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2008年10月11日

芸歴128年の二人会! 第22回「浜松町かもめ亭」

10月8日(水)、文化放送・メディアプラスホールにて、第22回「浜松町かもめ亭」が開催されました。

番組は下記の通りです。

一、寿限無    立川こはる
一、親子酒    金原亭馬治
一、長短      桂小金治
      中入り
一、景清     三遊亭金馬


(詳しいレポートは近く「浜松町かもめ亭」公式サイトhttp://www.joqr.co.jp/kamome/にUPされます

今回の眼目は、東西の落語界で最長の芸歴を持つ三遊亭金馬師匠と、近年、落語の高座に復帰され、素晴らしい芸を披露されている桂小金治師匠の顔合わせにありました。

芸歴は金馬師匠67年+小金治師匠61年=合計128年!
実年齢は金馬師匠79歳+小金治師匠82歳=合計161歳!

もちろん年数だけが重要なのではありません。
桂小金治さんの「長短」は、枕をのぞけば本編わずか十分ほどの噺ですが、そこに凝縮された芸の密度は五代目小さん亡き後---私にとって小さんの最高傑作は「長短」でした---ここよりほかにはみられないものでした。

会の翌日、来場されていた落語研究家・保田武宏氏、フジテレビアナウンサー・塚越孝氏からも小金治さんを賞賛するメールをいただきましたが、ご両人共に仰っていることは、ここに古風な、正統なる芸が保存されていると言うこと。
小金治さんの芸は、十代から二十代にかけて正しい習得をし、その芸をそのままに氷結させたものです。(ここでは、永らく落語界を離れていたことがプラスに作用しています。芸が流行や時代風潮に影響されていないのです)

長短の長さんは愚鈍ではなく、ただ、気の長い人です。短七さんは、これまた単に気の短い人で、彼らは人を笑わせるために行動を起こしているわけではありません。小金治さんの口演は、登場人物が彼らの思う善意のままに行動し、その結果として破綻(サゲ)に至ります。笑いのためになにかをするのではなく、性根をもった人間が動いているので、短七が「人にものを教わるのは大嫌いだよ。でも、おまえは別だよ」という台詞が効いてきます。

無駄な装飾を省いた簡潔さの美しさ面白さが小金治落語にはありました。
落語はちゃんと運べば、おのずからその面白さを現すのです。
「長短」の十分間は、現代落語最高峰の十分間であったことをここに記します。

金馬師匠の「景清」はすでに代表作の一つとして高い評価を受けています。
(ちなみに当代正蔵の佳きもの「景清」は金馬師匠から継承されたものです)

「景清」は落語にしては珍しく、信仰による奇跡がストレートに描かれたもので、その意味で先行芸能に通底するタッチをもっています。(浄瑠璃の20世紀的展開である浪花節によく似た噺「壺坂霊験記」があり、かつては人気演目としてよくしられていました。左様に落語的というよりは古浄瑠璃的な主題の噺です。ヨーロッパに行くとよくある「この湧き水を飲んで腰が立った」などの伝説と同じ内容です)

現代の落語家が手掛ける「景清」は信仰の度合いが薄く、その反面、登場人物が過度に心理的になりがちなものですが---演者自身が信仰による奇跡を信じられないためバランスをとろうとしてそうなるのですが---金馬師匠の口演は、「信仰によって目が開いた」という主題が鮮明です。満願の日にお念仏を唱える型や、仏罰を嘆く台詞、見返りを求めずにいついっかまでもお参りをするのがすなわち信心だと語る場面など、これほどてらいなく、演者の地声として語れる人はほかにいないと言ってもよいでしょう。

金馬師匠の落語界入りは、第二次大戦中の昭和16年(1941年)。
さきの大戦中からの落語家は、いまや金馬師匠おひとりです。
(余談ですが、十代目金馬亭馬生師匠は昭和18年入門で、金馬師匠の後輩!です。米朝師匠や米丸師匠は戦後入門組です)

金馬、小金治、落語界の至宝二人の芸を堪能していただけた今回の「かもめ亭」でした。

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さて、次回「浜松町かもめ亭」は11月11日(火)の開催。
新真打、春風亭百栄、三遊亭兼好の二人会です。
ぜひご来場下さい。

また十一月公演のロビーにて12月公演「立川流忘年会」、大晦日の「正蔵・喬太郎二人会」のチケットを販売いたします。
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次回もご来場をお待ちしています。

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参考。
金馬師匠には自叙伝「金馬のいななき」があります。
この本の構成(聞き書き)を担当させていただきました。
手前味噌ですが、昭和演芸史の貴重な話が、ぎっしり詰まった本です。
また「en-taxi」という雑誌(2008年春号)に金馬師匠の聞き書きも書かせていただきました。
こちらは「戦前・戦時中の寄席」がテーマです。
あわせてお読みいただければ幸いです。

松本尚久 (浜松町かもめ亭プロデューサー・放送作家)

投稿者 落語 : 2008年10月11日 03:04