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2006年08月23日

新しい小説の「方程式」

「あのさ、その小説がどんな話かというとね、
大学に入学したばかりの新入生がサークルの新歓コンパで
すごく可愛い同級生の女の子に出会って恋しちゃうわけよ・・・」

もしも、読んだことのない小説についてこんなふうに説明されたら、
あなたはその小説を「読んでみたい!」と思いますか?

思わないな。きっと。
だって、キャンパスで新しい出会いがあって、みたいなストーリーは
あまりにもありふれたものだし。
そんな小説、わざわざ読みたいとは思わない。


じゃあもっと詳しく、
たとえばこんなふうに説明されたらどうだろう?

「そのサークルっていうのが変わったサークルでね、
新入生の上は3回生しかいない、つまり2回生が存在しないんだ。
2年ごとに新しいメンバーが加わるという奇妙なルールがあるんだよ。
しかも驚くなかれ、現在のサークルの会長はなんと第499代目になるんだ!」


そんな面白そうな小説、読みたいに決まっている!!


『鴨川ホルモー』万城目学(産業編集センター)は、
いってみればルーキーが初打席でいきなり放ったホームランのような小説。
いやーおみそれしました。
この発想力、筆力、新人作家のデビュー作とはとても思えません。


そもそも「鴨川ホルモー」とはなにか。

Q:まず「鴨川」とは?
A:これは簡単。京都の鴨川です。

Q:では「ホルモー」は?
A:これはですね、京の都に代々伝わる競技の名称です。

Q:どんな競技?
A:うーん、説明が難しい。あのですね、ホルモーとは、
 式神や鬼を自由に使って行うある種の対戦型競技です。

Q:えっ!?その競技はどこかで観戦できたりするんですか?
A::できません。ふつうの人には鬼はみえないのです。
  特別に選ばれ、訓練をつんだ者だけが鬼を呼び出し、使役することができます。


そう、この小説は、
「ホルモー」という、京の都で千年の長きにわたって伝えられてきた
伝統を受け継ぐハメになった大学生を主人公にした、類例のない青春小説なのです。


陰陽道に詳しい人はご存知だと思いますが、
京都は御所を中心に、東に青龍、西に白虎、南に朱雀、北に玄武と配置された
四神に守られた都です。

そしてちょうどこの位置には、うまいぐあいに大学があるのです。
すなわち東は京都大学、西は立命館、南は龍谷大、北は京都産業大学。

さらにこの4大学にはホルモーを競い合うサークルが存在します。
すなわち京大青龍会、立命館白虎隊、龍谷大フェニックス、京産大玄武組。
この4サークルが行う対抗戦が「ホルモー」というわけです。

「ホルモー」のルールを簡単に説明しましょう。

1チームは10人。1人につき、100匹の鬼が使えます。
競技者は「鬼語」を使って鬼を自由に動かし、敵の鬼と戦わせます。
ですから、ゲームが行われる場所(神社であったり河原であったりします)には、
20人の競技者と、彼らに使役される2000匹の鬼がひしめきあうことになります。

試合はどちらかのチームの鬼が全滅するか、
どちらかの代表者が降参を宣言するまで続きます。

ちなみに「ホルモー」というのは、
勝負を続けられなくなった競技者が最後に耐えきれず叫ぶ言葉。
敗者は声の限りを尽くしてこの言葉を絶叫しなければなりません。

なぜ「ホルモー」などという響きの言葉なのかについては
物語の最後のほうで明らかにされます。
また、「ホルモーーー!!」と絶叫して脱落した競技者には、
試合後、「ある変化」がおきます(うーん、ここでバラしてしまいたい・・・)。

どうですか?「読んでみたい!」と思いませんか?

この小説の面白さは、
「陰陽道」と「スポーツ」と「青春キャンパスライフ」というバラバラな要素を
三題噺のように見事に結びつけてみせたところにあります。

まさか「陰陽道」+「スポーツ」+「青春キャンパスライフ」の方程式から
こんな面白い小説が生まれるなんて!

異質な要素を結びつけることで、これまでみたこともないような物語が生まれる。

ぼくはこの方程式こそ、いま多くの若手作家によって書かれている
ライトノベルに代表されるような新しい小説に共通した方程式ではないかと
にらんでいます。

そんな時代の最先端をいく小説についてのお話は、いずれまた機会をあらためて。    

投稿者 yomehon : 2006年08月23日 23:30