見た目の可愛らしい屑屋が二人
の侍の意地っ張りの間で困っちゃう、って展開が自然に可笑しい。圓菊師型の吹き矢

みたいな小道具がまた似合うんだ。11年ぶりの口演とか。屑屋の名前は善兵衛、中
間の名前が清助から良助に変わったり、茶碗でなく皿といったりの混乱はあるけれ
ど、

気楽に楽しめるのは嬉しい。細川家の家宝展などから細川家の由来などを語れるのも
昇太師ならではだろう。卜斎の「主家が倒れて浪人」も仏像や茶碗の由来を感じさせ

る上で巧い脚色である。屑屋が卜斎に言う「家の中にあるもの、ちゃんと見直しなさ
いよ!先祖は何なんです?!」は正しくその通りのセリフで爆笑(火焔太鼓くらいあ

ってもおかしくないうちだもん)。高木の方が落ち着いているのに比べ、千代田卜斎
が若く感じるのは直せる瑕僅だし、寄席の主任ネタとして尺もちょうど良い。

※若く聞こえる卜斎を聞きながら、この噺、千代田が若い貧乏侍で、高木が細川の老
臣で娘がいると、どういう展開になるんだろう?と思った。

★昇太師匠『時そば』

 爆笑。難度聞いても変わらぬ可笑しさを持続出来るのは凄い。昇太師がこの噺の面
白さを信じているって事だろうな。

◆10月30日 新宿末廣亭昼席

丸山おさむ(勝丸代演))』/小さん『短命』//~仲入り~//扇好『浮世床・夢』/笑組/一朝『唖の釣り』/伯楽『目黒の秋刀魚』/ペペ桜井/小里ん『一人酒盛』

★一朝師匠『唖の釣り』

客席がかなり重かったので、かなりテンションを高くして演じていた。非常に面白
く、客席の重さが次第に消えて行ったのは一朝師のお陰。

※一朝師・伯楽師・ぺぺ先生と見事に客席の重さを解消したのは流石。

★小里ん師匠『一人酒盛』

一朝師以前の客席の重さを意識してか、酒のマクラや小噺をかなり振って探り(終演
後、末廣亭の前で偶然出会って伺ったら『試し酒』か『一人酒盛』かと迷っていたと
のこと)、客席が巧く解れた所で『一人酒盛』へ。熊さんの「一人で呑んじゃ勿体無
い」「二人で呑めて嬉しい」といったセリフの入る度にドッ、ドッと受けるくらい客
席を巧みに引き込み、聞き入らせていた印象である。噺の段取りに気を配り過ぎると
客席も緊張しちゃうから、熊さんの機嫌良くホッコリした雰囲気を保ったまんま、熊
さんのセリフからマメで甲斐甲斐しい留さんの仕事ぶりやら、口を尖らせて膨れてる
留さんの姿が面白くが見えてくるように演じている。その按配加減が真に結構であ
る。目白型の『一人酒盛』としては現代のピカイチ。

※先日の一朝師の『芝浜』といい、小里ん師のこの芝居の『お直し』『一人酒盛』と
いい「何を演じても見事に落語である」というのは強いなァ。私が来られなかった土
日を挟んで小里ん師は『将棋の殿様』(発熱で来られず)『睨み返し』『三軒長屋
(上)』『長者番付』『お茶汲み』『お直し』『木乃伊取り』(土)『笠碁』(日)『一人
酒盛』(九日目は休演)と、難物を見事に演じて楽しませてくれた。単に「名作と称さ
れる落語」を並べただけの「ネタ出し」とは訳が違うのだ。

◆10月30日 真一文字の会(内幸町ホール)

一之輔『化物遣い』/八ゑ馬『箱入り娘~時うどん』/一之輔『蟇の油』//~仲入り~//一之輔『竹の水仙』

★一之輔師匠『竹の水仙』

全く偉そうじゃなく、甚五郎が御手軽なのは良いけれども、備前屋の主人まで職人口
調なのはどうかと感じる。一応客商売だしね。それと、甚五郎も職人口調ではあるけ
れど、扇辰師の『三井の大黒』のように「職人気質」が出ている訳ではないので、可
笑しさはあるけれど落語としては、お手軽過ぎる面も感じる。甚五郎の悪戯心は雰囲
気が出でいるから、それを活かすならば『竹の水仙』よりも『掛川宿』を演る方が似
合わないかな?

★一之輔師匠『蟇の油』

マクラで曰く、『本膳』ネタ卸しを中止して、余り演らない『蟇の油』に変更したと
のこと。不思議な事に『竹の水仙』の細川越中守は普通に出来ているのに、酔う前か
ら蟇の油売りの姿勢が悪い(猫背)のは何故?言い立ては終盤に独特のリアルな抑揚
があって面白いのだけれど、猫背な蟇の油売りってのは大道芸人としてリアル過ぎて
見栄が悪い。あれで蟇の油が売れるかな?

★一之輔師匠『化物遣い』

簡略型?「橋本光石さん」のとこへ杢助が使いにやられるから扇橋師系だろうか。一
ツ目小僧が初日で、二日目の大入道・のっぺらぼう・南瓜のお化け(これはハロウィ
ンのおまけ)から最後の仔貍までは日変わりせずに出てくる。寄席の15分用ネタに
する試しなのかな。吉田の隠居が口喧しいのは似合っている(命令してる中身は細か
くない)。杢助は『百川』の百兵衛と変わりのない印象。

★八ゑ馬さん『時うどん』

前フリの新作『箱入り娘』は少し進化した。もう少し長く出来ないかな。拘置所の中
にいる父親のとこへ「娘を嫁に欲しい」と面会に行くって発送自体はかなり面白いん
だから。『時うどん』は上方版だけれとも、誰の演出がベースだろう。昇太師ともか
なり違う。『時そば』の要素も一寸入っているのを感じる。二番目のうどん屋が気味
悪がって、まだ茹でてないうどんをただのお湯入れて出す、って演出は初めて聞い
た。乱暴なうどん屋がいたもんである。「相撲取りの幽霊に取り憑かれてる」など、
ギャグは可笑しい。良い意味で暢気、悪く言えば、稍しまりのない八ゑ絵馬さんの口
調と噺の演出は適ってる。このウダウダした暢気さ、私は嫌じゃない。

◆10月31日 浅草演芸ホール余一会昼の部・読賣杯争奪第二回激突!二ツ目バトル(浅草演芸ホール)

志ん輔『バトルのルール説明』/バトル出場者&審査員紹介/燕路『垂乳根』/伸治
『初天神』/志ん輔『元帳』/出場者出番順決めジャンケン//~仲入り~//ストレート
松浦/こみち『兵庫船』/馬治『強情灸』/きつつき『時そば』/小菊/こはる『六銭小
僧』/宮治『元犬』/金兵衛『七段目』//~仲入り~//馬生『目黒の秋刀魚』/小金馬
『小言念仏』/圓橘『稲川』/審査発表/授与式

★きつつきさん『時そば』

今回の優勝も当然のセンスと技術に感嘆。中盤、兄貴分から騙りの仕方を教わるのも
面白いけれど、二番目のそば屋が道楽でしてるそば屋で「脇でまずいの食っちまった
んだ」「エッ、うちより!?」には笑った笑った。それでいて最初のそば屋が七輪を
扇ぐ動きのキレの良さ!爆笑・萬橘の誕生にますます期待しよう。

★金兵庫さん『七段目』

声柄に弱味はあるものの、平右衛門はちゃんと平右衛門らしく演じている辺りに考え
方の確かさを感じる。サゲの「いいえ、染五郎」も受けた。また、高座姿に佇まいが
あるのは、最近の若手では珍しい(一之輔師みたいに高座姿にドスが利くとも一寸違
う。「落ち着いたキザさ」とでもいうかな)。

◆10月31日 新宿末廣亭余一会夜の部・第四回柳家小満ん独演会(新宿末廣亭)

市楽『六銭小僧』/一九『黄金の大黒(上)』/小満ん『王子の幇間』/勝丸/小満ん『抜け雀』//~仲入り~//小燕枝『千早振る:モンゴル編』/小菊/小満ん『猫の災難』

★小満ん師匠『王子の幇間』

本来のサゲまで。「嫌な奴を面白く描く」、それも「苦味を感じさせずに描く」のは
実に難しいことだけれども、憎まれ口きき・皮肉屋の平助が明快で軽妙(かつ粗忽さ
も感じられる)に可笑しいのには唸っちゃったね。サキの短編を落語化する参考にも
なりそうな高座。

★小満ん師匠『抜け雀』

「この噺は小満ん師でも流石に志ん生師匠のまんまか」と思わされていて、終盤見事
にうっちゃられた。相模屋が摺る墨を称して「ねっとりとしてくる」といったのは巧
いセリフ。老絵師は下に枕を二つ置かせて、籠でなく雀を塗り潰すように竹藪を描
く。「なるほど」と感嘆。最後、相模屋は衝立を加賀守に譲らず、家宝にするといっ
て若い絵師を喜ばせる。絵師は喜んで衝立の裏に讃と川柳を記す。鮮やかに、風雅に
して酒脱な小満ん師の世界で締め括られた。そして、若い絵師が勘定を六十両支払っ
て「(大久保加賀守のつけた絵の代金、二千両と比ぶれば)雀の涙だ」とサゲる。「蜘
蛛駕籠」の説明不要だったのに納得。

★小満ん師匠『猫の災難』

酒の呑み方がかなり速く、尺の短い辺り、小満ん師のせっかちさの反映であろうか。
目白の師匠とは違う江戸っ子酔っ払い噺の面白さである。

★小燕枝師匠『千早振る:モンゴル編』

なんと龍田川がモンゴル出身!ついに鯉昇師の世界が落語協会の、それも柳家の重鎮
にまで伝染を始めたのか?!まあ、小燕枝師らしい御遊びでもある。

-----------------------------------------------------以上、下席------


石井徹也(落語”道落”者)

投稿者 落語 : 2012年11月04日 09:36