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2014年03月16日

ノンストップ!航空機スリラー


マレーシア航空機が消息を絶ってから1週間以上になりますね
従来の墜落事故説に加えてハイジャック説まで出てきたこの事件、
不安に押し潰されそうになりながら大切な人の帰りを待つ人々のためにも、
早く真相が明らかになることをお祈りしています。


航空機事故はこれまでたびたび小説の世界でも取り上げられてきました。

なかでも近年もっとも成功した作品は、
『クラッシャーズ 墜落事故調査班』デイナ・ヘインズ 芹澤恵・訳(文春文庫)でしょう。


「クラッシャーズ」の英語表記は、Crashers。
crashは「墜落」を意味し、これにerがつくと「墜落事故調査官」を、
複数形のsがつくと、「墜落事故調査班」を表します。

物語は、オレゴン州のポートランド国際空港からロサンゼルスに向けて、
カスケード航空のジェット旅客機フェルメール111型機が離陸するところから始まります。
女性機長のメーガン・ダンヴァースはキャリアも技術も申し分ないプロフェッショナル。
しかも機体にはガムラン・インダストリーズ社が開発した
最新鋭の新型FDR(飛行データ記録装置)も搭載されていました。

にもかかわらず、離陸後間もなく同機はコントロール不能になり、墜落してしまいます。

たまたま学会でポートランドを訪れていた病理医のトミー・トムザックは、
すぐさま墜落現場へと急行します。
彼はNTSB(国家運輸安全委員会)の調査官だったのですが、
ある出来事をきっかけに現場を去っていました。

地獄と化した事故直後の現場で、トミーは陣頭指揮をとることになります。

一方、トミーからの急報を受けた
航空機事故主席調査官のスーザン・タナカは、
ただちに現場派遣チームの編成に着手。

原子力潜水艦でソナー屋をやっていた音の専門家で、
操縦室音声記録装置の解析を担当するキキことキャサリン・デュバルや、
元ボーイング社エンジニアで機体の構造分析を担当する
ウォルター・マローニーら7名のスペシャリストが招集され、
アメリカ運輸省所属の航空機事故調査チーム「クラッシャーズ」が結成されます。

最新鋭の航空機であるフェルメール機はなぜ墜落したのか。
原因は機体の不具合か、それとも操縦ミスか。
クラッシャーズは少ない手掛かりから
事件の真相へとつながる糸を手繰り寄せていきます。

そんな中、第二の墜落の危機が刻一刻と迫っていました……。

本書上巻の帯には、堂場瞬一さんが、
「エンタテインメントに欲しい要素が全て詰まっている」
と絶賛コメントを寄せていますが、まさにおっしゃる通り!

この小説には、墜落事故の謎解きの面白さはもちろんのこと、
クラッシャーズの面々が反目し合いながら真相へと迫って行く群像劇の面白さや、
専門家がどんな点に着目しながら調査を進めて行くかというお仕事小説の面白さ、
あるいはかつて男女の関係にあったトミーとキキの恋の行方などいろんな要素が詰まっています。

でもなによりもこの小説を、
そのへんのエンタメ作品と一線を画す深いものにしているのは、
過去の航空機事故調査で挫折を経験し、いちどは現場を去ったトミーが、
再び調査に加わって、逆風の中、自分を取り戻して行く過程が描かれているところでしょう。


さらに本作では、脇筋として、
航空機墜落に関わっているらしき連中に武器を売る、
ダリア・キブロンという謎の美女の話も出てきます。

ところが物語が進むにつれて、
彼女の意外な素性が明らかになり、
当初脇筋だと思われたダリア・ギブロンの物語が、
本筋の航空機墜落事件の真相解明に深く関わってくる。

このあたりのサイド・ストーリーの絡め方も実に巧みです。

NTSB(国家運輸安全委員会)が
運輸省内に設立されたのは1967年のこと。
その後、75年に運輸省から切り離され、
大統領直属の独立機関となり、航空機事故から高速道路の事故、
海難事故などにいたるまで事故原因の究明を行っています。


この小説を読んでぼくはボーイング787型機のことを思い浮かべました。
「精密機器の固まり」と評されるほどのハイテク機ですが、
就航以来、原因不明のトラブルが頻発してます。
当然のことながらコンピュータは万能ではありません。
(ちなみに本作でも最新技術が事件の大きなカギを握っています)

クラッシャーズが現実世界では出動しないことを祈るばかりです。


小説ではなくノンフィクションの分野で、航空機事故を扱った作品では、
日航機墜落事故を扱った吉岡忍さんの『墜落の夏』(新潮文庫)が白眉。
人によっては読むと飛行機に乗れなくなる可能性もありますが、
二度と悲劇を繰り返さないためにも永く読み継がれるべき傑作ノンフィクションです。

投稿者 yomehon : 2014年03月16日 14:11