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2008年11月03日

 お待ちかねディーヴァーの新作にニューヒロイン登場!


「うーんまたこれか・・・・・・」

本を読みながら思わず呟いてしまいました。
この人の小説を読むたびに繰り返されるお馴染みのパターン。
なにしろ、すでに犯人の命運は決しているにもかかわらず、
ぼくの手元にはあと100ページ近くが残されているのですから――。

普通のミステリーであれば犯人の正体が明かされたところで物語は終わり。
ところがジェフリー・ディーヴァーの場合は例外です。
普通のミステリーが終わるところから、さらに驚きの展開が待っている。

今回はいったいどんな「どんでん返し」を見せてくれるのでしょうか。
ぼくは再びページをめくり始めました――。


世界中でいまもっとも新作が待たれる作家、
ジェフリー・ディーヴァーの最新作
『スリーピング・ドール』池田真紀子・訳(文藝春秋)は、
あのリンカーン・ライムを主人公にした人気シリーズからのスピン・オフ(派生)作品です。

リンカーン・ライムは、四肢麻痺のハンデを負いながら、
犯行現場に残されたわずかな物証をもとに殺人犯を追い詰める天才犯罪学者。
ディーヴァーが生み出した現代ミステリー界屈指のヒーローです。

ライムシリーズの醍醐味は、なんといっても解決不可能と思われた事件が
わずかな科学的物証によって解き明かされていくプロセス。
現場から発見された極小の繊維片や微量の化学物質といった証拠物件が
次々とホワイトボードに書き出され、ライムがそのひとつひとつに(時にはベッドの上で、
また時には車椅子に乗りながら)検証を加えていく光景はシリーズではお馴染みです。

この天才犯罪学者と殺人犯との「知恵比べ」が
毎回物語の大きな魅力となっていますが、前作『ウォッチメイカー』では、
袋小路に入りかけたライムの捜査を手助けするひとりの女性が現れました。

彼女の名前はキャサリン・ダンス。

カリフォルニア州捜査局捜査官をつとめる彼女は「キネシクス」のエキスパートです。
「キネシクス」とは、所作や表情の変化などから相手の内面を読み解く技術のこと。
彼女は尋問のプロであり、またいかなるウソも通用しない「人間ウソ発見器」なのです。

ライムが物的証拠を扱うプロフェッショナルであるのに対して、
ダンスは人間を扱うことにかけてのプロフェッショナルといっていいでしょう。
『ウォッチメイカー』の事件は、この一見対照的な捜査手法を得意とするふたりが
協力することで解決へと向かうのですが、キャサリン・ダンスの名は、「キネシクス」という
耳慣れない単語とともに深く印象に残りました。


『スリーピング・ドール』は、そんなキャサリン・ダンスを主人公にすえた一作。

ある日、裕福なIT会社経営者一家を惨殺した罪で
収監されていたカルトの指導者ダニエル・ペルが脱獄します。
キャサリン・ダンスみずから捜索チームの指揮をとるものの
人の心を操る技術に長けたペルは、大胆に捜査の裏をかき逃げ続けます。

鍵を握るのは、かつてペルとともに暮らしたことがある3人の女たち。
そしてもうひとり、惨殺事件の唯一の生き残りの少女。

心を閉ざす彼女たちの前に立つキャサリン・ダンス。

尋問のプロは果たして彼女たちの心を開かせ
手がかりを得ることができるのでしょうか――。


物語の読みどころはまず
「キネシクス」の技術がどのようなものかじっくりと描かれていること。
人がウソをつくときにはどんな徴候があらわれるか。
ウソつきにはどのようなタイプがあるか。
尋問するのに最適な「距離」はどれくらいか、などなど。
このような知識を駆使したダンスの尋問シーンは読み応え十分です。

ところが、そんな「キネシクス」の達人も
プライベートな問題に関してはひとりの無力な母親だったりします。
(ダンスは夫と死別し複雑な年頃の子どもを2人抱えています)

この仕事でのスーパーウーマンぶりと、
子どもとの距離のとりかたに悩むごく普通の母親像とのコントラストが、
キャサリン・ダンスというキャラクターに奥行きを与えています。
さすがディーヴァーはエンターテイメント小説の手練れだけあって、
主人公のキャラクターがしっかり「立って」いるのはお見事。

そして冒頭でも触れましたが、ディーヴァー作品といえば
どうしても「どんでん返し」に言及せざるを得ません。

本来であれば書評で
「この小説には最後にどんでん返しがありますよ」
などと前もって予告するのは、読書の興を削ぐ明らかなルール違反。

でもディーヴァーに限っては事情が違います。
この人の小説で「どんでん返し」があるのは当たり前。
問題はそれがどれくらい我々を驚かせてくれるか。
それがもっとも重要なポイントなのです。

ではこの『スリーピング・ドール』の「どんでん返し」は???

それはぜひあなたの目で確かめてみてください。
なお、この『スリーピング・ドール』は、
これまでのライムシリーズを読んでいなくても十分楽しめます。
予備知識は不要ですのでご心配なく。

投稿者 yomehon : 2008年11月03日 01:01