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2017年01月11日

第156回直木賞直前予想(1) 『十二人の死にたい子どもたち』

選考会の日が近づいてまいりましたので、本日より直木賞予想をスタートいたします。

では順に候補作をみていきましょう。
トップバッターは冲方丁(うぶかた・とう)さんの『十二人の死にたい子どもたち』です。

冲方さんといえば、これまでSF小説『マルドゥック・スクランブル』
時代小説『天地明察』のような話題作を発表してきました。

冒頭からいきなり脱線しますが、小説だけでなく、昨年出版された
『冲方丁のこち留 こちら渋谷警察署留置所』もむちゃくちゃ面白かった。
奥さんに暴力をふるった濡れ衣を着せられ逮捕された顛末(結果は不起訴)を綴った本書は、
もしも冤罪で身柄を拘束されるなんて目にあった際に役立つ知識が満載でした。

そんな彼がデビュー20周年を迎えて挑んだ本作はミステリー。しかも密室ものです。

インターネットの自殺志願サイトを介して廃病院に集まった見ず知らずの子どもたち。
ところが、全部で12人のはずが、そこにはすでに謎の“死体”が横たわっていました。

予期せぬ13人目の登場に動揺した子どもたちは、話し合いを始めます。
その過程で次第にそれぞれの「死にたい事情」が浮き彫りにされて……というお話。

ストーリーはきわめてロジカルに設計されています。
12人のキャラクターがうまく対立構造になるように配置されている。
たとえば、亡くなったアイドルの後を追おうとしているファンがいるかと思えば、
そんな理由で死ぬのは自分勝手すぎると反発する人物がいる。

そんな彼らが戦わせる議論がこの作品の読みどころのひとつ。
対立点をうまく利用した話し合いで読者を引っ張っていく作者のテクニックはさすがです。

そしてもうひとつの読みどころが密室の謎解き。
なぜそこに“死体”があるのか。
これも子どもの「死にたい理由」とうまくリンクしていて、なるほど!の真相になっています。

でもそれ以上にこの作品の読みどころになっているのは、
議論を繰り返すなかで、子どもたちの性格やそれぞれの事情が明らかになっていくところでしょうね。
主張をぶつけあううちに、それぞれの人間性が剥き出しになっていく。
この人間ドラマこそが本書の最大の魅力ではないでしょうか。

ただ、「密室」という作り物めいた舞台装置と、
論理的に構築された「対話」でストーリーを進めていくという手法のせいで、
作品全体からはどうしても理のほうが勝っている印象を受けてしまいます。
読者の感情を揺さぶるというよりも、理詰めな感じが先に立つというんでしょうか。
このへんが選考会でどう評価されるかが気になります。

投稿者 yomehon : 2017年01月11日 00:00